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第25話(累計 第72話) 学院の闇その五:一騎打ち! 狂戦士との闘い。

「俺は強い相手とは戦いたい。植杉、俺と戦ってはくれないか? お前は強い。多分、俺が出会った中で最強だ」


「お褒め頂きありがとうございます、センパイ。そうですねぇ、殺し合いじゃないというのなら試合をお受け致しますよ?」


 ただ一人残った特別クラス剣道部のセンパイ。

 彼は恨みや頼まれた事とは別に、僕とは戦いたいという。

 礼儀は正しいものの、殺気を一向に消さない彼。

 もし、ここで僕が勝負を受けなかったらアーシャちゃんを襲って人質にしそうな気がする。


 ……殺しても良いのなら、アーシャちゃんの方が僕よりも強いんだけどね。


「マモルくん……。勝てるの?」


「さあ、どうだろうね? 獲物は長い方が有利だけど」


 心配そうなアーシャちゃんに視線を向けず、センパイの方だけを観察する僕。


「では、北辰一刀流、サカキ。参る!」


「植杉マモル! 行きます!」


 お互いの名乗り合いから戦いが始まった。


「く! 早い」


「なんだとぉ。俺の剣閃が読まれるだとぉ」


 正眼の構えな木刀の切っ先が、様々な方向から僕に襲い来る。

 僕はセンパイからの気配と足さばき、重心の移動から攻撃を読み、躱したり小手で弾いたりして間合いを読む。

 間違っても特殊警棒で受け止めたら、折られて負けだ。


 ……これ、剣道だけじゃなくて正式に色んな流派の剣術を習ってるよね。だって……。


「ぃやぁぁ!」


「ひゃ、危ない!」


 木刀を脇構えにしたと思ったら突撃、そこから居合の様に見にくい角度からの斬撃をしてくるセンパイ。

 僕は逆にセンパイの向かって左前に踏み込み、振り返って両手の小手で斬撃を受け止めた。


「ぬわぁにぃぃ! 俺の必殺剣を受け止めるとはぁ!」


「技を受け止めるだけなら、なんとかね」


 ……爺ちゃんに剣使い相手の戦い方聞いてて良かったよ。構え方からどんな斬撃が来るかを全部『身体』で覚えさせられたもん。痛かったんだよぉ!


 日本の一般的な剣術流派、そしてドイツ剣術などなど。

 なんでも簡単に再現する爺ちゃん相手で、僕は身体中に内出血の青アザを作ったのを思い出しながら戦う。


「ふぅふぅ。植杉! お前は俺の想像通り、いや想像以上だ。はははは、秘剣に必殺技。初見の技を全部見切るとは恐ろしい。ああ、恐ろしいからこそ、面白れぇ! ぎゃははは」


「ふぅー。僕の方こそ驚きました。まだ未成年で剣豪クラスの使い手。正直、僕は身を守るのが精一杯。攻める手が思いつきません」


 少し間合いを離し、お互いに息を整えながらのお見合い。

 センパイからの殺気がますます強くなるのが怖いが、殺気を読めれば技もある程度は読める。

 何処を攻撃してくるのかさえ見切れれば、受けきるだけなら可能だ。


 ……問題はスタミナ切れだよね。いくら僕でもこのまま戦うのはしんどいよ。でも、センパイ。なんか、変だなぁ。妙に興奮してるし、表情が怖いなぁ?


 夜の公園。

 周囲は赤色灯に囲まれ、既に僕の戦略的な勝利は間違いない。

 警察が公園を包囲するまでの時間稼ぎには成功しているのだから。


「はぁはぁ。センパイ、そろそろ辞めませんか? このままじゃ、二人とも決闘罪で逮捕されちゃいますよ? 警察が取り囲んでいるのが見えるでしょ?」


「警察だぁ? そんなの俺達の決闘には関係ねぇ。どっちかが、負けたっていうか死ぬまで決着はつかねぇんだ! 時間が無いか、しょうがねぇ! 俺は『とっておき』を使わせてもらうぜ!」


 息を半分切らしながら挑発まがいの降伏勧告を僕がすると、興奮しすぎて戦いの事しか考えていないセンパイは懐から何かを取り出して口に放り込んだ。


「……ぐははは! もう、俺は無敵だぁ! 植杉ぃ、死ねぇ!」


 バリバリと音を立てて何か、おそらく錠剤らしきものを数錠噛み砕いたセンパイ。

 白目を真っ赤に充血させて僕に飛び掛かってきた。


「う、うわぁ! さ、さっきよりも早い!」


 予備動作の殆どない突き、僕はセンパイの放つ殺気に身を震わせてなんとか避けた。


「うははは!」


 狂気に侵されたように笑いながら斬撃を繰り出すセンパイ。

 先程までの華麗な剣術ではない。

 型も何もない、ただ膂力(りょりき)にまかせての攻撃。

 しかし、なまじ型が無い分、攻撃の予想が難しい。

 そしてどんどん攻撃は早くなる。


「これは、不味いかもぉ!?」


 僕は仕方なく間合いを取りつつフットワークで逃げるが、どんどん公園の端に追い詰められていく。


「し、しまったぁ」

「マモルくん、危ないわ!」


「ぐふふふ、死ねぇ。死ねぇ」


 ジャングルジムの側まで追い詰められた僕。

 ジャングルジムを背にして、迫りくるセンパイの攻撃を待つ。


「死ねぇ!!!」


 狂気に捕らわれたセンパイが、神速の突きを僕に送る。

 避けなければ、木刀でも僕を貫き殺す程の一撃だ。

 薬物の効果からか、理性が完全に飛んでいる。


 ……ハマった! 理性ない攻撃は隙ばかりだよ。


 僕はセンパイの目に目掛けて警棒を投げる。

 そして重力に身を任せ、脱力した。

 更に足を開脚する事で、高速にしゃがみ込んだ。


「なぬぅ?」


 多分、警棒が邪魔をしてセンパイの視界から僕は急に消えたのだろう。

 僕の頭上をセンパイの木刀が通りすぎ、背後にあったジャングルジムの隙間にガチンとハマる。


「ここだ!」


 僕はジャングルジムに邪魔されて木刀を思い通りに動かせないセンパイに向かって、立ち上がりながら右手掌底で顎をグイと押した。

 そのまま右手を下から左腕で肘からドカンと打ち上げる。

 これぞ、裡肘托塔(りちゅうたくとう))


 僕は完全に仰け反ってしまったセンパイの手を持ちつつ、足払いしてそのままドンと地面に叩きつけた。


「ぐはぁ!」


 後頭部が地面に当たらないように引き上げたのだが、それは余計に脳を揺らす。

 背中の強打と脳震盪。

 これを同時に行うのが当て身投げの一種、入り身投げだ。


「はぁはぁはぁ。もう起きてこないでよぉ」


 念のためにセンパイから奪った木刀を遠くに投げて、泡を吹いて倒れ動かないセンパイを観察しつつ残心をする僕。


 ……息はあるから死んでは無いよね? 頸椎が折れる程の強打はしていないし。ただ、手加減もいい加減だったから、むち打ち症状は出ちゃうかも。ゴメンね、センパイ。


 周囲から走り寄る制服警官と救命救急士を横目で見ながら、僕は大きく息をした。

 そして剣道部センパイも警察に確保されたのを確認後、ようやくアーシャちゃんを見た。


「アーシャちゃん。僕、勝ったよ!」


「うん、マモルくん。やっぱり私の王子様なのぉ!」

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