第23話(累計 第70話) 学院の闇その三:疑似餌に引っかかる獲物。
「アーシャちゃん、やっぱり凄いね」
「マモルくんも、凄いと思うの」
「あのぉ。総合二位の某を褒めては下さらぬか?」
「ウチ、いつもどーりあかんやったわ!」
二学期期末試験が終わり、今日は結果が発表された。
昨今では個人情報保護の名目で、上位だけでも個人順位が公表されることはまず無い。
しかし、この学院では特別クラスの存在もあり、各学年百人くらいは名前と順位が公表される。
……周囲の反応を見るに、どうやらいつもは特別クラスで上位独占みたいだね。
掲示板に張り出された順位表の前で、学生たちは騒ぐ。
普段であれば特別クラスに独占されていたNo1の座を、短期留学に来ている者が奪ったからだ。
「どうして、あんな子が総合一位に?」
「ほぼ百点満点だなんて!」
「俺達は特別クラスだぞ? どうしてあんな奴に負けなきゃならん!」
制服に金色のエングレービング状の刺繍をされた子達。
彼らこそが特別クラスの子達。
制服からして特別、高級感を示しているのだが、彼らの表情がとても険しい。
アーシャちゃんに対して、特別クラスの子達全員がまるで刺す様な視線を浴びせているのだ。
「アーシャちゃん。早くここから離れよう」
「そうね。わたし、負け犬の遠吠えなんて聞きたくないですから」
アーシャちゃんを心配して掲示板前から離れようとした僕。
でも、アーシャちゃんは特別クラスの子達を一瞥した後、逆に強烈な一撃を返した。
「アーシャはん、きついなぁ」
「アーシャちゃん、少しは気を付けなきゃ」
「で、某が総合二位だったのは褒めて下さらぬのか?」
僕たちは痛い視線を受けながら、掲示板前の群衆から去った。
◆ ◇ ◆ ◇
「アーシャちゃん。さっきの一言は撒き餌なのかい?」
「ええ、そうよ。こっちから接触出来ないのなら、向こうから接触してもらうためにね」
今は放課後、僕たちは二人そろっての帰宅中だ。
なお、僕は総合で百位ぎりぎり。
リナさんは赤点は脱したものの、追試対象になっていた。
……すっかり無視された形になってたけど、総合二位はユウマくん。今回もポカミスでアーシャちゃんに勝てなかったと文句を言っていたんだ。
「で、付いてきてる、マモルくん?」
「うん、結構人数多いね。重心や姿勢、歩き方からして運動系の特別クラスの子が多いかな?」
普段は父さんに登下校時に送ってもらう僕とアーシャちゃん。
今日はゆっくり帰りたいと二人で徒歩&電車で帰宅中。
しかし、僕らのデート帰宅を邪魔する奴らが尾行してきている。
……人の恋路を邪魔る奴は、ウマに蹴られて死んでしまえって言うけど、僕も容赦しないぞ。まあ、殺さないけど、死んだ方がマシにしてやろうかな?
「やっぱりね。でも、これで直接に特別クラスの子と『お話』出来るわ」
「まあ、戦えないユウマくんとかリナさんが襲われなくて良かったよ」
……ユウマくんも特別クラスを学業で撃破したんだけど、アーシャちゃんの存在が大きすぎて目立っていないのは、ある意味ラッキーだね。
リナさんはお母様が、ユウマくんは真雪先生が学院まで送迎している。
なので、まず一安心だ。
「じゃあ、予定の場所まで連れて行って、そこで倒しちゃいますか?」
「そうね、マモルくん。さっき、お義父様。あ、係長に連絡をしておいたわ」
少しずつ距離を詰めてくる尾行者。
ただ、殺気と視線が消し切れていないので、もろバレだ。
「でもね、マモルくん。テストもそうだけど殺気感知も凄いわ。私よりも感度良いんだもん」
「まあ、そこは爺ちゃんに鍛えてもらったのもあるし、元々カンが良いみたいなんだ。チビちゃんの時も話したけど、人の感情とか動きが先に見えたりするし」
夕闇が迫る中、僕らは少しずつ人が少なくなる郊外に足を進めていった。
◆ ◇ ◆ ◇
「さあ、そろそろ出てきたらどう? とっくの昔に尾行されてたのは気が付いてたのよ、わたし達」
「だよね。あまりにお粗末な尾行なんだもん」
郊外の無人な児童公園。
ジャングルジムや鉄棒、ブランコなどの遊具があるが、夕闇が迫る今は誰もいない。
「メスガキがぁ。お前の様な奴が偉そうにしやがって」
「ああ、そうだ。短期留学の一般生が特別クラスのボク達に勝つなんて間違いに違いない。その間違いを正してやる!」
僕らを囲みこむ10人程の男子学生。
どうやら大半が運動分野の特別クラス生で上級生。
素手の奴だけでなく、木刀やバットを持つ者もいる。
……武道系の部活の子もいるのか。ナイフとかも隠し持ってるかもね。僕も武器、準備してて良かったよ。
「か弱い女の子相手に武器を持った上級生が沢山。一体、どれだけ卑怯なのかしら?」
「ふん。ボク達は油断しないのさ。バージン奪うは勘弁してやるけど、裸にして公園に放置してやる。そっちのカレシも可愛いから同じように裸に剥いちゃおう。ぐふふ」
アーシャちゃんの挑発に、学業部門特別クラス生らしい眼鏡の男子生徒が嫌らしい笑みを浮かべる。
僕は、下品な男子生徒に怒りを覚えながら、カバンから出した金属製小手を両手に装備した。
……指抜き小手だから、投げ技も使えるんだよ。今日は、爺ちゃんに教えてもらった技を全部使ってみよう。正当防衛だし、ミッションの成功にもつながるし、良い実験台だね。
「じゃあ、手加減は要らないわね。でも良かったわ。今日は銃を持ってきていないから、貴方達は撃たれないの」
「何を言いやがる、このクソメスガキが!? さあ、先輩。お願いします」
「おお。じゃあ、そこのチビガキからいくぜ。なんだ、震えているのかい? 可愛い顔しやがって、まるで女みたいだな。でも、俺は手加減しないぜ。ふっとべや!」
僕よりも一回り大柄な男子生徒が僕を殴りつけに来た。
ちゃんとしたストレートパンチ。
型と体重移動、歩き方からボクシング使いと僕は判断した。
……これならミドル級くらいかな? ボクシング選手って投げ技と関節技には弱いんだよね。
「じゃあ、お手柔らかに」
僕は殴りつけてくる相手に、自分から踏み込んでいった。




