第7話 柊さんの素顔。僕は彼女にますます好意を抱く。
「植杉くんだから、わたし許したのよ? そこは分かってるの?」
「もちろんだって。そういえば、柊さん。普段は髪を降ろしているのに今日はポニーテールなんだ。その髪型も可愛いね」
「ちょ、植杉くん。さっきから何かとわたしの事を綺麗だとか、可愛いとか? は、恥ずかしくないの?」
「だって、可愛い子に可愛いって言わないでどうするの? 僕、もう吹っ切れたんだ。人生、いつ最後が来るか分からない。だったら、好きとか可愛いとか思ったら相手に伝えなきゃって」
「ははは! もー、さいこー。アリサちゃんから聞いてたけど、植杉くんってホント変な子。でも良い子ね。アリサちゃんをいつも大事にしてくれて、ありがと」
柊さんに、ぽかぽかと叩かれた僕。
今は、柊さんのセーフハウス、隠れ家的なところで縄も解かれ、コーヒーを御馳走になっている。
「いえ。僕、柊さんが困っているのが嫌なので。母に連絡もありがとうございます、先生」
「いいのよ。こうなったら植杉くんにもある程度の事情を知ってもらった方が良いでしょうから。わたしが後で自宅まで送ってあげるから安心してね。あ、明日以降、しばらく学校はガス爆発事故で臨時休校になる予定なの。明後日には宿題出すから、頑張ってね」
「せんせーは、昔から若い男の子に甘いんだもん! わたし、それに植杉くんのことは、そ、そんなに話してないけど?」
顔を真っ赤にしながら両手でマグカップを持ち、猫舌なのか一生懸命ふーふーしながらコーヒーを飲んでいる柊さん。
幼げでふくっれ面をしている様子が、とても可愛く見えた。
「はいはい。アリサちゃんは可愛いね。植杉くんは賢いから、大体の事情は察してくれたのよね。だから、わたしの権限で話せる範囲は説明してあげる。もちろん他言は無用よ。そうしたらアリサちゃんも今まで通り、植杉くんと仲良く。いや、もっと仲良くしてくれるかな? もう植杉くんには『仮面』も必要無いし」
「せ、せんせー! わ、わたし、植杉くんの事は信用してるけど、友達としてなんだからね。ま、間違っても、こ、恋なんて……」
宗方先生に頭をなでなでされてる柊さん。
普段の学校での微笑な「仮面」、僕と通学時の笑顔、そして今の幼げな笑顔。
全部違うけれども、全部可愛い。
出来れば、今の顔をもっと見せて欲しい。
僕は、そう思った。
「もー! 先生、植杉くんのばかー!」
◆ ◇ ◆ ◇
「つまり柊さんは政府公安機関の学生エージェント。今回はテロ対策として学校で戦ったんだね」
「そうよ。貴方も知ってるわよね、秋に開催される国際会議。あれの一環で某国政府高官がウチの学校に訪問するって話になってて、犯人共はウチの学校に爆弾を仕掛けに来てたの。夏前に仕込んでおけば、気が付かれないだろうって」
今日、僕は柊さんのお家、いやセーフハウスでテーブルに向かい合って勉強会をしている。
宗方先生から休校中の宿題が沢山出されたのだけれども、先生から僕の監視を兼ねて勉強会をしなさいという命令が柊さんに出たからだ。
……これって監視じゃなくて勉強デートじゃない? 先生、もしかして僕に気を使ってくれたのかな? 私服の柊さん、とっても可愛いなぁ
セーフハウスは、家具もほとんど無く殺風景で生活感が無い。
隠れ家という意味だし、柊さんは別の家で寝泊りをしていても可笑しくない。
僕が知っている場所という事で、ここが選ばれたのだろう。
そして飾り気のない部屋で、唯一輝いているのが柊さん。
ラフな格好、ショートパンツから見える真っ白な生脚が眩しく見える。
なので、僕は視線をテーブルの下には決して向けられない。
僕は、視線を柊さんの顔に向けて話しかける。
「そうなんだ。じゃあ、この修復作業中ついでに盗聴器とか他にも何か仕掛けが無いかも確認もするの?」
「そうって上からも聞いてるわ。あ、そこ間違ってるわよ? Be動詞の使い方が変よ?」
「あ、ありがと」
僕は、思わず柊さんの顔を凝視してしまう。
その透き通った瞳に、僕は吸い込まれそうになった。
……あれ? 瞳の色が?
「柊さん、違ってたらゴメンね。この間の夜もそうだし、今日もなんだけど瞳の色が学校とは違う気がするんだけど?」
「あ、今日はコンタクト入れてないから。これがわたしの本来の目の色なの。灰色ががった蒼ね。お父さん譲りなんだけど日本人じゃ珍しい色だから、カラーコンタクトで誤魔化してるの。髪の毛はもちろん地毛で染めていないわよ?」
絹糸のような黒髪をかき上げて、綺麗な眼を見せてくれる柊さん。
甘い香りが、髪の毛からふわっと僕に迫る。
僕は色気を感じさせる柊さんの姿を見て、顔がものすごく熱くなる。
そして視線を、思わず柊さんから逸らせてしまった。
「あれ、どうしたの? 自分で質問しておいて恥ずかしくなるなんて。植杉くんってば、可愛いー」
僕を揶揄って笑う柊さん。
その笑顔に、僕は再びドキンとした。
……あれ? 何か変な事言ってるね。日本人ならって? そういえば柊さんは帰国子女だったってユウマくんが言ってたっけ?
「柊さん、帰国子女って友達から聞いたけど、だから英語とかも得意なの? 僕は英語は機械のマニュアルとかはなんとか読めるけど、文学的なのはダメ」
「へー。何処からわたしの事を聞いてきたのかしら。まあ、良いわ。ええ、わたし。子供の頃は外国に居たの。だから、英語、ロシア語は読み書き、会話が出来るの。えっへん! だから、植杉くんも語学ならわたしを頼りなさい!」
ドヤ顔であまり豊かとはいえない胸を張る柊さん。
本当に可愛い。
「ははぁ」
僕は時代劇の様に土下座をした。
「ふふふ! 植杉くんったら、おかしいの」
僕たちは笑いあいながら、宿題を片付けて行った。
「そういえば、植杉くんは今日、何処に行くってご家族にお話したの?」
「友達のところに行くって言ったよ。もちろん、女友達のところとは言わなかったけどね。もし、本当の事を言ったら母も父も妹もびっくりして、柊さんの顔を覗きに来ちゃいそう」
「そうかぁ……。でも、ご家族が仲良しなのは良いよね」
ぽつりと呟いた柊さんの声。
僕は何故か、そこに寂しさを感じてしまった。
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