第22話(累計 第69話) 学院の闇その二:危険な匂いの特別クラス。
「そうなんだ。特別クラスって授業とかも普通とは違うんだね」
「後ね、変な話も聞くから無暗に近づかない方が良いよ、マモルくん。君みたいな可愛いタイプは特にね」
僕らが転校してきて一週間。
徐々にクラスでも話せる友達が増えてきていて、学内の噂話も聞こえてくる。
……学業も運動も普通じゃない特別クラスか。例の薬物汚染されてた子も、特別クラスから追い出されて退学したんだったっけ?
「ぼ、僕ってそんなに危ないの?」
「うん。噂レベルだけど、特別クラス担当の先生に男の子が好きな人も居るって話だしね」
僕は、妙な噂にブルっと震えが来てしまう。
今までも女顔だとか、可愛いとか言われ慣れてはいるが、貞操の危機を感じたことは無い。
昨今のLGBTQとかも、僕自身は他人に迷惑を掛けない限りは本人たちの性的志向は自由だと思っていて、差別をする気などは毛頭ない。
しかし、僕自身がターゲットになるのは正直勘弁して欲しいのだ。
……僕はアーシャちゃんの夫になりたいだけなんだよぉ!
僕が潜入工作員である事がバレる以上に、現状が危険な事に今更気が付く。
もしかして、今回のミッション斡旋をしてきたマトリの人は、僕の容姿すら考慮に入れたのかと思ってしまった。
「情報ありがと。気をつけておくよ」
僕は学友に感謝をして情報を脳内でまとめた。
……特別クラスでは、謎の薬物投与が行われている可能性が高いんだって話だったよね。ドーピング検査も高校生レベルの競技じゃ行われないし。
警察に保護された薬物汚染の少年。
彼は、学業優秀で高天原月光学院の特別クラスへと入学した。
そして様々な特別な授業を受け、成績を更に伸ばした。
なんでも全国模試のトップ10にも入ったとも。
だが僕が聞いた、恐ろしい話。
「特別クラスじゃ、集中力が良くなるって合法なスマート薬が出るんだ。テストはドーピングしても問題ないし、身体にも悪くないってね」
カフェイン、リタリンなど精神に影響を与える薬物、向精神薬がある。
カフェインは合法であり、茶葉やコーヒーなどにも多く含まれるが、わずかながら興奮・覚醒作用がある。
今のところドーピング薬物には含まれはしないものの、海外では大量摂取で死亡例もある。
……アジア系の人は茶を多く飲むから、カフェイン耐性が高い人が多いってのは聞くね。ヨーロッパじゃ、子供に対しコーヒーは飲ませないって話もあるとか。
リタリン、通称メチルフェニデートは覚醒作用が強い薬物。
発達障害に分類されるADHDの子や眠り込んでしまうナルコレプシーの人へは合法的に投与されてはいるが、一般人が覚醒作用を期待して飲むものでは決してない。
……確か、米軍じゃ夜間戦闘用やパイロットに覚醒剤の一種、アンフェタミンを投与しているって話だったよね。怖い話だよ。
薬物により覚醒し学業において好成績を残した少年。
しかしその効果を更に望み、学内での規定量を越えた過剰摂取。
更には外部のヤクザ等から覚せい剤の類を購入し摂取した彼は、学内で幻覚から暴行事件を起こし、退学になった。
学園から追い出された後も、彼は薬物中毒症状から更に違法薬物に手を出して異常状態から救急搬送。
そして警察で保護、管轄になる厚生労働省が動くことになった。
……ただ、人事不肖状態の本人からの証言が今一つ当てにならないから、マトリも大きく動けないと。だから、学内潜入出来る僕たちに依頼が来たんだろうね。文部科学省も私立高校相手には、余程の証拠がない限り動きにくいし。
◆ ◇ ◆ ◇
「ユウマくん、情報収集はどう? 僕の方は、こんな感じの事を聞いたんだけど?」
今日は土曜日、週一の会合。
第一機動強襲室第五係の事務所に集まり、勉強会のついでに皆で集めた情報を纏める会だ。
……まもなく期末テストが迫る僕たちにとっては事件解決も大事だけど、テスト勉強も大事なのだ!
「……ふむ。某の集めた情報とほぼ一致しているでござるな。特別クラス、正式には成績優秀者選抜クラス。学業優秀者のクラスと運動関係優秀者クラスの2クラスでござるが、どちらでも投薬が行われているとの事でござる。大抵はビタミン類、アミノ酸とカフェインの合法スマートドラッグでござるが、時折『スペシャルアイス』と言われる薬剤が担任から渡されているとの噂でござった」
「わたしの聞いた話じゃ、普通クラスからでも優秀者は特別クラスに途中加入も出来るそうよ。で、元クラスの子が特別クラスに行った子に逢った時、今までの優しい子じゃなくて見下される様な言動をしたんだって」
「それ、怖いやん。ウチは、あまり特別クラスの話は聞かなんだな。皆、ウチの事を聞きたがるから、お母ちゃんが米軍の人やってのは話したで。あ! ただ、特別クラスのある校舎には近づかない方がええってのは助言されたわ」
皆、色々とは情報を集めてくれている。
ほぼ間違いなく学校ぐるみで学内ではドーピングが行われている。
しかし、その目的が見えてこない。
優秀な学生を育てれば学校の宣伝ができ、より沢山の学生を集められる。
ただ、違法な事で学生を壊す寸前までやっての手法。
危険度が高い上に、もし事実が明らかになれば廃校、その上訴訟、経営者の逮捕となり、あまりに割が合わない。
……リナさん、大丈夫かなぁ。お母様が米軍関係者ってバレたら、そこから足が付かなきゃ良いけど。そりゃ金髪美少女が関西弁話すのに説得力でるけど。
「俺が思うに、問題の学校には黒幕がいそうだな。メリットよりもデメリットが多い事を一般人がやるはずも無い。こと、違法薬物を取り扱うには海外とのコネ、後は医学・薬学者が絡んでいるはずだからな」
「ですね、係長。もうしばらく調査してみます。多分、そろそろ僕たち、『生き餌』に食いつく馬鹿も出てくるでしょうし」
「マモル。それに他の皆。くれぐれも無茶はするなよ。俺に取っちゃ、全員可愛い息子、娘なんだから。まあ、それとは別に期末試験は頑張れや!」
「はい!」
なお勉強会では、リナさんの「ウチ、英語苦手やねん」という衝撃発言を受けて大混乱となった。
「金髪で英会話できてて、何で英語が苦手やねん!」
「だって、ウチ。頭ん中は日本語で考えるんやもん」
……どーして僕がツッコミ役やらんといけないんだろうね。




