第20話(累計 第67話) 僕たちの新たなる剣! もう趣味満載。
「あれ? 外見が前からは随分と変ってますね」
僕たちは、ソフィアさんに案内されながらプレハブ事務所の隣にある倉庫兼格納庫に来ている。
そこには四台のオリーブ色なパワードスーツが鎮座していて、多くの人々が整備をしていた。
「マモルに乗ってもらったXM5『シャイアン』だけれども、使ってもらった感想を元に改修したの。他は、リナのM3改と予備機のM3、ニ機ね。流石に自衛隊にまだ降ろしていないM4は、ここには来ていないわ」
XM5の周囲には、どうみても海外の方たちが、そしてM3の周囲には日本人らしき人達が群がる。
「XM5ですがM3よりも軽量である分、銃撃時の反動を消し切れていないのが問題ね。そこは制御OS次第だけど、マモルは格闘戦主体だから、今のところは問題無いわね。今後、肘とかにトンファーみたいに展開しても使えるナイフシースを付けるのとかを検討中。後は腰部に隠し腕とかも……」
「技術大尉殿、完全に趣味に入っておらぬか? 流石にマモル殿も、隠し腕までは操作不可能でござるよ」
前見た時よりもXM5は、各部が尖っていて怖いイメージがある。
……頭部ブレードアンテナも随分と鋭角なんだよね。まるで全身凶器、動くナイフって感じで物騒。
「そうそう。機体各部が尖っているけど、あれは敵のナイフを受け流すソードストッパーでもあるし、敵を切り裂くブレードでタングステンカーバイド製なの。指先もタングステンカーバイドにボラゾン焼き付けね。骨格と関節も強化もしてるから存分に動かしてね」
「趣味満載、もう好きにしてって感じですね、大尉。後で詳細マニュアル下さいな。毎回、ぶっつけ本番で乗るのは、もう勘弁して欲しいので」
もはや僕の想像以上に機体がチューンされているので、苦笑するしかない。
「分かったわ、マモル。次はリナの機体ね。こっちは自衛隊仕様機体を少し弄って火力支援仕様にしたの。コクピットも日本で試験運用中の操作腕内部型。リナ、沖縄での稼働データを見せてもらったけど、貴方は大雑把で細かい格闘戦は不向き。なら、まだましだった銃撃戦をしたらいいわ。ユウマに照準補正をしてもらえば良いわね」
M3J、俗にいう日本仕様の機体。
お国柄、長剣を使っての戦闘と中距離射撃戦をメインに各部がチューニングされている。
……米国海兵隊仕様は隠密活動からのナイフバトルを考えて調整済みって聞いたことがあるね。
リナさんの機体は、両機械腕に一丁ずつグレネードガンを持ち、背中から伸びる二本のサブアームには機体半分を覆うくらいの盾をそれぞれ装備。
……盾には格闘用の爪とか付いてるんだ。豪快なリナさん向けだね。
やや重くなった機体を、新たに脚部へ追加されたローラー機動でカバーという感じだ。
また、通常は外部に出ているオペレーター腕が無く、腹部コクピットが妊婦さんみたいに膨らんでいる。
…グレネードガンなら、非殺傷用から対装甲弾も撃てるから便利だよね あと、マニューバースレイブ用のオペレーター腕がコクピット内にあるんだ。
オペレーターの操作腕が内部にあれば、どうしても装甲が薄いオペレーター腕が狙われにくい。
またオペレーター腕が抑え込まれたり、何かで固められて動かせなくなる危険性も下がる。
ただ、可動範囲が少し小さくなるので、機械腕を大きく動かす格闘戦には不向きとも言われている。
……後、ミハイルがやったみたいに、機体外部にポケットがあれば、そこに手榴弾や拳銃なんか入れられて、オペレーター腕で使えるんだよね。
「お母ちゃん、こんなんウチ、乗りこなせへーんわぁ」
「リナ、今は技術大尉と呼びなさい! マモルもお父様には役職名で呼んでますわよね?」
「はい……。でもなぁ、どう考えてぇも難しいでぇ」
「射撃は支援OSとAI補正でなんとかなるわ。リナは機体制御に集中ね」
すっかり絶好調のソフィアお母様。
もはや実の娘にも不可能、誰も止められない感じだ。
「リナちゃん。お母様って、もしかしてロボフェチなの?」
「うん、少しその傾向あるんや。お父ちゃんとの出会いも、基地内工事でお父ちゃんがかっこよくパワードスーツを乗りこなしていたからなんよ」
「そこ! 何ヒソヒソ話をしているのかしら、アリサ、リナ!」
「「はいぃぃ!」」
こそこそ話でアーシャちゃんとリナさんが話しているが、ソフィアさんの視線が向くと二人とも、ビシっと姿勢を正す。
……こりゃ納得だね。ソフィアさんってユウマくんと仲良く話せそうだ。
「技術大尉殿、予備機二機には誰が乗るでござるか? 某は正直無理でござる」
「まだ訓練中だけれども、一台は使えそうなアリサに乗ってもらうつもりね。アリサ、貴方のお友達は必ずもう一度貴方に『会い』に来るわ。その時、生身じゃパワードスーツ相手には勝てない。なら、分かるわよね? とりあえず足のローラー以外は標準仕様にしておくから、後でチューニング案出してね」
「了解しました、大尉」
ビシっと敬礼をかっこよく返すアーシャちゃん。
流石、カッコいい。
「後は、ユウマだけど……。もう既にしてもらっている感じで、各機のオペレート補助を頼むわ。専用指揮車両は自衛隊のを借りたいけど、まだ許可が出ないの。第一、貴方達は今更だけど、年齢的にバイク以上の免許は持てないものね」
とまあ、色々あって僕らに役目が渡されたのだった。
……ホントなら、パワードスーツの民間免許も十八歳からだしね。
「既に皆は理解していると思うが、この組織は日本警察、自衛隊、米軍、民間の寄せ詰めであり、それぞれの力のバランスが微妙な関係で動いている。まあ、それぞれが肉親や関係者だから個人レベルでは問題は無い。それでも未成年の君たちが戦うということで、政治的に大変なのは理解していて欲しい」
「はい、係長!」
……父さんが警察の警部、真雪先生が自衛隊の三尉、ソフィアさんが米軍の大尉。この場合、普通は最高階級のソフィアさんが指揮官になるけど、技術士官だから父さんが指揮官になったのかな?
「じゃあ、今日のところは事務所の片づけと掃除。皆、がんばれー!」
「はい」
僕は新たなる『剣』を手に入れ、身が引き締まる思いだった。




