第19話(累計 第66話) 情報過多な説明会。僕はパンクしそうだ
「つまり、僕たちの立場は陸自の高工校生と同じで警察庁の特別職公務員扱いなんですね、父さん」
「ここでは係長と呼びなさい、マモル。おほん、では皆に当組織の概要を説明する。警察庁警備局公安課第一機動強襲室第五係。この組織は、パワードスーツなどを使う高度技術犯罪に対して対抗すべく作られた組織である。えっとぉ、で君たちは未成年ではあるが、各自高度技術を大人顔負けに使える。更に、既に幾度も実戦を経験しており、少年兵問題も解決すべく、組織改革をした上で作られた……」
「植杉警部殿、いえ、第一機動強襲室 第五係長殿。完全に台詞が棒読みでござる。いきなり大役を仰せつかったは分かるでござるが、落ち着くでござる。既に顔見知りばかりであがる事もないでござろうし」
僕らの前で紙に書かれた事項を必死に読んでいる係長。
それは僕の父さんだ。
警部補から警部に昇進して、僕らの担当になった。
……まあ、そこには母さんや爺ちゃんの暗躍があったみたいだけどね。じゃないと、普通の交通課の制服警官が公安職特殊部隊の隊長になんて任命されないもん。
「あ、ああ。すまん。正直なところ、俺はこういう仕事は初めてで、公安関係にはとんと知識がない。なので、知識面は君らに頼るところがあると思う。しかし、最終的な責任は俺が持つ! 君らは最大限、平和を守る為に行動して欲しい」
「はい!」
「係長。それで室長や課長はこちらにはこられないんですか?」
「それがな、アリサくん。課長は、ややこしい政治に巻き込まれたくないと逃げた。室長は、大人達の部隊編成にかかりっきりなんだよ」
「その辺りの話は、わたし、米軍からしましょう」
どうやら少し聞くだけでも僕たちの組織は非常にややこしい事になっている様だ。
……法的にもややこしいし、どうやら自衛隊や米軍まで絡んでそうだものね。
僕は話し出そうとするソフィアさん、リナさんのお母様を見た。
……金髪でヘイゼルな眼はリナさんが受け継いだんだね。リナさんが童顔なのは、横に居る日本人のお父さん似なのかな?
僕たちの組織がある場所。
それはリナさんのご実家、株式会社正木工務店の敷地内だ。
奥多摩の自然の中に大きな敷地を誇り、何個もの倉庫や工事機器整備用の格納庫もある。
今、僕らが居るのは格納庫横にあるプレハブな事務所だ。
「第一機動強襲室では、日本警察で始めてパワードスーツを使う事になりました。日本では自衛隊がわたし共のM3を使用していますけれども……」
元より基地営繕関係の仕事をなさっているソフィアさん。
その関係で、雑用や荷物搬入にも使うパワードスーツについては詳しいそうだ。
「敵組織は、通常のテロ以外にもパワードスーツを使う事が分かっています。ですが、自衛隊やわたし共米軍は犯罪者相手に簡単には動けません。そこで、日本も警察機構に対テロのパワードスーツ部隊を既に作っています。それが同じ第一機動強襲室の第一から第四係になってますの」
「某情報では、第一から第四係は、まだ誰も満足に操縦が出来ていない、はっきり言ってリナ殿以下と聞いておるでござるが、係長殿。どうでござるか?」
「ぐ。実はそうなんだ。係としては存在するが、とても実戦はまだ不可能。そういう意味で即戦力なのは、マモルだけなんだ」
……つまり、僕が頑張らないと、どうにもならないの??
「マモルくんに負担が多すぎますわ、お義父様。いえ、植杉係長」
「そうやん。ウチは、まだまだやし。ユウマはんは指揮や情報支援は凄腕やけど、実戦は無理。アーシャちゃんは生身なら負け知らずやけど、まだパワードスーツは初心者や。おっちゃん、詰んでおらん?」
「これこれ、御無体な事を言わんでくれや、リナ。植杉はんは板挟みになるんやで?」
アーシャちゃんは、僕の負担が大きくなり過ぎると父さんに怒るし、リナさんもアーシャちゃんに同意して文句を言ってくれた。
ただ、リナさんの横にいる柔和な感じのする日本人壮年男性は、リナさんを抑えてくれている。
……あれが正木工務店社長にしてリナさんのお父様、和重さんか。目元の優しい感じがリナさんにそっくりだ。
「リナ! パパの言う通りよ。マモルを守りたいのなら、貴方が強くなりなさい。貴方はわたしに言ったわよね。『お母ちゃんを守る為なら何でもするんや!』って。そのまま機器搬入用のパワードスーツをぶん捕って、敵をぶん殴るんだもの。冷や冷やものよ?」
「ごめん、お母ちゃん」
しゅんとするリナさん。
でも、僕の為に怒ってくれたのはとても嬉しい事だ。
「リナさん、それにアーシャちゃん。ありがとね。僕、負けないようにもっと頑張るよ」
「では、話を続けますわ。今回、わたしが参加しましたのは米軍から新型パワードスーツを貸与するためですの。マモルが乗ったXM5。実に素晴らしいデータが取れています。米軍としてはマモルをテストオペレーターとして欲しがっていましたが、日本政府は未成年を米軍に送るのを拒み、妥協案として日米の共同開発ということにしました」
僕が乗った新型試作機。
今までにない新機軸を沢山使っていたが、僕は必死に戦っただけで、決してすべてを使いこなした訳じゃない。
正直、パワーを持て余し気味ではあった。
「ソフィアさん、いえ、コールマン技術大尉。僕はXM5を生かし切れていなかったと思うのですが。生き残るのに必死で、なんとか勝っただけです。ユウマくんやアーシャちゃんのフォローが無ければ生き残れなかったです」
「それでもなのよ。実際、海兵隊のM4部隊は壊滅しちゃったし。ダニエルは残念なのよ」
甥っ子なフォスター少尉を残念というソフィアさん。
身内に厳しいのだろうが、それでも可哀そうだと思う僕だ。
……ミストロット教官もフォスター少尉も入院中なんだよね。二人とも助かって良かったよ。
「とりあえず、そういうことだから今後は頑張って欲しい。なお、この後機体を見に行くぞ」
「はい!」
とにかく、色々とありながらも僕たちは活動を開始したのだった。




