第14話(累計 第61話) 基地強襲 その五:決戦! アーシャちゃんの過去彼との対決。
「ほらほら、止まると死ぬよ!」
「く!」
僕の予想移動位置を正確に狙ってくる敵機YK-102『パラディン』。
弾丸が僕の行く先、通過した地面を穿つ。
ロシア製機体だから、僕らが使う機体よりも大口径、14.5ミリの弾丸を撃つ機関銃を使うから威力も随分と大きい。
……その分、反動が大きくて反動処理に機体制御が食われるってユウマくんが昔言ってたっけ?
「AIの機動予想を全部外すとはすごいねぇ。どんな手品で避けてるのかい?」
「手品の種を明かす馬鹿が何処に居ますか!」
僕は必死に機体を駆動、ローラーの回転速度をずらしたり、足をハの字にしてブレーキを掛ける。
更にはスラスターを使って急加速など機動を不規則にさせて銃撃をなんとか避ける。
「そっちこそ、当たれー!」
「残念、射撃は素人だねぇ」
機体制御が忙しくて射撃制御が出来ない僕の代わりにユウマくんが射撃をしてくれるが、いくら量子通信をしても通信ラグは発生する。
その微妙なズレで、こちらの攻撃も当たらない。
「ユウマくん、なんとか接近戦に持ち込めないかな? このままじゃ、ワンミスで僕が負けるよ」
「そうでござるな。では、ここでは無く遮蔽物が多い倉庫群に逃げ込むでござるよ。後、アリサ殿はさっき指令室を飛び出していったでござる。何か考えがあるのでござろうが……」
「わたし、考え無しじゃないもん! マモルくん。わたし、ミーシャに色々話したいこともあるんだけど、マモルくんの命の方が大事。今から狙撃の準備をするから、隙を上手く作ってみて! ユウマくん、狙撃に適した場所と対物ライフルが収納されている場所を教えて!」
「アーシャはん! ウチ、ライフル一緒に運ぶよ。兄ちゃんやマモルはんを助けたいんや!」
僕は機体駆動で生まれる高Gに苦しみながら、打開策を聞いてみる。
すると皆が協力してくれた。
「皆んな、ありがとう! 僕、一人じゃないんだね」
「そうでござる。某らはチーム。仲間を切り捨てて喜ぶ奴らなんかには負けないでござる!」
「マモルはん、兄ちゃんの分までぶっとばせー」
「マモルくん。わたし、貴方の事が大好き。だから、絶対に生きて帰ってきて!」
僕は皆の声援を受け、力が更にました。
「ミーシャ! オマエになんかアーシャちゃんは絶対に渡さない!」
「マモル、キミには愛称で呼んでもらえる友達じゃないと思うんだけど? まあ、アーシャちゃんを巡る恋敵。死んでもらいたいくらい憎い相手だものね」
僕は挑発を行いながら基地内を逃げ回る。
ユウマくんに指示してもらった「キルゾーン」を目指して。
◆ ◇ ◆ ◇
「おいおい。何処まで逃げるのかと思ったら、今度は隠れんぼかい? キミにはボクと正面から戦う勇気も無いのかな? それでアーシャちゃんのカレシを名乗れると思ったら……」
「あら、ミーシャ。貴方こそ、わたしといつ恋愛を目的としたお付き合いをしたのかしら?」
僕は、倉庫群内のとある場所、「キルゾーン」に設定されたところに隠れ込んだ。
機体をサスペンドモードにし、自分から電波や赤外線を出すパッシブセンサーを全てオフにする。
また準備してもらっていた通信ケーブルを接続。
更には機体の上に、倉庫にあった遮熱・対電波シートを被せた。
必死に隠れる僕を煽って誘き出そうとしたミハイルを逆に煽るように、アーシャちゃんは声を掛ける。
もちろん姿を見せずに、声だけだ。
「アーシャちゃん、久しぶりだね。直接、美しく成長したキミをこの目で見たいのだけれど、顔を見せてはくれないのかい?」
「そうね。貴方が何故わたしの敵として現れたのか? その事を教えてくれるのなら、顔くらい見せてあげても良いわ?」
倉庫内に反響して、アーシャちゃんの声が響く。
簡単にはアーシャちゃんの居場所は掴めないのだが、ミハイルは機体の頭部センサーを四方八方に動かして彼女や僕を探す。
……普通ならIRSTで、何処に隠れても人体やパワードスーツが放つ赤外線で居場所はバレるんだけど、そこは対処済みさ。
「そうだね。そのくらいは話してあげても良いよ。そして僕たちの仲間になって欲しいな。そうじゃなきゃ、キミも僕の手で殺さなきゃなきゃいけないし」
「じゃあ、早く話してよ? わたし、長く隠れているのは嫌なのよ」
狂信的な響きの声で話すミハイル。
日本語で話しているのは、僕を挑発して飛び出してくるのを待っているのだろう。
……残念。僕って辛抱強いし卑怯なんだよ。君を倒す為なら、どんな手でも使うよ。
「では、少しだけ話してあげよう。ボクは今、『あの方』の配下として目的のために活動しているんだ。組織から放り出された後、ボクはスラムや男娼館にいたんだよ。キミみたいに親もいないし、国の援助も無いボク。
人を殺して奪い、更には文字通り身を売りながら生きてきたのさ。そんな地獄から『あの方』は救ってくれた。そしてボクに生きる意味、世界へ復讐する権利を与えてくれたのさ!」
「そ、そんな……。ご、ごめんなさい。わたしが組織を壊したから、ミーシャは……」
「そうさ。あのまま組織が活動をしていたら、ボクは凄腕のエージェントとして活躍していただろうね。そして国の事を信じたまま、幸せにしていたことだろう。でもね、それをアーシャちゃんは壊したんだ!」
衝撃的な過去を感情的に語るミハイル。
機体が動くさま、腕の動きも演舞の様。
まるで劇場で演劇俳優が悲劇を演じるかのように見えた。
「……でも、組織や国はわたし達を道具、使い捨てくらいにしか考えていなかったわ。それでも良かったの?」
「優秀なら、使い捨てるのが勿体ないくらいになれば、国も悪いようにはしなかったんじゃないかな? 実際、僕は語学も銃もナイフバトルも最優秀、男娼として生活できたくらいのルックスに人を簡単に騙せる演技力。スパイとして優秀だと思うよ?」
己の不幸を訴える様に語りながらも、頭部センサーは全く別の行動。
僕らを見つけようと常時動く。
……あれ? もしかして自分に酔いしれちゃったのかな? 今の発言は?
「可哀そうなミーシャ。貴方をそんな風に、世界を呪う様に変えてしまったのは、半分はわたしの責任ね。ごめんなさい。いくら謝っても謝り切れないわ」
「じゃあ、僕のパートナーになってよ、アーシャちゃん。組織の女の子でも最優秀だったアーシャちゃんとボクが組めば、敵なんていない。『あの方』もアーシャちゃんの事をよく知っているんだ。キミも知っている人さ。だからね、アーシャちゃん。ボクに付いてきて」
アーシャちゃんを求めるかの様に機体の腕部を差し出すミハイル。
「分かったわ。今から顔を出すわ」
アーシャちゃんの声は悲痛だ。
自らの罪、同じ境遇だった子を救えなかった事を悔やんでの事。
そして、彼女はミハイルと共に一緒に行くと言った。
「アーシャちゃん!」
僕は思わず叫んでしまった。
「馬鹿が! それを待っていた!」
銃口が僕の声が聞こえた場所、物流コンテナの影に向いた。
そして火を噴いた。
「マモルくん!」
「馬鹿なカレシを持つと困るね。でも、アーシャちゃん。もうこれでキミは完全にボクのモノだよ」
ガンガンと激しい銃撃がコンテナを穿つ。
そしてコンテナ内部にあった可燃物に引火し、激しい炎を上げた。
「ははは! 地獄でアーシャちゃんを奪われた事を後悔しな」
……ああ、お前がな!
僕は、隠れていた場所から飛び出した。
ミハイルが銃撃していた場所とは全く反対側のコンテナから。




