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第6話 月の妖精。僕は柊さんの本当の姿を知る!

「さて、説明してもらおうかしら、植杉くん?」


「ぼ、僕の方が説明して欲しいんだけど?」


「質問しているのは、わたしの方なの! どうして、あんな時間に学校に居たよぉぉ!」


 (ひいらぎ)さんとの衝撃的な出会い。

 僕はその後、学校に突如現れた作業着姿の男性達に捕まった。

 縛られて顔に布袋を被せられた僕。

 数人に担ぎ上げられた後、自動車に乗せられたらしい。

 十分ほど移動し何処かに到着後、また担ぎ上げられてエレベーターに乗せられて、何処かの部屋に連れ込まれた。


 今、僕は暗くて殺風景な部屋の中。

 椅子に縛り付けられて、正面から眩しい照明を突き付けられている。


「だから、何回も言ったよね、柊さん。僕は忘れ物を教室に取りに行っただけだって。宿直だった宗方(むなかた)先生も知っているはずだよ。あ、宗方先生は無事なの? 銃撃戦に巻き込まれて怖がってたはず」


「植杉くん! 実際に銃撃戦してたわたしより、隠れてた宗方先生の方を心配するのぉ!? わたしに『大丈夫』の一言も無いの!?」


 照明の向こう。

 逆光ではっきり見えないものの、柊さんはとても怒っているらしい。

 僕が今まで聞いたことも無い感情的な声で、僕を攻め立てる。


「ごめん、柊さん。僕、怖くて何も分からなくなってたんだ。でも、どうして柊さんが銃撃戦なんかしてたの? 口調も普段とは全然違うんだけど?」


「謝ってくれても、もう遅いよ。わたし、植杉くんの事は信用してたし、好きだったのに……。あ、違う! 違うの。今の発言は無し! わたしの秘密は、だーいっ嫌いな植杉くんになんて教えてあげないもん!」


 眩しい照明越しなので声だけしか分からないが、普段よりも喜怒哀楽が激しい柊さん。

 僕は、そんな柊さんがますます好きになった。


「だから、ごめんなさい。柊さんの邪魔を僕がしちゃったんだよね。でも、あの時の柊さん。さっきも言ったけど、とっても綺麗だった。今の感情的な柊さんも可愛いよ。あ、僕もナニ言ってんだか」


「ちょ。また何言い出すのよ! わ、わたし、困っちゃうよぉ。う、植杉くん。わたしの事、怖くないの? 貴方に銃を突きつけて脅す様な女の子なのよ? 人を撃っても、なんとも思わない子なのよ?」


 僕が有らぬ事をしゃべってしまうと、柊さんも妙な感じになる。

 その様子に、僕は場違いだと思うけれども笑ってしまった。


「な、何、笑ってんの? 今だって、貴方はわたしに生殺与奪(せいさつよだつ)をされているのよ!?」


「ははは、ごめんね。あまりに柊さんが可愛くて笑っちゃったんだ。それに柊さんは公安側の人でしょ? 冷静に考えたら、僕をあの場所で敵の銃を使って殺していたら、何の問題も無く証拠隠滅出来てたはず。なのに、態々生かして自分のセーフハウスまで連れ帰ってくれたんだもの。猫のチビちゃんの事で泣いた柊さんが、悪人のはず絶対に無いよ!」


 今になれば、柊さんの正体がなんとなくは分かる。

 僕を生かしてくれている事。

 更に、僕がここに運ばれる途中で聞いた会話。


「いつもお手数をお掛けします。この子はセーフハウスに。犯人たちは全員生きてるはずですから、警察病院送りにしておいてください」

「あいよ、アリサお嬢さん」


 柊さんが作業服の男性達に話していた言葉から、柊さんが警察や公安関係の仕事をしている事が分かる。

 また、銃撃戦を行ったにも係わらず犯人たちが生きている、いや生かしたまま倒されている。


「会話や状況から、柊さんは公安関係の秘密なエージェントって思うんだ。だから、僕が柊さんの秘密を守って誰にも話さなければ何の問題も無いはず。あ、そうか。病弱で学校を休みがちだってのは、柊さんの仕事の都合だったんだね」


「え、ちょ、ど、どうして、そこまでわたしの事を分かっちゃうの? 植杉くん、確かミリタリーオタクだったって聞いてたけど、そこからなの?」


「うん、そうだよ。そういえば柊さんが使っていた拳銃。あれってSigのモデルだよね。確かP365に見えたけど? 女性でも撃ちやすいって聞いてたから、それで使っているの? 拳銃の持ち方ってC.A.R.システムだよね? 敵はAKシリーズ、マガジンが曲がっていたから7.62×39ミリ弾。たぶん、AKMかコピー品かな? となると、東側とかのテロリスト?」


「だ、大体はそのとおりだけど。植杉くんて、どこまで変なの? 拳銃撃つ様な女の子が可愛いって??」


 僕は、狼狽(うろた)える柊さんが可愛くて、またユウマくん以外とは話せないミリタリーネタが通じるので、思わずオタクな会話をしてしまう。


「ははは! アリサちゃん。これは貴方の負けね。植杉くん、貴方は凄いわ。あの状況で的確に行動できるし、今も正解を推理できる。わたしの事まで心配してくれたの、ありがとう」


 急に、別の女性からの笑い声が聞こえた。

 僕は、その声に聞き覚えがあった。


「宗方先生! ご無事だったのですか? 良かったぁ。あ、そうか! あの時に先生が僕を学内に入れるのを渋ったのは、銃撃事件があるのを予想してたからですね。つまり、先生も柊さんの仲間だったんですか?」


 宗方先生が、照明の向こうから顔を出す。

 僕は、先生が無事だった事に安堵した。


「うん、正解よ。ここまで凄いと、わたし植杉くんの事を好きになっちゃうわ。あ、あれ? アリサちゃん。どうしたの、ほっぺ膨らまして? もしかして焼きもち? 大丈夫よ、わたし年下趣味は無いから。うふふ、アリサちゃんにも『春』が来たのね」


「せ、先生! わたしを玩具(おもちゃ)にしないでください。わたしと植杉君はそんな関係じゃないもん! う、植杉くんも笑わないでよ。もー、皆だいっきらーい!」


 僕と先生は、可愛く拗ねる柊さんを笑ってしまう。

 すっかり機嫌を損ねた柊さん、椅子に縛り付けられて動けない僕をぽかぽか叩いてきた。


「ちょ、ちょっと待ってよ。柊さん、痛い、痛いからやめてよぉ」

「植杉くんのばかー!」

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