第10話(累計 第57話) 基地強襲 その一:凶弾に倒れる教官。
瓦礫塗れの通路を塞ぐ身長四メートル程の機械巨人、パワードスーツ。
その赤い単眼は暗い通路の中にただひとつの灯りとなり、僕らを睨む。
そして、巨人が持つ大きな銃。
その銃口が巨人に一番近い位置に居た教官を狙った。
「教官、逃げて!」
想定外の現象に固まってしまった教官。
僕は彼を助けようと教官に飛び掛かり、教官に体当たりをした。
ドカンと教官が居た場所の床に大きな穴が開く。
「マモルくん!」
いつのまにか拳銃を取り出したアーシャちゃんが、敵パワードスーツの頭部センサーを狙って撃った。
しかし、今度はアーシャちゃん目がけて銃口を向けてきた。
「アリサ殿、これを使うでござる!」
ユウマ君が通路上にあった消火器を取り出し、パワードスーツ目がけて投げた。
「! そういう事ね、了解」
アーシャちゃんは、宙を舞う消火器に拳銃を向け撃った。
アーシャちゃんの撃った弾丸は、レバー部分の基部を貫通。
ただちに白煙が吹き出し、パワードスーツを覆った。
「今のうちに逃げます!」
「あ、ああ!」
僕は教官を急かしパワードスーツに背を向け、今まで来た方向に逃げようとした。
「マモルくん、危ないの!」
だが、一瞬硬直した敵も行動を再開。
可視光から赤外線視界に切り替えたのだろうバトルスーツは、見境なく銃を乱れ撃った。
「ぐあ!」
教官が、突然悲鳴を上げ倒れる。
見れば、教官の足から血がこぼれていた。
「教官! ユウマくん、頼む! 二人で運ぶよ」
「了解でござる」
僕とユウマくん、急いで教官を担ぎ上げ、バトルスーツが暴れまわる通路から逃げた。
「うぅぅ。お、俺を置いて逃げろ。ガキ共はこんなところで死んだら……ダメだ」
曲がり角まで逃げた僕ら。
教官をいったん降ろして様子を見ると、教官の太ももには金属片らしきものが深く刺さっていた。
「教官! 何言っているんですか? わたしもマモルくんも教官を置いて逃げる程、薄情じゃないです。他の二人も同じ。皆で絶対に助かるんです」
教官の傷の止血をしながら、弱気な教官を叱咤するアーシャちゃん。
その間、ユウマくんはパワードスーツが迫ってこないか、後方を確認していた。
「敵、どうやら別の目標を見つけたでござるな。アイツ、ロシア製の無人機でござるよ。某、無人機タイプのものを軍事見本市で見たことがあるでござるが、それと同型でござった」
先程逃げたあたりから銃撃音がする。
敵パワードスーツは、別の相手を見つけ攻撃に行ったのだろう。
……無人機なら、近くにいるターゲット優先にしてる可能性が高いからかな。
「教官、弾が壁に当たった時の破片が刺さったのでしょうけれど、これを今抜いちゃうと出血多量になります。ですので、治療できるまで抜きません。しばし我慢してください。このまま、わたし達で教官を安全な場所に運びますわ。マモルくん、ユウマくん、リナさん。やるよ!」
「うん、了解。リナさん、いきなりの実戦だけど、大丈夫?」
僕は、ガタガタ震えているリナさんに声を掛ける。
只の少女が、いきなり戦場に放り込まれたのだ。
恐怖に身をすくめていても、しょうがない。
「ウ、ウチ、ウチ……」
細い両腕で身体を抱え、震える少女。
彼女を励ますのにどうしたら良いのか、僕が途方に暮れていた時。
パチンと軽い音がした。
「え?」
それは、アーシャちゃんが平手でリナさんの頬を叩いた音。
「な、何するねん! どーして、ウチを叩いたんや! アーシャはん!!」
「あら、さっきまで震えていたと思ったら、今度はケンカ腰かしら、リナさん? それにアーシャって呼び名はマモルくんとパーパ以外には認めていないんだけど?」
「怒るに決まってんねん。こんな大変な時にケンカして……。あ、ごめん、ウチが悪いわ。固まってしもうて悪かったんや。アリサはん、すまんかった」
アーシャちゃんに平手打ちされた事で、正気に戻ったリナさん。
緊急事態とは言え、アーシャちゃんが突然動くのだから僕もびっくりしてしまった。
「分かったらいいわ。わたしもごめんね、リナちゃん。貴方の事、わたし嫌いじゃないの。おおざっぱだけど、さっぱりしてるし、可愛いんだもん。友達なんだから、アーシャって呼んで良いよ?」
「アーシャはん! ウチ、嬉しいや。こんな可愛くて強い女の子。絶対逃がさへんで! あ、マモルはんの分はちゃんと残しておくで」
お互いに謝り合い、今度は抱き合う美少女たち。
こんな事態じゃなければ、ゆっくり鑑賞していたい気もするけれど、今は緊急事態だ。
「じゃあ、皆で生きて帰るよ。ユウマくん、ここから逃げられる安全な場所って何処にありそう?」
「ふむ……。基地中央部の指揮所区画が安全そうでござるな。あそこには医務室もあるでござるし、基地の状況も詳しく分かるでござる」
「じゃあ、そっちに行きましょ。教官、こうなったら一連托生。可愛いお嬢さんにもう一度お会いしたいのなら、頑張りましょ?」
「……ははは! こりゃ、俺の負けだ。ガキ共に説教されるんじゃな。ああ、絶対に生きて帰るぞ!」
そこから先、アーシャちゃんを先頭に僕とユウマくん、リナさんで教官を支えながら、基地中央区画へと通路を逃げた。




