第4話(累計 第51話) 僕たちの訓練は、まだまだ続く!
「ふぅ。結構楽しいやん、泥遊び」
「あのね、リナさん? これは訓練なんだから、ちゃんとしなきゃダメなのよ?」
今日も僕たち四人の訓練は続く。
ジャングル内での匍匐前進。
既に何回もやっているけど疲れるし、生ぬるい泥水が口に入るのが嫌だ。
「リナ殿もアリサ殿も早すぎでござる。某、ついていけないでござるぅ」
「でもユウマくん。この間までは訓練後に話すのもやっとだったけど、今日はちゃんとしてるよ。随分と持久力付いたんだね」
今はシャワーを浴びて休憩室で談笑中。
ユウマくんが訓練についてこられるようになったのは、嬉しい事だ。
しかし、まだ訓練し始めのはずなリナさん。
苦しそうな顔ひとつせずに訓練を淡々とこなす。
女性なので、筋力こそ同じ身長の僕よりは弱いものの、持久力は僕並みか僕以上。
「ウチとしては、そろそろマモルはんと一戦やってみたいんやけど?」
「まだ早すぎます! 貴方は体格が大きくても女の子。マモルくんは女の子には本気で戦えるはずないもん!」
「そうかなぁ。アリサはんとは、しょっちゅう試合してはるように見えるやん?」
……アーシャちゃんとは、キスもした仲。身体に触れ合って意識することはあまり無いけど、リナさんとは本気で戦えないよぉ。僕の戦い方って相手に触れる事が多いんだし。
「そ、それは……。わたしとマモルくんの仲だからだもん! キスだっていつもしているんだもん!」
「ほうほう。じゃ、今からでもどないなん?」
アーシャちゃんの発言で、遠巻きにしている海兵隊のお兄さん方に動揺が走ったのが見えた。
……あれ、日本語が分かる人が結構いるのかな? まあ、キスって単語は英語も日本語も発音はほとんど同じだし。
先日から海兵隊のお兄さん方は、僕らと同じくジャングルでの戦闘訓練をしている。
米軍が持っている訓練施設で唯一ジャングル戦を訓練出来るのはここ、北部訓練場、キャンプ・ゴンサルべス、ジャングル戦闘訓練センターしかない。
……お兄さん達は、有刺鉄線張った沼地を匍匐前進するんだって。流石に僕たちはそこまでしないんだ。一応、破傷風の予防接種は受けてるけど。
ただでさえ未成年、その上に見目麗しいタイプ違いの美少女二人。
そんな子達と一緒に訓練をしているという事で、僕やユウマくんへの視線は厳しいものに思えた。
「さあさあ、ガキ共。一休みしたら、今度はパワードスーツについての座学だ。マモルとリナは後で実際に乗ってもらうぞ」
「はい!」
ミストロット教官がパンパンと手を叩きながら僕たちを急かす。
次はパワードスーツについての講義。
僕は趣味である程度の事は知っているし、実戦もこなした。
しかし、知識は知っておいて無駄にはならない。
この間の戦いでもM4カービン銃の安全装置の操作方法を知っていたから、攻撃を受けずに敵を倒せた。
海兵隊のお兄さんの視線を受けながら、僕たちは次の場所へと移動した。
◆ ◇ ◆ ◇
「マモルはん、いくでー!」
「お手柔らかにね」
パワードスーツ訓練用の闘技場、そこには僕とリナさんが立つ。
正確には二人ともパワードスーツのコクピットの中に居る。
リナさんの操るM3『ラコタ』、それが訓練用棍棒を持って僕に迫りくる。
おもいっきり振りかぶってから振り下ろしてくるので、側面から自分の機体が持つ棍棒をぶつけて軌道を逸らせた。
「うぉぉ? きゃ!」
「よっこいしょ!」
すっかりつんのめったリナさんの機体。
そこを狙って、僕はリナさんの足元を機体の脚で軽く払った。
「あいたー!」
「大丈夫? 軽く転がしただけだけど?」
見事にすってんころりんと倒れたリナ機。
僕は手を差し出して、リナさんの機体を引っ張り起こした。
「もー、何やってるん? 何回喰らっても、ウチには全然分からんのやけど?」
「攻撃を横にずらさせて空振り、重心が前に偏ったところで足払いして転がしただけだよ? そんなに高度テクニックじゃないんだけどね」
「機体を立たせるのがやっとの某から見れば、十分に魔法レベルでござるよ」
「そうね、ユウマくん。マモルくんの技は何個かお爺様にも教えて頂いたけど、投げ技は全部分からないの」
立ち上がって手足の稼働を確かめるリナさん。
僕たちの様子を遠くから双眼鏡で見て不思議そうな声を上げるユウマくんとアーシャちゃん達。
……流石に近くじゃ危ないから、教官、アーシャちゃん、ユウマくんは闘技場から少し離れた場所にいるんだ。会話は無線と外部スピーカーでしているから、少し大声になっちゃうかな。
「でも、アーシャちゃんは爺ちゃんの歩法を覚えちゃったじゃないか。『幻影陣』なんて僕には不可能だもん」
「某からすれば、全員バケモノでござるよ。教官殿、どう見るでござるか?」
「う……。ユウマ、意地悪じゃないか。俺は女の子に対して酷い事は言えんぞ? 誰も彼も優秀なのは間違いないけどな」
いきなりユウマくんから話を振られて困り顔の教官が、望遠にしたモニター画面に映る。
「そ、そんな事より。ガキ共、そろそろ終わるぞ。次の客が向こうで待っているんだからな」
「イェッサー!」
カメラを試合場出入り口に向けると、海兵隊仕様のM4『チェロキー』が数機、待機状態だ。
……あれが最新型なんだよね。僕が乗っているM3よりも廃熱が少なくて対レーダー能力が上だし、稼働時間も伸びたって話だけど?
パワードスーツ、市街地や不規則戦などでは最強を誇るけれども、平地では只の的。
最近、数を減らしている戦闘ヘリや攻撃機には勝てないし、戦車相手に正面から戦うのも無理。
隠密行動から接近しての撃破ってのが大きな役目だ。
「Master Sergeant Mistrot!」
僕らが帰ろうとした時、海兵隊の指揮官らしき人が教官に声を掛けてきた。
僕は収音マイクをいれては見るが、二人の会話は訛りやスラングの多い英語なので理解が追い付かない。
「何、話してんだろう?」
「ウチが翻訳してみるねん。ふむふむ。どうやら向こうの大尉はんが部下の不満を解消したいから、ウチらと一戦やってみたいらしいんや」
「それ何よ? マモルくんは勝負受けなくても良いよ! もし難癖つけてくるなら、わたしが後でお兄さん達をとっちめちゃうから!」
僕は嫌な予感がしつつも、いつでも戦える様に機体の状態を確かめた。
……これ、勝っても負けても僕は困るんじゃない?