第44話 決着! そして再開するイチャコラ。
「マモルくん!」
「マモル!」
僕が敵、ヤーコフを撃破した瞬間、アーシャちゃんは僕に向かって飛び出してきた。
また、父さんも飛び出して来そうになり、警官隊に止められていた。
「二人とも! 狙撃手がまだ残って……」
僕がまだ狙撃手が残っていると言った瞬間、パァーン、パンと軽い、しかし銃声と思われるものが二発鳴った。
「危ない!」
僕は遅いかもと思いつつ、屋上からアーシャちゃんへの射線上まで壊れかけた機体を無理やり動かす。
そしてアーシャちゃんに覆い被った。
「え? マモルくん!」
「アーシャちゃん、動いちゃダメ……。あれ? 敵は?」
十秒ほど待つが、僕の乗った機体を貫く弾丸は一向に飛んでこない。
僕はゆっくりとアーシャちゃんから離れ、敵がいるだろう屋上に頭部カメラを向けた。
「え?」
モニター越しに、屋上から地上に落ちていく影が二つ。
どすんと対物ライフルごと、狙撃手は地上に落ちた。
「マモルくん、アーシャ、安心シて下さい。二人ノ恋路を邪魔スる悪者は、私ガ倒しまシタ。馬に蹴られルのではなく狙撃ですガ?」
警察隊の中。
大型狙撃銃を持った白人、それも見知った顔の人が居る。
「パーパ?」
「アレクサンドルさん?」
「娘と娘婿ヲ守る為なラ、私ハ世界の何処ニ居ても飛んでキます」
ドヤ顔のアレクサンドルさんに苦笑する父さん。
「アリサちゃんはウチの義娘でもあります。言うまでも無くマモルは、俺の大事な息子です。アレクサンドルさんが全部いいとこを取らなくても良いと思うのですが?」
「マモルくんハ、私の自慢ナ義息子でもあリマす。もちロんアーシャは眼ニ入れてモ痛くナイ愛娘ですガ?」
何故かお互いの子供を取り合い、褒め合うことを張り合う父さん達。
その様子に、僕は胸の痛みも忘れ笑ってしまった。
「もうパーパもお義父様も困った人ね。あ、マモルくん。は、早く顔を見せてくれないかしら?」
「あ、ごめんね。あ、あれ? エラーが出てハッチが開かないや? 電源は……。え、バッテリーも上がっちゃった」
無理をさせ過ぎたのか、僕の乗るパワードスーツM3『ラコタ』は完全にブラックアウトした。
「最後にダッシュとスラスターを全開にしたのが悪かったんだね。アーシャちゃん、少し機体から離れてくれない? 爆破ボルトを起爆してハッチをふっとばすから」
僕は大声でアーシャちゃんに呼びかけ、十秒後に爆破ボルトを使い、ハッチを強制解放した。
「ふぅぅ。ああ、空気が美味しいや」
僕は明け方の澄んだ空気を吸いながら、網膜投影型ヘルメットを脱いだ。
「マモルくん! マモルくん」
そんな僕に向かってアーシャちゃんが、文字通り飛びついてきた。
「あ、あ痛! もう、アーシャちゃんって乱暴なんだから」
ぎゅっと僕を抱きしめに来るアーシャちゃん。
僕は、小さな彼女を抱きしめ返し、その頭を撫でつつ甘い匂いを嗅いだ。
……ぐぅ! 胸が痛いけど今は辛抱。アーシャちゃんを心配させちゃだめだ。
「マモルくん。わたし、返り血まみれで汗臭いんだけど……」
「それを言うなら、僕だって汗だくだよ?」
アーシャちゃんの甘い匂いの髪を、僕はゆっくりと味わった。
「もう、マモルくんのエッチ。でもね、でもね……」
「どうしたの、アーシャちゃん」
急に黙り込んだアーシャちゃんが心配になって、僕はアーシャちゃんを胸から離した。
「だって、だって、わたし、もうマモルくんに逢わないつもりで戦いに行ったんだよ? でもね、でもね、ダメだったの」
「うんうん。僕は最初からアーシャちゃんの気持ちは分かっていたよ。僕を巻き込みたくなかったんだよね」
「そうなの。マモルくんには明るい日なたにずっと居て欲しくて。わたしみたいに暗闇の中で殺し合いなんてして欲しくなかったの……」
ボロボロと涙を灰蒼の大きな眼からこぼしながら、幼げな声で僕に思いを伝えるアーシャちゃん。
「でもね、わたしダメになっちゃったの。今までは、人を殺しても何も感じなかったし、一人で寂しいなんて思わなかったわ。でもね、マモルくんと一緒にいた普通の暮らしを知って、人を殺すのが嫌になったの。弱くなっちゃったの。もう、わたし、マモルくん無しじゃ何も出来ない、ダメなのぉ!」
「アーシャちゃんは弱くないよ。僕や皆んなを守る為に敵を殆ど一人で倒しちゃったんだもの。僕もアーシャちゃんが居ない世界は、もう考えられないんだ。君が欲しい。君と一緒にずっと居たいんだ」
アーシャちゃんは日常を知って、弱くなったという。
それまでの普通じゃない暮らしに戻れないとも。
でも、それは違うと思う。
実際、アーシャちゃんは、僕たちを、「日常」を守るために命を張り、大半の敵を一人で倒した。
「……わたし、人殺ししかできない女の子よ? 死人を呼ぶ死神なのよ? 本当に、わたし。マモルくんの側に居て良いの?」
「何回同じ事を言わせるの、アーシャちゃん。僕は優しくてツンデレで焼きもち焼きのアーシャちゃんじゃなきゃ嫌なんだ! 死神、それがどうした? 僕が頑張って誰も死なないように事件を解決してやる! アーシャちゃんが苦しまないように、全部の敵を投げ飛ばして半殺しにしてやるよ」
上目使い、気弱い表情で僕の顔を見上げるアーシャちゃん。
僕は満面の笑みをたたえつつ、頭をなでなでしてアーシャちゃんじゃなきゃイヤだと話した。
「ぷ! マモルくん、何でも投げ飛ばすの? 可笑しいね。でも、なんで涙が出ちゃうの。笑っちゃうのに……」
「うんうん。今は泣いても良いよ、アーシャちゃん。僕は絶対に死なないし、君を一生守るからね」
僕は泣くアーシャちゃんを絶対逃がさない、守り切る為にぎゅっと抱きしめた。




