第41話 非情になりきれないわたし。でも、アイツだけは許せないの!
「校長先生、大丈夫ですか?」
「う、うう。あ、柊さん。ごめんなさい。わたくし、貴方を守る事が出来ませんでした」
職員室にいた敵兵を殺し、人質になっていた先生達を解放したわたし。
残る校長先生を助ける為に校長室に飛び込んだが、そこに敵兵は無かった。
いや、敵は居たが血まみれになって倒れていた。
そいつは銃も持っていないようなので放置する。
わたしは警戒しながら部屋の中を探索し、部屋の隅で酷く頬が腫れて気絶していた校長先生を見つけた。
「いえ。今回の敵はわたしを狙って殺しに来た可能性があります。なので、先生たちの責任ではありませんですわ。宗方先生は、わたしを追い詰める為に殺されて……」
「自分を責めてはダメよ、柊さん。貴方は何も悪くないの……。犯人は、自分達のボスまで撃って殺す様な酷い人。わたくしは、彼を撃つのを辞めてって言ったときに殴られたの」
校長先生は敵が悪いとわたしを慰めるが、返り血に濡れたわたしの制服を見て眼をそらす。
……校長先生は、わたしの事情を全部知ってても拒否反応が出ちゃう。でも、しょうがないよね。わたし、人を簡単に殺せるんだもの。
「おそらく敵の残存数は数少ないと思います。敵を殲滅次第、わたしは学園を一人去ります。校長先生、今までありがとうございました」
「そんな……。貴方は学園で学ぶことは、まだ沢山あるはずです」
「でも、先生。皆んなは、人殺しのわたしと一緒には居たくないと思いますよ? こんなに簡単に人を殺して平然といられるんですもの、わたし」
絶句している校長先生に頭を下げ、わたしは部屋を出ようと立ち上がった。
「……ち、ちきしょぉ。アイツめぇ。ど、どうして……」
そんな時、小声で悔やむ男の声が聞こえた。
「え、松戸くん。まだ、生きているの? しっかりして!」
「校長先生、テロのボスを御存じなのですか?」
校長先生は、倒れている敵の形ばかりのボスだった男に駆け寄り、出血している傷口を両手で抑えた。
「ええ、彼も言ってましたでしょ? まだ、わたしが教官をしていた時代の受け持ちクラスの子だったわ。要領が悪くて、捻くれて。家庭状態も良くなかったから気にしてたけれども、女子生徒を襲う事件を起こしてしまって……。庇いきれなかったわ」
「……何、今更泣いて懺悔かよぉ。俺の人生は、オマエのおかげで、酷いめに……ぎゃ!」
「何、馬鹿な事を言っているんですか? 全部、アンタが仕出かした事。今回も、アンタのおかげでどれだけの命が奪われたと思っているんですか!?」
案外と元気そうに悪態をついているボス。
わたしは頭にきて、彼の傷口に部屋の中にあった綺麗な布を突っ込んだ。
「柊さん! 一体何を?」
「乱暴ですが、止血です! もう少し布を傷に突っ込んで、更に布でキツく縛ります。助かるかどうかは運次第ですが、何もしないよりは助かる確率は上がりますから」
「ぐ! い、痛い! く、クソガキ! お、俺を殺す気か!?」
ぎゅぎゅと傷口に布を乱暴気味に突っ込むわたし。
激痛に文句を言うボスだが、まだまだ死にそうも無い。
腹部に銃撃を受けたはずなのだが、その脂肪まみれなお腹のおかげで弾丸が内臓や重要動脈まで達していなかったのかもしれない。
……コイツが撃たれたのって拳銃弾っぽいの。小銃弾じゃ即死だしね。コイツを苦しませてから殺す気だったのかしら、ヤーコフは。
「殺す気なら、宗方先生が殺されたみたいにアンタの頭へ弾丸をさっさとぶち込むわ! 死にたくないなら辛抱しなさい。アンタの罪、後から全部償いなさいよ。絶対に勝手に死ぬんじゃないわ!」
「ぐえぇえ」
わたしは怒りに身を任せて、力任せにボスとやらの腹を布でぎゅっと縛った。
「校長先生。後で先生達を呼んできますので、コイツの事をお願いします。さて、アンタには聞きたいことは沢山あるけど、一つだけ今は教えて。『アルファ』、ヤーコフは何処にいるの?」
◆ ◇ ◆ ◇
「ヤーコフ! そこに居るんでしょ? 残念だけど、殆どの兵士はわたしが殺したわ。あ、間抜けなボスはアンタが殺したかしら」
わたしは、ボスに聞いた場所。
体育館とは反対側にある武道場に来ている。
ここまでに出会った敵兵はゼロ。
おそらく、動ける敵兵は残りわずかなのだろう。
……アイツらの爆弾でパワードスーツごと兵士達がふっとぶのも見えたしね。マモルくん、ユウマくん。凄いわ。
運動場に大穴が開いているのを確認し、一安心したわたし。
最後の敵を倒すべく、自ら勝負に出た。
……ヤーコフを今度こそ殺さなきゃ安心できないの。卑怯なアイツなら、マモルくん達を狙う事も考えそうだし。
「ほう。しばらく見ないうちに随分と大きくなったな、アリーサ。だが、胸も小さいし、腰回りもガキのまま。こりゃ、色仕掛けの要員には無理だな、ハハハ!」
「へぇ。まだそんな戯言を言う余裕があるのね、ヤーコフ。でも残念。わたしに欲情してくれる子もいるわ」
わたしのロシア語の呼びかけに反応してくれるヤーコフ。
でも、その声は地声には聞こえない。
何か機械を通したスピーカー音声みたいな感じだ。
また声も壁に反響して居場所が特定しにくい。
……何処か別の場所に居て、わたしを狙撃する気かしら? でも、ヤーコフって狙撃は苦手だったわよね?
「随分とモノ好きもいるもんだな。確か、日本の諺では『蓼食う虫も好き好き』っていうんだったっけ? じゃあ、そいつをアリーサの目の前で殺せば、苦しめられるな。あのセンコーを殺した時の様に!」
「!! アンタ、ワザと先生を殺したの? わたしが苦しむからって」
「そうに決まってる。俺はな、オマエら親子のおかげで死にかけた上に、国からも追い出された! その復讐をしなきゃ、気が済まねぇんだぁ!」
わたしを怒らせて隙を作ろうとするヤーコフ。
実に嫌らしいが、その手口は昔と同じ。
わたしは怒ったふりをして、逆にヤーコフの居場所を探知した。
……先生の事なんて最初から気がついてたわ。わたしを動揺させるつもりだろうけど、甘いの! 隠れているのは、あそこね。じゃあ、とっておきのコレよ!
「そう。じゃあ、貴方は死になさい!」
わたしは、声のする場所に安全ピンを引き抜いた手榴弾を放り込む。
そして、物陰にしゃがみ込んだ。
……例え罠でも、これで壊せるからね。罠なんて踏み潰しちゃうよ!
ドスンとにぶい爆発音がし、窓ガラスは全部割れ、飛び散る破片は武道館の壁に突き刺さった。
「さあ、これで死んだかしら?」
「甘いぞ、アリーサ!」
しかし、爆発の後から飛び出してきたのは、パワードスーツ。
ヤーコフは、パワードスーツでわたしを殺しに来たのだ。
「く! 卑怯者!」
「卑怯、結構。俺はな、楽勝な殺しが大好きなんだぁ!」
パワードスーツが持つライフルがわたしを狙い、銃口から弾丸が飛び出した。




