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第40話 アーシャの孤独な戦い。

「八!」

「ぐは!」


 わたしの撃った弾丸で、また一人のテロリストが死んでいく。

 しかし、わたしは感慨にふける間もなく、襲い来る弾丸を避け、また撃つ。


「ぎゃ!」

「九!」


 また一人、テロリストが死んでいく。

 いや、わたしが殺していく。


 ……わたし、やっぱり死の女神ね。こんな簡単に人を殺せるんだもの。


 さっきから、火災報知器のサイレンもずっと鳴っている。


 ……煩いけど、わたしの気配を消してくれるから、まあいいわ。それに警察隊の突入も早くなりそうね。


 最初の三人までは、曲がり角からのナイフ強襲で無音殺害が出来た。

 しかし、四人目でバレて銃撃戦、更には死に際に報知器の非常ボタンを押されてしまった。


「こいつ、魔女か? 弾が当たらない!?」


「貴方たちが素人なだけよ? 闇バイトなんて手を出した事を後悔しなさい! 十!」


「ぐあ!」


 また一人、わたしは敵を撃ち殺した。


 ……あーあ。何も考えずに、こうやって敵を殺してたのよね、昔は。


 一人、一人と敵を撃ち殺す。

 そんな練習は、ロシアに居た頃は毎日やっていた。

 そしてロシアから逃げた後も、パーパと一緒に襲ってくる奴らと戦った。

 アイツらは日本まで追いかけてきて、わたしは友達の前で人を殺した。


 ……ホント、わたしって死神ね。事件を呼んで、死人を増やすんだもの。


「でも、マモルくんの前じゃ殺したくなかったなぁ」


 高校生になって出会った普通の男の子、マモルくん。

 女の子みたいに可愛い童顔の子、でもとっても勇気があって優しい。


「わたしだけに優しいんじゃないもんね、マモルくん。十一!」

「ぐ!」


 腹を撃たれて倒れていく敵兵。

 銃を撃ちあう以上、撃たれる覚悟はあるのだろう。


「し、死にたくない……。母さん」


「!! 死にたくなかったら、こんな犯罪に手を出さなきゃよかったのよぉ!」


 わたしは、死につつある敵兵に背を向け、前に進む。

 いや、敵兵が死んでいくのを見たくなかった。


「覚悟も無いのに、銃犯罪なんかしなきゃ……、しなきゃ良かったのにぃ!」


 しかし、まだまだ敵兵は、わたしに迫る。


「もう嫌ぁ」


 涙をこらえきれないけれども、わたしは銃を撃った。

 自分が死にたくないから。

 マモルくん達を守りたいから。


「マモルくん、もう一度会いたいよぉ!」


 わたしは、自分からマモルくんの元を去った。

 彼には、暖かい日常の中でずっと居て欲しいから。

 わたしと共に地獄への道を下ってなんか欲しくないから。


「……でも、寂しいよ。わたしマモルくんと、ずっと一緒に居たいよぉ」


 わたしは、泣きながら敵兵を殺していった。


「十二!」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「はぁはぁ。強くないけど、数は多いのよね」


 わたしは敵に追い込まれ、教室に逃げ込む。

 はっきりいって、ほぼ全部の敵が雑魚。

 銃を撃つ練習を少しさせた程度の敵で、CQCの基本もなっていない。

 棒立ちで弾幕をまき散らすしか能が無いから、わたしの敵では無い。


 しかし、ひっきり無しに迫ってくるから、弾丸消費も激しい。

 敵から奪った小銃(M4)の弾も、もう残りわずか。

 再び敵を倒して銃や弾を奪うしかない。


 わたしは、迂闊な敵が教室に飛び込んでいるのを待ち構える。


「クソガキ! 何処にいる!?」


 愚かにも何の警戒も無しに教室の開き戸を開ける敵兵。

 わたしは、張り付いていた天井から彼に飛び掛かる。

 そして左鎖骨の隙間から心臓目がけてナイフを突き刺した。


「!」


 声も出せずに絶命して脱力する敵を担ぎ、今度は後方にいた敵に押し付ける。


「ち、ちきしょぉ!」


 残る敵はカービン銃を乱射するが、盾にした敵兵で弾は止まる。

 わたしは敵の背後に素早く回り込み、容赦なく腎臓を突き刺し捻って殺した。


「ぐ!」


「ふぅぅ。十三、十四!」


 わたしは、敵の死体を教室に引っ張りこむ。

 そして深呼吸をしながら廊下に手鏡をそっと出し、追撃が来ていないのを確認した。


「しばらくは大丈夫ね。じゃあ、弾を奪って職員室に……。あ。ここってわたしの教室だったんだ」


 戦うのに必死で、わたしは何処の教室に飛び込んでいたのか、気が付いていなかった。

 先程まで雲に隠されていた月が夜を照らし、教室が明るくなる。

 幻想的な教室に誘われ、わたしは自分の席に座った。


「マモルくぅん」


 いつもの様に右隣の席を見る。

 普段なら、そこには童顔の男の子。

 見ていて安心できる、わたしが大好きな男の子。

 マモルくんが座っている席。


「……許されるなら、もう一度ここに座って授業受けたいなぁ」


 教壇から宗方(むなかた)先生が話しかける。

 笑うクラスメート、茶化すユウマくん、静かに微笑むマモルくん。

 この間まであった「日常」、もうそれは帰ってこない。


「そうよね。もうわたしには、ここに帰る資格なんてないもん。でも、わたしも日本で暮らして弱くなったのかしら? 日常が大事なんてね」


 ロシア時代、そして東欧での逃亡時代は、殺し合う毎日。

 しかし、平和な日本に来て後、わたしは日常を知ってしまった。

 そして、マモルくんに出会ってしまい、彼と共に過ごす平和な毎日が大好きになった。


 だが、わたしを追ってきただろうヤーコフ率いるテロリスト共が日常を壊してしまった。

 宗方先生はヤーコフに殺され、他の先生や子供たちも人質になって酷い目にあった。

 わたしが原因だと知ったら、誰も許してくれないだろう。


「マモルくんが悲しむ顔は、わたし見たくないもん」


 わたしは、席に置いてあった自分のカバンから愛銃を取り出してスカートに挟む。

 立ち上がり教室を見回して、わたしは一礼をした。

 もう二度と帰ってこない「日常」と別れる為に。


「ヤーコフ。絶対に許さない!」


 わたしは、廊下を音もたてずに走った。


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