第35話 作戦立案! 僕たちの逆転劇の開始。
「爆弾はこれでなんとかなるね。後は、三人の監視兵だけど……」
「そうでござるな。合気道が出来るマモル殿はさておき、戦闘力が低い某では、無力化は難しいでござる」
「僕でも、間合いに入る前にハチの巣になっちゃうよね」
僕とユウマくんは、監視兵を気にしながらも現状の打開策を話し合う。
話し合っているうちに悲観的な考えは遠ざかり、勝つ方法を模索する事に二人とも夢中になった。
「結局、敵兵を無力化する最初の時点で詰んでいるんだよね。僕も一人だけ、かつ奇襲ならなんとか出来ると思うけど。後の二人に撃たれてお終い」
「残念ながら成功の確率が0、かつ他の皆を巻き込む作戦では出来ないでござる。『飛車・角』無しの上、『歩』以下の某らでは無理でござったか」
「……わたしが敵兵を殺るわ。貴方たちは敵の隙を作って。後は、わたしが暴れている間に爆弾をなんとかして、皆で逃げて」
僕とユウマ君の話に突如、今まで黙っていたアーシャちゃんが口を突っ込んできた。
「アーシャちゃん、大丈夫? あ、大丈夫な訳ないよね」
「そうね、最悪の気分。でも、今までマモルくんに抱っこしてもらったので、踏ん切りがついたわ。ヤーコフは絶対、ここで殺さなきゃ被害が大きくなるの。それに……。先生は、最後にわたしの方を見て何かつぶやいたの。あの答えが、わたしは知りたい。だから、死んでなんていられないの!」
カラーコンタクトをいつのまにか外したのか、灰蒼の眼を闇夜に輝かせるアーシャちゃん。
まだ顔色は青いものの、先程までの虚ろな顔ではなく、僕が満月の夜に見た戦士の顔になっている。
「アリサ殿、復活でござるな。これで『飛車・角』が手に入ったでござる。では、再び作戦会議でござる」
「さっきまでの話は聞いてたわ。パワードスーツは四機で、一機が稼働中だったのよね」
アーシャちゃんが無理やりながらも元気を取り戻したので安心した僕。
爺ちゃんに教えてもらった事を思い出した。
◆ ◇ ◆ ◇
「アリサ嬢ちゃん。素手の実戦で一番強えぇ格闘技は、何か分かるかい?」
「最強ですか? 軍隊式格闘術というのは反則ですよね?」
「軍隊式は相手を殺すための技術だからね」
爺ちゃんの家に僕とアーシャちゃんが一緒に行ったとき、実技を含めて色々な事を教えてもらった。
休憩中、ふと爺ちゃんが漏らした一言。
最強とは何を意味するのか。
殺し合いまで含めるなら、中途半端な打撃技は最強では無い。
もちろん寝技は論外、一対一の戦いじゃない限り出番は無い。
一撃で人を殺せるパンチやキックは、改造人間レベルの膂力じゃなければ不可能だ。
「ただ殴る、蹴るじゃ人は簡単に死なねぇ。ただなぁ、投げ技は違う。頭から投げ落とせば、どんな奴でも確実に死ぬ。またな、人間は二足歩行をする以上、立っているのが本来は不安定。バランスを少し崩してやれば、後は簡単さ。コンクリートや岩に敵を投げ落とせば、地球の重力と地面が敵を殺してくれる」
淡々と爺ちゃんは、投げ技の恐ろしさを語る。
以前、僕も爺ちゃんに教わる際にみっちり受け身の取り方から練習させられた。
受け身が取れなければ簡単に死ぬぞと。
……つまり、敵に受け身が取れない投げ技を使えば、敵は死ぬんだ。
「そ、そう言われれば。わたしはロシアの秘密機関ではナイフ戦闘ばかりで、投げ技はあまり習いませんでした。サンボは少しだけ習いましたが」
「俺んとこじゃ、手業は敵の顎や鳩尾なんかの急所狙い。他は相手の攻撃をそらす技。蹴り技は、敵の重心が乗った軸足を刈り取る技さ。後はどうやって投げて、地面に叩きつけるか。その応用技で捕縛術もあるがな。あと、小太刀術もあるぜ」
爺ちゃんは、合気道だけではなく古武術の奥義に近い技をどんどん僕やアーシャちゃんに伝えてくれた。
「こんなに大事な事を簡単に教えてもらっていいんですか、お爺様? これは奥義では無いですか」
「なあに。可愛い孫の、これまた可愛い嫁が生き残るの為の技を教えただけさ。気にせずに、覚えて帰りな。また、いつでも教えてやるよ、アリサ嬢ちゃん。マモルも、もう戦う男。だったら、心構えだけでも覚えておけや」
爺ちゃんは、気配をも操る秘術まで僕たちに教えてくれた。
「『朧月夜』。これはな、先祖が戦場で生き残る為に編み出した歩法。現代戦でも役に立つぜ」
◆ ◇ ◆ ◇
「マモルくん。話を聞いてるの? 寝てない?」
「あ、ごめんね。爺ちゃんに教わった事を思い出してたんだ」
考え事をしていた僕、アーシャちゃんに突っ込まれる。
大分顔色が戻って来たアーシャちゃんを見て、僕は安心した。
「お爺様の技の事ね。さっそく役に立ちそう」
頼もしそうに薄笑いをするアーシャちゃん。
僕は、うまくこのピンチを乗り切れると思った。
「じゃあ、一時間半後に作戦スタート。それまで仮眠して体力温存しましょ」
「賛成でござる」
「うん、アーシャちゃん」
僕たちはECMで時計くらいにしか役に立たないスマホのタイマーをセットする。
そして眼をつぶった。
その時、ふわっと甘い匂いが僕を包む。
「マモルくん。わたしを抱いてくれない。あ、違う。違うの。抱っこしてほしいだけよ?」
眠ろうとした僕にアーシャちゃんがくっつく。
言い間違えたのを慌てる風が、とても可愛い。
「はいはい。可愛いアーシャちゃんの頼みだものね。あ、僕。汗臭いかも?」
「それをいうなら、わたしだって汗だくよ? わたし、マモルくんの匂い、嫌いじゃ無いの」
甘い汗の匂いをさせるアーシャちゃんを、僕はそっと抱きしめた。
「ありがと。わたし、マモルくんの暖かさがあるから戦えるの。マモルくん、大好き! 絶対に皆で生きて帰ろうね」
「うん!」
僕は、アーシャちゃんと一緒に眠った。




