第33話 残酷なテロリスト! 僕は、先生からアーシャちゃんの事を託された。
薄暗くなりつつある体育館。
そこに集められている僕たちは、ひと固まりになって泣き苦しんでいる。
なぜなら、僕たちはテロリストによって人質になっているからだ。
「先生……。宗方先生……。うぅぅ」
「どうして俺達がこんな事に巻き込まれなきゃいけないんだぁ!」
「おかーさん!」
中学生の子達は、全員震え泣いている。
高校生も女の子は静かに泣き、男の子達も暗い顔だ。
僕は、体育館の端っこ。
僕らから離れた場所で布に包まれて安置されている、元は生きていた人だったものを見る。
……先生、絶対に僕が仇を討ちます。今は辛抱してチャンスを待つんだ。爺ちゃんの教えを生かし、アーシャちゃんを守るんだ。
僕は、虚ろな目で震えるアーシャちゃんを抱きしめ、チャンスを待つ。
アーシャちゃんの暖かさを感じながらも、僕は用心深く警備をしている奴らを観察した。
先生が、僕らに託した願いをかなえる為に。
◆ ◇ ◆ ◇
「オマエ! オマエが、俺をこの学園から追い出した。俺はなぁ、そこから苦労したんだぞぉ。だからなぁ、俺はオマエとオマエの学園に通う生徒に復讐するんだぁぁ!」
「や、やめて。せめて子供たちには手を出さないでぇ!」
醜く太った四十路ほどの男が体育館の舞台上に立ち、寝転がる校長先生を激しく蹴る。
「オマエらはなぁ、俺が世界に復讐するための生贄だ! 俺は社会から爪弾きになったんだぞ。全部、俺が女を強姦したくらいで俺を学園から追い出したからだ! そこから先も俺の人生は、ろくな事がなかった。たかが万引きをしたくらいで、会社は俺を首にしやがった。あんなに儲けている店から少々盗んだくらいで、どうして俺が苦労しなきゃなならないんだぁぁ!」
……こいつも自分の愚かさを棚上げして逆恨みかよ。でも、こいつがボスの形をしているけど、本当の指揮官は絶対に違う。多分、アイツだ。アイツだけ気配が違うし、日本人じゃない!
始業式の為に体育館に集まっていた僕たち。
学校に乱入してきたテロリストによって、あっという間に人質になった。
テロリストは、トレーラーから四台の強化装甲外骨格、様はパワードスーツを降ろし運動場に配置、警官隊の侵入を警戒している。
また、校舎内に入ってきた十数人の兵士達は警備員の人を撃ち殺し、そのまま学園を占拠した。
「ボス。そんなババァを蹴っても面白くないでしょ。やるなら、若い方が面白いぜ。なあ、そこの女先生、いや公安の犬!」
片目を機械式の義眼にしている傷跡だらけの西洋人。
彼は校長先生を蹴っている男を制し、視線を宗方先生に向けた。
「ヤーコフ! アイツ、どうして生きているの? わたしが殺したはずなのに……」
宗方先生を先生方の中から舞台上に引っ張りだす壮年の西洋人を見て、アーシャちゃんが震える。
「アーシャちゃん。ヤーコフって確かアーシャちゃんが居た施設の教官だったって……」
「ええ、そう。そして、わたしが施設から脱出するときに頭に拳銃を撃ちこんで殺したはずなの! カーシャちゃんの、他の子達を殺した憎いヤツ。でも、どうして……」
真っ青な顔で震え、今にも倒れそうなアーシャちゃん。
僕は、アーシャちゃんをそっと抱きしめて支える。
「不満そうな顔だな、女。どうして自分の正体がバレたか分からんのだろ? 冥土の土産に教えてやる。ホテル襲撃事件があったろ。あの時SNSに流れた写真に拳銃を持っていたオマエがいたんだよ。それとな、この学園に爆弾を仕掛けに来た仲間も極秘裏に消された。なら、オマエの仕業って事だ!」
顔半分が金属でおおわれているヤーコフ。
一瞬視線を舞台上の先生から生徒の方、いや僕が抱きしめているアーシャちゃんにはっきりと向けた。
そして下品に笑う。
……こいつ、アーシャちゃんの事を知ってるぞ! それでも先生を痛めつけるつもりなんだ。卑怯者めぇ!
「……そこまで知っているのなら、言い逃れはしませんわ。で、貴方がたの要求は何かしら。まさか、校長先生やわたしを痛めつける為だけに、こんなことをしたのかしら?」
「女、オマエは黙ってろ! 俺はなぁ! 世界に復讐するんだ。その為の第一歩が学園の破壊だ! そして、ここを拠点にして世界に討っていくのだ! 『あの方』は俺に、仲間や武器をくれた。警察や軍が来たって怖くないぞぉ!」
ボスという太った男は、意味不明な戯言を言うだけ。
しかし、ヤーコフはボスを半分無視して話を進める。
「ボス。とりあえず、この女は邪魔だ。美人さんで勿体ねぇが公安だから生かしておけない。女、言い残す事はねぇか? ガキ共、お前らは俺達の邪魔をするな! 邪魔をしたら、こいつみたいに殺すぞ」
「そうねぇ。じゃあ、預言しておくわ。貴方たち、全員後悔しながら死ぬの。わたし、地獄の入り口で貴方たちが全員来るのを確認してから天国に行くわね」
ヤーコフが持つ小銃の銃口を睨め付けて、啖呵を切る先生。
そして一瞬、視線を僕らに向けた。
先生の唇が、何かを伝えようとして動いた。
ぱん。
しかし、小銃から火が噴き、先生の額に穴が開く。
先生は力を無くし、膝から崩れるように倒れる。
先生の、何も見ていない虚ろな眼から涙がこぼれた。
そして、先生が倒れた床が血で濡れていった。
「きゃー!」
「うわぁぁ!」
先生が撃たれた。
撃たれた。
撃たれて死んだ。
死んだ。
死んだ? 死んだ??
殺された!?
「うぁぁぁぁ!!」
僕の口からも大声が飛び出した。




