第31話 僕とアーシャちゃん。お爺ちゃんの道場へ向かう。
「ここがお爺様の家なの、マモルくん?」
「そうだよ、僕のお爺ちゃん。【柴谷 勝】の自宅、兼道場だね」
仲直り、というか僕のプロポーズ(?)で立ち直ったアーシャちゃん。
母さんに言われた通り、お爺ちゃんに二人で会いに行くことになった。
……アーシャちゃんを守るのなら、僕。もっと強くならないと!
和風二階建ての母屋と平屋道場がいっしょになった家屋。
昔からの日本家屋に慣れないアーシャちゃんには、不思議な建物に見えるだろう。
「こんにちは! 爺ちゃん、祖母ちゃん。連絡してた通り、アーシャちゃんを連れてきたよ」
「マモル、いらっしゃい。あらあら、とっても綺麗な女の子と一緒なのね。これは曾孫が楽しみだわね」
「お、お婆様。始めまして、わたくし、柊 愛理紗と申します。今日はお招き頂きまして、ありがとう存じます。マモルくんとはお友達としてお付き合いさせて頂いておりますの」
玄関口で出迎えをしてくれたのは、【幸子】お祖母ちゃん。
六十代真ん中過ぎだけれども、お祖母ちゃんというよりはオバちゃん風。
アーシャちゃんを見て、あらあらと曾孫を連想するのは、流石は母さんの母親だからだろう。
「婆さん、玄関口で話してないで二人を道場に案内しなさいな」
「ええ。お菓子ありがとうね。じゃあ、後でお茶を入れましょうか。でもねぇ、あの、マモルちゃんは彼女、それも超美人さんを連れてくるなんて、長生きはするものね、うふふ」
お祖母ちゃん、アーシャちゃんが持ってきた菓子折りを受け取り、意味深な笑い。
「マモルくん。貴方のお母様も変だと思ったけど、お婆さまも中々ね」
「うん。僕もそう思う。お爺ちゃんはもっと変だけどね」
小声でつぶやくアーシャちゃんに相槌を打つ僕であった。
「よう、マモル。すげぇ別嬪さんを連れてきたな。オレがマモルの祖父、マサルだ。見ての通り、か弱い老人だよ」
爺ちゃん、道場の畳の上にあぐらで座り、僕らに声を掛ける。
やせ型体形、更に身長も僕とそう変わらず170センチも無い小柄。
決して強そうには見えないが……。
「お、お祖父さま。わたくし、柊 愛理紗と申します。既にわたくしの事はお聞きなさっているとは思いますが、……」
妙に緊張しているアーシャちゃん。
初対面かつ僕の祖父だからなのか?
……いや、違うよ。これ、爺ちゃんの『気』に押されているんだ。
只、そこに座っているだけ。
しかし圧倒的な存在感を発する小柄な初老の男。
これが爺ちゃん。
僕どころか母さんや父さんも、未だに勝てないツワモノ。
「ほう。オレの『気』を感じるか、アリサ嬢ちゃん。流石は現役エージェントだな。マモル、お前中々人を見る目がある。合格だよ、二人とも」
カッカッカと笑いながら膝を打つ爺ちゃん。
それでも一切の隙が無く、眼をアーシャちゃんから一切離さない。
「……参りました。わたしが今まで戦った、どの相手よりもお爺様が怖いです。殺気を送っても手ごたえが全くないですし、隙すら見せてくださいませんですから」
「そりゃ、この道で五十年以上生きてるんだ。殺し合いはやったこたぁ無ぇが、それでも幾度かは死線を潜ったよ。まだ戦い出して十年経たねぇお嬢ちゃんに負ける様じゃ、師匠なんてやってねぇさ。さあ、そんな処に突っ立って無ぇで、座れや。婆さん、お茶と菓子を」
「はいはい、貴方。アリサさんが買ってきてくださったお菓子を皆で食べましょうね」
ようやく「気」を解いた爺ちゃん、僕たちは安心して道場の畳の上に座った。
◆ ◇ ◆ ◇
「なるほどねぇ。マモルは、アリサ嬢ちゃんを助ける為に強くなりてぇ。お嬢ちゃんは、相手を殺さなくても倒せるくらいに強くなりてぇか。で、アリサ嬢ちゃんから見て、マモルはどうだい?」
「そうですね。相手が素手であれば、プロ相手でもそこそこ戦えると思いますの。もちろん、刃物とか銃を使う相手には立ち向かってほしくは無いですわ」
僕たちは、爺ちゃんに強くなりたい理由を話した。
僕は、アーシャちゃんと一緒に居られるように。
せめて、背中くらいは守れる盾になりたいと。
……アーシャちゃんは、どんな相手でも殺したくないんだけど、不殺は殺すのよりも難しいものね。
「あ、そういう意味じゃねぇんだがな。マモルの強さは白帯としては別格、でも黒帯以上じゃねぇ。経験が圧倒的に足らんからな」
「意味が違うとは、お爺様?」
「マモルを人生の相棒として、どう思ってんだって事さ」
「【美穂】から聞いたわ。お互いに思いあっているって。あー、クォーターの曾孫って楽しみ」
爺ちゃんは、アーシャちゃんが僕の強さを分かっているのかでは無くて、僕自身の事をどう思っているのかが聞きたかったらしい。
祖母ちゃんは母さんから話を良く聞いているらしく、うふふと嬉しそうだ。
……ホント、母さんのお母さんだよね。そっくり。
「わ、わたしは……」
すっかり赤面し、アラバスタな顔だけでなく耳や手足まで真っ赤になっているアーシャちゃん。
……今日のアーシャちゃんはツインテールにパンツルック。爺ちゃんから技の手ほどきしてもらう予定だから、動きやすい恰好なんだ。
「うん。もういいよ、お嬢ちゃん。その反応だけで十分分かった。マモル、この嬢ちゃんを絶対に逃がすなよ」
「うん、爺ちゃん。僕、アーシャちゃんとずっと一緒に居るよ!」
「マモルくん、わたし恥ずかしいよぉ!」
恥ずかしそうに、ぽかぽかと力ない拳で僕を殴るアーシャちゃん。
僕は、彼女の愛ある「攻撃」を笑いながら受け止めた。




