第3話 僕の学園生活。やっぱり気になるアノコ。
GWも終わり、高校生活にも慣れた頃。
僕は友達と昼休みに、オタクな記事と女の子のイラストでいっぱいなミリタリー雑誌を見ている。
「マモル殿。これは、どうでござるか?」
「うん、この強化装甲外骨格は米軍デザインにしては珍しくカッコいいね。アメリカのロボって、なんでか野暮ったいからね。で、いつも思うんだけど。ユウマくんは、どうしてそんな話し方なの?」
……最近、軍隊でも3メートルクラスのパワードスーツが出てきたんだよね。歩兵が固くなると良い事も多いし。
「マモル殿は、心の友でござる。某の真の姿を見せずして、どうするでざる?」
この学園に入って最初に出来た友人、【加藤 祐真】くん。
今時、瓶底眼鏡を掛けていて何処から見ても生粋のオタク。
そして中身も、多分野において詳しい真のオタク。
パソコン、無線、英検などなど各種資格を網羅。
この学園にユウマ君が来た理由のひとつに、学業優秀・品行方正であれば在学中にバイクや自動車の運転免許が取得できるかららしい。
「すまぬ。確かオタクは同じクラスの学友、植杉殿でござるな。オタクからは『波動』を感じる。そう、何処か陰になりながらも光を求めるものを!」
4月初旬、僕が昼休みにスマホで興味のある記事を見ていた時、怪しげなワードいっぱいに話しかけてきた男の子。
それがユウマくん。
彼から見れば、僕からは同類。
過去に経緯があって、この学園に来たオタク仲間に見えたそうだ。
……ユウマくんも中学校時代に酷いイジメを受けていたらしいんだ。過去は過去、大事なのは今でござるって詳しい事は教えてくれないんだけどね。
「僕に真の姿を見せてくれるのは嬉しいけどね。でも、ユウマくん。眼鏡外したらカッコいいのに勿体ないよ。どうしてコンタクトにしないの?」
「某、高校時代は大人しくしておいて、大学デビューするのが夢でござる。だから、女性慣れするために女子が多いココを選んだのでござるよ。だから、教室では女の子とも普通に話すでしょ?」
話の最後に、突然会話モードを切り替えるユウマくん。
クラスでは普通に話していて、女子とも打ち解けているのが仮の姿なのか?
……ユウマくん、眼鏡で綺麗な目元隠すのは勿体ないと思うんだけど。普通にして着飾ったらモテモテじゃないかな?
「そういうマモル殿は、アノ子に夢中でござるか。学園一番の美少女令嬢をご所望とは、実にお目が高いでござる」
「ちょ、ぼ、僕は、そ、そんなつもりじゃ。だって柊さんは綺麗だし、僕とも話はしてくれるけど、僕じゃ釣り合いが……」
「某、アノ子としか話していないでござるが、やはり柊女史に夢中なのでござるな!」
「あ!」
すっかりユウマくんの誘導尋問に引っかかった僕。
頬や耳がとっても熱いから、たぶん鏡で顔を見たらユデダコみたいになっているに違いない。
「では、恋に恋するマモル殿に柊女史の情報を開示するでござる。彼女は中学二年より学園に編入。元々は帰国子女で海外生まれとの事。病弱で学園を休み気味でござるが、成績はいつもトップクラス。何故か機械とは相性悪いみたいでござる」
突然、ユウマくんは自慢げに柊さんの個人情報を話し出した。
「品行方正、お淑やかでいつも微笑を絶やさぬ深窓の令嬢。才色兼備な学園一の美少女。身長は152センチ、体重は……。って、マモル殿? 聞いているでござるか?」
「ちょ、どうしてユウマくんは、そこまで柊さんの事に詳しいんだよぉ!? ま、まさか!?」
「我が親友の思い人。なれば某が調べておかねばどうするでござるよ! 柊殿には、某とは違うが何か秘密めいたものも感じるでござる。あの微笑は『仮面』でござらんか?」
ユウマくん、何処に情報ソースを持っているのか分からないけれども、時々妙な事を知っていたりする。
まもなく迫る中間試験のヤマまで、既に予想済みとの事だが。
「まあ、女子の体重やスリーサイズについては語るのは無粋でござるな。夏のプールになれば、おのずとサイズも分かるでござるが」
「だ・か・ら! それってセクハラだよ? 僕、柊さんをそんな目では見たくないんだ」
「マモル殿は純愛でござるな。安心するでござる。某、マモル殿から柊殿を奪うつもりはござらん。某は年上好み、宗方先生がタイプでござる。一見華奢なのに豊満な胸と腰からのラインがきれいでござるよ!」
この後も、女子には聞かせられない様な話をする僕たちだった。
◆ ◇ ◆ ◇
僕と柊さん。
それからも、何回も通学路では一緒になった。
何故か自動改札機に捕まる彼女を助けるのは毎朝、その度に学校での微笑とは全く違う顔。
恥ずかしそうな笑顔で僕に感謝をしてくれる。
その笑顔を見たくて、僕は彼女の通学時間に出来るだけ合わせるようにした。
「にゃ。にゃ!にゃー」
またある時の帰宅時、僕は柊さんがペットショップのウインドウにくっついて子猫を見ているのに気が付いた。
「にゃ。にゃ。にゃ。あー、わたし留守にすることが多くなきゃ、この子と一緒に暮らせるのにぃ!」
学校では見ないような、年相応で幼く、それでいて表情豊かな笑顔。
僕は物影から柊さんの姿を見て、心臓がドキドキとした。
彼女のそんな姿を見てしまった事が恥ずかしいのか、彼女の姿を見てしまった事が分かるのが怖いのか。
僕は、逃げるようにペットショップが見える路地から走った。
僕は、彼女の本当の笑顔が見たかった。
学校での仮面のような微笑、それは何かを隠している様。
僕は、なんとなく彼女には大きな「秘密」がある様な気がした。