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第27話 アーシャちゃんの過去。アレクサンドルさんは後悔をする。

「本当にアーシャは幸せ者デスね。皆サンに愛シテもらって。私のような不甲斐ナイ父親なんか、最初から居ない方がモット良かったかも……」


「いえ、そんな事は無いと思いますよ、リヴィンスキーさん。アーシャちゃん、お父さんの事を話すときはいつも微笑んでましたから」


 僕たちのところにアーシャちゃんのお父さん、アレクサンドルさんが来て話をしてくれている。

 心を壊してしまったアーシャちゃんを救う方法。

 それは、アーシャちゃんの過去にあるはずだから。


「ありがとうございます。デハ、まずは私の事カラお話しましょウ。私ハ、元ロシア連邦軍参謀本部情報局員(GRU)、少佐トして中央アジア某国で駐在武官補佐をしていまシタ。そこで私はアーシャの母、カオリと出会ったのデス」


 GRU、それはロシア軍の情報組織。

 スパイ、駐在武官、情報参謀などが所属する組織。

 有名な特殊部隊「スペツナズ」も、GRU所属と僕は聞いた事がある。


「ロシアでは旧KBGとならぶスパイ組織でござるな。さすれば、お父上はとても優秀でござる」


「日本の坊やにしては良く知ってイルね。しかし、私は優秀デモ何でもないヨ。妻を失い、娘も忘れてイタ様な男だからナ」


 自虐気味に呟くアレクサンドルさんは、某国にて母国ロシアに有利に働くように工作を行っていた。

 その際、日本の商社から来ていた若い女性、【(ひいらぎ) 香織(かおり)】さんと出会ったそうだ。


「じゃあ、アーシャちゃんの苗字、柊はお母様の」


「ええ、そうデス。アーシャの名前、正確にはアリーサ・アレクサンドロヴナ・ヒイラギ・リヴィンスカヤとイイます」


「ロシア語ではファミリーネームは女性と男性で変化すると聞いたでござる。それでお父上がリヴンスキー、アリサ殿がリヴィンスカヤになるでござるな。あと、お父上の名前をミドルネーム、父性として使うでござった」


 ユウマくんが説明してくれたのだが、ロシア語では男女では苗字が変化するそうだ。


 ……ユウマくん、アーシャんちゃんがロシア生まれって随分前から気が付いていたかもね。


「私とカオリは、難民救済活動で一緒ニ仕事をしましタ。アーシャは母親似ですが、母親。カオリはアーシャよりモット小さな身体なのニ、一生懸命人々を助けていましタ。その神々しク眩しイ姿に、私は魅入られてシまいましタ」


 商社経由のNGOとして働いていたお母様、その姿に僕同様に魅入られたアレクサンドルさんは惚れ混み、母国の利権を無視して彼女を助けたそうだ。


「私は母国からの指示、難民を政府転覆に使えという命令を無視シ、カオリを助けましタ。だっテ、その方が気持ちイイですシ、カオリの笑顔を見られましたカラ」


 その後、アレクサンドルさんとカオリさんは結ばれ、国際結婚をしたそうだ。


「国の命令を無視した私ハ、更に政情不安定なアフリカ中央部ニ送られマシた。そんな私にカオリは一緒に来てくれマシた。これが悲劇の始まりとも知らずニ……」


「日本も同様、大抵の国の駐在武官はスパイ。政情不安定にさせて自国の為に利を得る為に働くのはアリアリでござる。それを妨害したので、生贄にされたでござるな」


「全く、この坊やハ何者カイ? 全部、見抜かれているネ」


 アレクサンドルさんの発言に指摘や助言をするユウマくん。

 僕が想像もしなかった事まで話す。


(それがし)の事はいいでござる。まだアリサ殿が生まれてはおらぬでござるよ?」


「……話を戻すネ。アフリカ某国でカオリは妊娠をしタ。しかし、その国では医療技術が遅れておリ、更に内臓も弱く小柄なカオリには妊娠は負担が大きかっタんだ。そして母国の思惑通りに内乱が起こり、某国は崩壊しまシタ」


「妊娠中毒、腎臓に負担が大きかったのですね。わたしも注意しなさいと産婦人科の先生に言われましたわ」


 腎不全寸前になったカオリさん。

 それでもアーシャちゃんを産むことをあきらめず、小さな身体に無理をして出産をなさったそうだ。


「カオリは、内乱で満足ナ医療を受けられない中、アーシャを産みましタ。そしてアーシャの顔を見て微笑みましタ。『貴方、そっくりの綺麗な目ね』と言いましタ。それガ、最後の言葉ダッタのでス」


 カオリさんは、アーシャちゃんを産んですぐに意識を失い、数日後に亡くなった。

 残されたアーシャちゃんとアレクサンドルさんは、命からがら共にロシアに帰ったそうだ。


「アーシャの名前。女の子ならアリーサにしようト二人で決めていまシタ。日本語にもある可愛い名前ダと。おかげで今、皆様に愛してもらってマス」


 その後、アーシャちゃんは国が運営する養護施設で育てられる事になった。


「この時、私が軍を辞めていれば良かっタ。アーシャをあんな環境で育てる事も無かったのデス」


 各国に諜報員として送られるアレクサンドルさん。

 そんな環境で男手一人でアーシャちゃんを育てる事は出来ないから、養護施設に預けるようになったのはしょうがないと思う。


 ……僕ならどうしたんだろうか? 自分の娘と仕事、どっちを選ぶのだろう?


「もしや、その養護施設が……」


「ええ、マモルくん。それコソが地獄、軍ノ特殊部隊育成機関だったのデス」


 僕は、アーシャちゃんが戦闘技術を得た場所について知ってしまった。


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