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第25話 殺人を見られてしまったアーシャちゃん。そして……

 アーシャちゃんが拳銃を撃った。

 二発。

 その銃口から放たれた弾丸は、銃口が指し示す先へと飛ぶ。


 銃口の先にあったのは、警官隊の中で暴れまわり、自爆しそうになっていた犯人の額。

 銃弾は、犯人の額にビシリと二つの穴を開ける。

 そして犯人の後頭部が弾けた。


 びくん! と一瞬痙攣をおこした犯人。

 額と後頭部に開いた穴から流血し、何処も見ていない眼を見開いたまま崩れ落ちた。


 ……う、撃っちゃった。アーシャちゃんが犯人を殺した……。


「きゃぁぁぁ!」


 一瞬遅れて群衆から悲鳴が起こる。


「マモル! アリサちゃんを早く!」

「う、うん!」


 僕は母さんの掛け声で我を取り戻し、アーシャちゃんの方に駆け寄る。

 そして呆然となっていたアーシャちゃんの手を握り、走った。


「い、痛い。マモルくん、何を」

「今は、急いでこの場所から逃げるんだ。早く!」


 僕はギュっと小さなアーシャちゃんの手を握り、一路ホテル内へと逃げ込んだ。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「母さん、アーシャちゃんは……」


「謝るばかりで、部屋に閉じこもっているわ」


 犯人を射殺したアーシャちゃん。

 僕たちに自分が人を殺したのを見られたのがショックなのか、ホテルに入り次第、僕の手を振り払って自分の部屋に入ってドアを閉じてしまった。


 僕はドアを開けるように何度も呼びかけたけれど、反応がない。

 母さんにホテルから貰った合鍵カードを使ってもらい、アーシャちゃんに会ってもらったけれども「ごめんなさい」しか言わないそうだ。


「ショックであるのは間違いないでござるが、あの時アリサ殿が撃たなければ、(それがし)達は無事ではすまなかったでござる。誰もアリサ殿を責めてはおらぬのでござるが、アリサ殿は自分自身を許せぬのでござろう」


「アリサおねーちゃんは、何もわるくないもん。アタシたちを助けてくれたのにね。早く部屋から出てきて欲しいな。心配なの」


 荒事に慣れていないはずなのに、落ち着いて状況判断が出来ているユウマくん。

 そして、目の前で人が傷ついたり死んだりしているのに、それでもなおアーシャちゃんを心配するミワ。


「マモル。貴方が一番落ち着いていないわね。そりゃ、自分の思い人が人を殺すのを見て冷静でいなさいなんて事は言わないわ。でもね、一番苦しんでいるのはアリサちゃん。あの時の選択は間違っていない。でも、それで自分が嫌われるのをひどく怖がっているのね」


「僕、こんな事でアーシャちゃんを嫌ったりしないよ、絶対。でも、僕の気持ちがアーシャちゃんに簡単には通じないよね。どうしたらいいんだろう?」


 僕たちは一旦ホテルに入った。

 事件が起こった事でホテル側、大半の宿泊客を近隣の同業者に移した。

 ただ、僕たちは事件関係者という事。

 更に秘匿すべき情報が多いために、公務員共済施設であるココから移動しない方が良いという判断が「上」からなされ、そのまま宿泊している。


 ……事件を解決したということで、宿泊費は要らないとホテル側は言ったそうだけど、母さんは普通に支払うと言い張ったんだ。その分、良いご飯とかサービスをお願いって頼んだみたいだけどね。


「皆さん、お疲れさまです。先程は忙しくて感謝できず、すいません。お母様、そしてマモルくん、ユウマくん。ありがとうございました。おかげで事件は最悪の事態を避ける事が出来ました」


 しばらくした後、事情聴取から先生が帰ってきた。

 そして僕たちに、深く頭を下げた。


 ……僕たちには、警察は事情聴取は簡単にしか行わなかったんだ。アーシャちゃんや先生の関係者だというのもあるんだろうね。


「じゃあ撃たれた警察の方は……」


「はい、お母様。防弾具を着ていたので、二人ともなんとか一命はとりとめました。ただ、デモ参加者の中には……。爆弾が悪質で破片効果を考えた仕掛けだったので」


「犯人は00パック(8発弾)スラッグ(一粒)弾を撃ってた様に見えたでござる。貫通さえ防げれば、死なずにすんだでござるか。しかし、自動車爆弾にナットや釘入りとは悪質でござった。某も知識としては知っているでござるが……」


 犯人に撃たれた警察官、防弾具を着ていたようで致命傷は避けられたようだ。


 よく勘違いされているけれど、防弾具を着ていたら銃撃を受けても無傷とか無敵ではない。

 人間が着られる装甲程度では貫通を防ぐのがやっと。

 衝撃は止めきれないので、内臓破裂とかは十分ありうる。


 ……そういう意味で、最近軍が開発しているパワードスーツ、強化装甲(ハイパーアーマード)外骨格(スケルトン)なんかは、アサルトライフル弾くらいには無敵だよね。それに大型機関銃を自分で撃てるのは強いや。


「そうですか、先生。で、犯人ですが、本当に自爆する気だったのですか?」


「ええ、マモルくん。身体に巻いてたのは間違いなくプラスチック爆弾。ご丁寧にネジ釘入りでした。また、持っていた起爆装置は別の爆弾、駐車場に止められていたA重油で満載のタンクローリーにも繋がってました。それと、これも貴方がたにはお知らせしますね。ニュースでも流れますでしょうから……」


「犯人、ご両親をやっぱり……」


「ええ、お母様。悲しい事ですが……」


 後からニュースで僕たちも詳細を知ったが、犯人は両親や祖母を殺した後、凶行に走った様だ。


「そういえば、犯人は『あの方』と何回も言ってましたね。確か、僕とアーシャちゃんが捕まえたコンビニ強盗犯も『あの方』と言ってた覚えが……」


「それは、ネット上で暴れておる先導者、いや扇動者でござるな、マモル殿。自らの名を呼ぶことを禁じており、過激な事を話して扇動をしているでござる」


「ええ。ユウマくんの言う通り、今回の犯人が使っていたパソコンや情報端末には、『あの方』との接触の痕跡があるらしいの。まだ、科捜研の調査が開始したばかりらしいけど」


 事件は解決したものの、背後に何かいそうな予感がする。

 僕とアーシャちゃんの関係、こんな事で壊したくはない。

 そう、僕は思った。

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