第24話 斜め上な母さん、犯人を制圧する。しかし……。
「ぐぎゃぁ!」
「人様を撃っておいて、このくらいの痛みで悲鳴を上げるなんて情けないわねぇ。じゃあ、もう一段!」
「ぐわぁぁ!!」
僕は、不思議な光景を見ている。
先程、母さんは爆弾魔にショットガンを撃たれたはず。
なのに、母さんはピンピン。
いつのまにか犯人の背後に周りこんで、両腕を後ろ側にねじ上げている。
「マモルくん、お義母様って何者なの?」
「アーシャちゃん、それは僕も聞きたいよ? 確かに道場とかじゃ強かったけど、銃相手に勝つなんて……」」
どこかの名作漫画風。
「あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!」なら
犯人に撃たれたと思った母さんが、いつのまにか犯人の背中に周りこんで犯人を制圧している。
……催眠術とか超スピードの類なの? それこそ、頭が変になりそうだよ!
母さん、犯人の足に自分の足を絡めて、さらに犯人の手を後ろにねじ上げた。
「こ、これは! 伝説のプロレス技、『リバース・パロスペシャル』でござらんか! 漫画やアニメ以外では初めて見るでござる」
「おかーさん、プロレスも好きだからねぇ」
先程まで声も出せなかったユウマくん。
今度は興奮気味に母さんの活躍を解説する。
ミワも解説の追加説明をするのだが、そんな簡単なものなのか?
僕の頭脳は想定外すぎて理解を拒否していた。
「ぐ、ぐぎゃ。や、やめ、やめてぇ」
「貴方、ご両親を傷つける時、辞めてって言われて辞めたの? もう手遅れなの。貴方には罰を天に代わって与えるわ」
もはや苦痛で悲鳴しか出ない犯人。
母さんは悲痛な顔で、尚も犯人を痛めつける。
犯人は、立っていられず膝をつくが、母さんが腕をねじ上げるので、倒れる事も出来ない。
「さあさあ、もっと悲鳴を上げなさい! 救急隊の方、今のうちに撃たれた方の応急手当を。防弾装備をなさっていたら、助かる可能性もあります。マモル、警察には追加で電話をしたわよね?」
「う。うん。もうすぐ来るって話だけど……」
母さんは、犯人を制圧しながらテキパキと指示を飛ばす。
追加の救急車やパトカーのサイレン音がどんどん近づいてくる。
しかし、僕は母さんが想像の斜め上に強いのに言葉が出ない。
もちろん先生もアーシャちゃんも、そして周囲にいた避難民たちも身動きをしない。
いつもならスマホで事件現場を取るような若者も、母さんの一瞥で撮影をためらっていた。
……母さん、怖い! 父さんが母さんに勝てないって意味、物理的にもなんだ!
「じゃあ、いつまでもこのまま押さえつけるのも疲れちゃうからトドメさしましょ。よいしょ!」
「ぐぎゃ!」
可愛い掛け声で母さんは、犯人の腕を更に動かないはずの方向へ動かした。
犯人の悲鳴と共に、グキャっという鈍い音が二つなる。
犯人、肩が曲がらない方向に曲げられ、白目をむいて倒れた。
「ふぅ。久しぶりの実戦だったけど、上手くいったわ。銃を持っていても、馬鹿相手なら楽ね。挑発と口先で視線と射線誘導させたら、避けやすいものね」
「おかーさん、すっごーい!」
ようやく駆けつけた警官隊に犯人をわたし、肩を回す母さん。
飛びついてみたミワを抱きとめ、よしよしと菩薩の笑みで迎えた。
「お義母様、何なのですか? わたし、何を見たのですか?」
「あら、現役のエージェントさんに不思議な顔されちゃったのね。犯人、肩の関節を外しただけだから死にはしないし、綺麗に外したから障害も残らないはずよ。まあ、しばらくは痛みに襲われて両腕は使い物にはならないけどね」
ミワを抱きしめながらテヘペロな母さん。
その様子に周囲の人々はドン引きしている。
「母さん、貴方は……」
「昔取った杵柄なだけよ? これでもわたしは元婦警だし。わたし、お父さん、マモルのお爺ちゃんから全部の奥義を習ったの。そこには対武器・銃器の戦い方もあるわ。それを応用したの。アリサちゃんはウチの義娘だから、今度教えてあげるわ」
「爺ちゃん、僕には何も言わなかったけど」
「そりゃ、まだマモルには早いものね。今度、お爺ちゃんのところにアリサちゃんを連れて行ったらいいわ。わたしだけでなく本家から教わった方が良いし」
犯人も警察に確保され、救急車も続々と怪我人を運び出す。
僕らはその様子に安堵し、油断をしてしまった。
「うわぁぁ!」
「きゃぁ!」
しかし、再び悲鳴が飛び出し、僕は其方に振り返る。
「ばばぁ! そして、国のイヌ、ブタどもめぇ。お前らは死ねぇ。俺と共にシネぇ! 『あの方』は言っていた。英雄は死んだら英雄の座に祭り上げられ、沢山の乙女たちと無限の快楽を味わえると!」
動かない両手を無理やり動かし、警官たちを隠し持ったナイフで切りつけた犯人。
今度は着ていた防弾チョッキを開き、己の太った腹を見せた。
そして、いつの間にか爆破スイッチも動かない腕で握っていた。
……あれは!
「C-4でござる! あ、危ない!」
犯人の腹にはいくつもの棒状のものが巻かれていた。
それはプラスチック爆弾。
僕は、ユウマくんの言葉で犯人が自爆する事に気が付いた。
……もう間に合わない! 僕は構わないけど、少しでも沢山の人を庇うんだ!
急いで、目の前にいた母さんやミワの盾になろうと、二人に覆い被る。
「アーシャちゃん!」
僕は視界外に居た、アーシャちゃんに視線を向けた。
彼女も助けようと大きく手を伸ばす。
「マモルくん、わたしが皆を守るわ!!」
アーシャちゃんは、一瞬僕の方を悲しそうな笑顔で見る。
そして観衆や警官隊の前で拳銃を抜き、引き金を引いた。