第23話 乱暴に高説を垂れる犯人。動く母さん!
「お前ら、動くな! 動いたら撃つぞ。爆発させるぞ!!」
爆発を起こさせたらしい犯人、右手に持ったソードオフされたショットガンを振り回し、周囲を威嚇する。
また左手を上にあげ、持ったスイッチらしきものを見せつける。
「アリサ殿、先生。あの銃は片手で撃てるレミントンのセミオートショットガンでござる。チューブが短いから弾は全4発か5発、残り3、4発でござる。後、爆弾の起爆スイッチでござるが、あれは二回押しで起動するやつ。即死させれば、爆発させないでござるが……」
「ユウマくん、情報ありがと。じゃあ、わたしが……」
ユウマくん、敵の装備を見抜き、残り弾数まで教えてくれる。
……凄いなぁ、ユウマくん。残り弾数が分かれば、対応策も分かるし。
「アリサちゃん、拳銃を隠して! 警察の人が来たわ」
しかし制服警察官が来たので、アーシャちゃん達は急いで拳銃を隠す。
「銃を下ろせ! 動くと撃つぞ!」
警官が二人、拳銃を抜き犯人に警告をする。
しかし、犯人は止まるどころか銃口を警察に向けて無造作に二発撃った。
「ぐわぁ」
二人の警官は、ばったりと倒れる。
倒れた体からは、赤い鮮血が流れ出る。
「きゃぁぁぁ!」
周囲の人々から更なる悲鳴が上がる。
……どうしよう? このままじゃ、警官の人も死んじゃうし、僕らも危ない。でも、こんな人だかりの中でアーシャちゃんに銃を撃たせたら、後が……。
僕は、アーシャちゃんがマスコミやらに追いかけられる姿を連想しつつも、このままでは更に犠牲者が増えるのを考え、どうしたら良いのか自問自答を繰り返していた。
「オマエら、どうして声を上げるだけだ!? デモしても世界は変わらない。愚民どもには力、そう暴力で示すしかないのだ! 『あの方』は、こうおっしゃられていた。『自分を認めない世界など意味がない!』と。デモなどせずに意味も無い会議に来る愚か者など、殺してしまえば良いのだ!!」
何やら高説を始めた犯人。
デモをしていた人への文句なのか、無関係なホテル宿泊客への発言なのか?
「先生、わたし……」
「今は待って! 群衆の視点が集まっているから、さっきとは状況が変わってるの。ここで撃っちゃったら不味いわ!」
悲痛な顔のアーシャちゃん。
先生が制止するのにも関わらず、拳銃を再び取り出し犯人へ向かおうとした。
「待って、アリサちゃん! 貴方がここで銃を撃てば、事件は解決するかもしれないけれど、貴方の立場が不味くなるの。ここは、お母さんに任せてくれないかしら?」
そんなアーシャちゃんを手で制し、にっこりと笑いかける母さん。
ミワを先生に託し、また僕やアーシャちゃんへ笑みを浮かべた母さん。
表情を切り替えて、興奮している犯人に向かって呼びかけた。
「あら、残念。てっきり、自分の考えでテロしたのかと思ったら、他人の意見コピーしただけの愚か者なのね」
「何を言う! このくそばばぁが! オマエのようなババァが世の中をおかしくしているんだ! 俺の母親もダメ親だった。俺は親のせいで何も出来なかった。だから、思い知らせてやったんだ!」
母さんの挑発に反応して、母さんに銃口を向ける犯人。
……母さん! いくら、合気道が僕よりも強いって言っても無茶だよぉ!
「貴方、まさか自分の母親に手をかけたの!? 自分の愚かさを親のせいにするなんて……」
「ああ、そうさ。ここに爆弾を仕掛ける前に、両親とも殺してやった。『あの方』もおっしゃられている! 親や老人という旧世代はすべて排除すべきだと」
すっかり狂信者になっている犯人。
両親や多数の人々を傷つけ、それは世界が悪い、親が悪いと、自分では無く他者に原因を求める。
心地よい誰かの言葉に酔いしれ、殺人への禁忌すら簡単に乗り越えてしまう愚か者。
……こいつ許せないよ。早く無力化しないと犠牲者が増えちゃう。撃たれた警官の人も死んじゃう!
倒れている警官二人。
かすかに身じろぎする彼らが倒れ伏すアスファルトに、どんどん鮮血が広がる。
救急隊の人も迂闊に動けない為、倒れている警官を助けに行けない。
「……もう、手加減なんて要らないわね。病院のベットで身動きできない自分を後悔しなさい!」
母さんは、いつのまにか犯人へあと5メートルくらいまで近づいていた。
また銃口射線が向いている母さんの背後には、誰もいない。
……母さん、すごい! 射線まで計算して動いてるんだ。
「クソババア! お前も死ね!」
犯人はショットガンの引き金を引いた。
パンという音と共に銃口から白い煙が噴き出し、散弾が飛び出す。
「お義母様!」
「母さん!」
「おかーさん!」
アーシャちゃん、僕、ミワの母さんを呼ぶ声が重なる。
ショットガンが撃たれた瞬間、僕は母さんが傷つく恐怖から目を閉じてしまった。
「え? お義母様?? す、すごい……」
しかし、アーシャちゃんの疑問の声で目を開くと、想像できない状況が目の前にある。
僕は、一瞬目を疑った。
「ぎぃぃ! ど、どうしてぇぇ!」
「射線やトリガータイミングを読むのは容易なのよ。後は、いかに意識の空白を突くかね」
犯人はショットガンや爆弾のスイッチを手放し、両手を後ろにねじ上げられて悶絶していた。
そう、母さんの手によって。




