第22話 再び事件に巻き込まれる僕たち。
「もー、マモルくんもユウマくんもだいっきらい! 男ってエッチ過ぎるのぉ!」
ユウマくんの発言で大暴れしたアーシャちゃん。
落ち着くまで数分間、まくらが何回も僕とユウマくんを襲った。
「ちょ、ごめん。僕も悪かったよぉ」
「某もデリカシーがなかったでござる。アリサ殿、ごめんでござるぅ」
「もー、知らない。どうせ、わたしの胸は小さいもん。ミワちゃんと、そう変わらないもん! もう、大きくならないんだもん!」
僕がユウマくんに向かって暴れるアーシャちゃんを止めようと声を掛けたのが逆効果になってしまった。
「ありのままのアーシャちゃんが、僕は大好きだよ?」
いつもなら、間違いなく怒りを止めるはずの言葉。
しかし、今回だけは逆効果だったようだ。
「ありのまま!? つまり、わたしの胸は小さいってマモルくんも言うの!? マモルくんのばかぁぁぁ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「はぁはぁはぁ。お義母様に免じて、今回は許してあげるの。今度、わたしの身体について何か言ったら……」
「はい! 絶対に何も言いません!」
「某も何も言わぬでござるぅ」
……ミワと見比べちゃったのが不味かったのかなぁ。最近、ミワは成長著しくて、身長もアーシャちゃんとそう変わらないくらいになってきたし。
小学5年生のミワ、身長が145センチくらいまで伸び、体形も女の子らしくなってきている。
アーシャちゃんとは7センチくらいしか身長差も無いので、こと体形が良く分かる水着姿を良く見たから、アーシャちゃんはミワと自分の体形と比べてしまったのだろう。
「男の子たち、女の子は大事にしてあげるのよ? さあ、お話はこのくらいにしてお風呂に行く準備しましょ? せっかくだから大浴場に入りましょ」
母さんに取りなしてもらい、なんとか仲直りした僕たち。
大浴場に行く準備を開始したとき、「事件」は起こってしまった。
「何! この音は!?」
ドスンという鈍く大きな音と激しい振動が、僕たちを襲った。
また部屋の窓ガラスは衝撃波を受けて、大きなヒビが入る。
「これは何でござる? 爆発音、それも軍用爆弾の音に聞こえたでござるな。方向は下方、西方面でござる」
「ええ、わたしにも爆発音、それもC-4の音に聞こえたわ」
「それって軍隊で使うプラスチック爆弾じゃ!?」
僕のミリタリー知識では、C-4が軍用のプラスチック爆弾の一種であることは知っている。
しかし、ユウマくんやアーシャちゃんみたいに、爆発音から爆弾の種類までは分からない。
「おかーさん、怖いよぉ」
「ミワ、大丈夫。お母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも居るからね。先生、これはテロなのですか?」
「ええ、お母様。その可能性が否定できません。皆さん、早急に退避行動を開始しましょう。貴重品だけ持って下の階へ逃げます!」
恐怖におびえるミワを抱く母さんの疑問に答える先生。
僕らはスマホと財布など貴重品だけ持って部屋を出た。
「緊急放送です。現在、一階西側駐車場にて車両火災が発生しました。皆様、念のために避難をお願い致します」
部屋から出た時、火災警報と共に館内放送で爆発が発生した場所の情報が流れた。
幸い、僕たちが居る5階には、まだ煙は見られない。
「じゃあ、東側の非常階段を使って逃げよう」
「そうね、マモルくん。ここは5階だから、エレベーターは使わない方が安全ね。ミワちゃん、お姉ちゃんが絶対に貴方や皆を守るから安心して」
「ミワ殿、某もいるでござるよ。ではハンカチを濡らして口に当て姿勢を低くしつつ、階段を慌てず降りるでござるよ!」
「うん、おにーちゃん、おねーちゃん」
僕たちは、エレベーター前で身動きが出来ない宿泊客に階段で逃げた方が良いと話しかけつつ、階段を慌てず降りていった。
◆ ◇ ◆ ◇
「もう安心でござる、ミワ殿。しかし、かなり大きな爆発でござるな。先ほど見たところ、自動車が跡形もないでござる」
「うん、ユウマおにーちゃん」
「これ、何かを狙ったテロなのかしら? あれがタンクローリーだったら、わたし達も危なかったわ」
「そうだよね、アーシャちゃん。でも、デモしてた人達が……」
僕たちは、消防活動が行われている側とは建物を背にした反対側の駐車場に逃げている。
幸い、ホテル本体へは火災は燃えうつらず、僕たちは煙に巻かれることも無く非難できた。
既に警察や消防、救急隊も現場に到着しており、対応を開始している。
爆発が起こった場所は、デモを行っていた人達からは遠く離れて居なかった。
デモ参加者からは多数の怪我人が発生している様。
僕たちが避難した駐車場でも簡易な手当てを受けている人、心臓マッサージを救急隊の人から受けている人もいる。
更には布を被せられ、手当も受けていない人もいた。
……酷い。
他にも、着の身着のままで逃げてきた宿泊客がパニック気味に騒いでいる。
燃えさかる自動車を消防士が消火している姿を、スマホで撮影している人も多い。
「テロだとしたら不自然じゃない、ユウマくん、アーシャちゃん? もし誰かを狙うなら自動車に乗る時を狙うけど、こんな夜に自動車に乗る人はあまり居ないよね。単純にデモ参加者を狙ったの?」
「そうでござるな、マモル殿。ターゲットが自動車に乗る瞬間を狙うのが、自動車爆弾の常套手段。もしくは、爆発を利用して人々を別の場所におびき寄せる罠など……。もしや!?」
僕が疑問を話しかけた時、ユウマくんが大声で叫ぶ。
「罠? あ、もしかして客が最初の爆発の反対側に逃げる事を計算して、そこにもう一個爆弾を!?」
「きゃぁぁ!」
僕がユウマくんの推理に気が付いた瞬間、銃声と女性の悲鳴が避難民で一杯の駐車場に響いた。
「オマエら! 一歩も動くな! 動いたら、この自爆スイッチを押すぞ!」
僕が声の方を振りかえると、右手に銃身を短めに切断したした散弾銃、左手に何かのスイッチを持ったコート姿の男が立っていた。
「アリサ殿、マモル殿。すまぬでござる。早くここから逃げるべきであったのに、某が気が付くのが遅いばかりに……」
「ううん。ユウマくんはよく頑張っているよ。アーシャちゃん、どうする?」
ユウマくんが母さんやミワを庇うのを見ながら、僕はアーシャちゃんに小声で話しかけた。
「もちろん、あの馬鹿を倒して爆発を阻止するわ。マモルくん、ユウマくん。二人はお義母様とミワちゃんをお願いね。先生、行きますよ」
「ええ。皆さんは姿勢を低くして逃げる準備を」
アーシャちゃんと先生、手の持っていたポーチから拳銃を抜いた。