第20話 情報通のユウマくん。アーシャちゃんを助ける。
「周囲がうるさいでござるね」
「国際会議反対のデモみたいだね、ユウマおにーちゃん」
僕たちは存分に海で遊んだ後、今日宿泊するホテルに来ている。
立派なホテルなのだが、周囲が妙に騒がしい。
せっかくの夕食が台無しになってしまう。
ということで、僕たちはホテル内のレストランで豪勢に夕食を食べている。
ただ、ホテル街で騒いでいるデモが煩いので、僕達以外のレストランの客も渋い顔だ。
「このホテルが秋に行われる国際会議の会場になっているからでしょうか、先生?」
「ええ、そうなのよ。せっかくコネ使って良いホテル確保したのに、困った事ね」
このホテル、防衛省の共済組合経営のもの。
僕も父さんの関係で警察関係の共済組合のホテルには何回か止まった事があるけれども、施設規模の割に格安。
……他にも市町村共済とか国家公務員共済関係は、立地がいいとこに宿泊施設あるんだよね。
「確か、ここは国家公務員共済所有と聞いてるでござる。天馬学園は私立高校。公務員共済にコネとは、どういうことでござるかな、先生?」
「あ! え、えっとぉ……」
「ユウマくん。ここは僕の父さんから紹介してもらったんだよ。警察は県職員の公務員だからね」
先生のポカ発言をフォローする僕。
私立高校の教師が、公務員関係のコネはあるはずはない。
……宗方先生は多分、特別公務員なんだろうね。アーシャちゃんのフォロー要員だろうし。
「……そういう事にしておくでござるよ。さて、柊殿。先程から静かなのは、目が痛いからでござらんか? 白眼が真っ赤でござる。無理せずにカラーコンタクトを外してくると良いでござるよ。塩水が入ったままでは、眼にも悪いと思うでござる」
「! 加藤くん。ど、どうして……。まさか、マモルくん?」
「ううん! 僕、家族以外には誰にも言っていないよ」
しかし、再びユウマくん。
爆弾発言をしてくる。
アーシャちゃんが海水で眼を痛めたのを見ていられないのだろうが、コンタクトについてはユウマくんは知っているはずはない。
……僕だってアーシャちゃんが眼を痛そうにしているのは気になって、目薬やら入れてあげたし、コンタクトを外すのを提案したんだ。けど、知らないユウマくんが居るから辛抱するってアーシャちゃんは無理してたけど。
「別に驚くことでもござらんよ。某、他者の秘密を暴いて喜ぶ趣味はござらん。知識欲から他者の秘密を得ることがあるでござるが、悪用なぞせぬ。しかし、今回は大親友の思い人が困っており、それは知らぬはずの某が居るから。なれば、答え合わせした方が良いにきまっているのでござる」
「……加藤くん。貴方って変て言われてるけど、案外と紳士なのね。心配してくれてありがと。マモルくん、ちょっとお手洗いに行ってくるわね」
「おねーちゃん。お手伝いするね」
一瞬警戒をしていたアーシャちゃん、笑顔を見せてお手洗いに中座をした。
妹のミワも手伝いに行ってくれたので、安心だ。
「ユウマくん。もしかしてさっきのホテルへの質問も?」
「そうに決まっているでござるよ、マモル殿。探りを入れる際に、話題を上手く使うのも情報収集の手法でござる。あのまま放置では、柊殿が可愛そうでござらんか?」
「加藤くん。貴方、何処まで知っているの? 内容次第では……」
どうやらユウマくんは、アーシャちゃんが可哀そうなので危険を侵して秘密を知っている事を話してくれたようだ。
しかし、先生としては、何処まで情報漏れがあるのか、知りたいのだろう。
普段とは違う顔、子猫が豹に変わったくらいな殺気交じりの顔でユウマくんを問い詰める。
「先生、怖い顔は辞めて欲しいでござる。それに周囲に余人が居る場所で話すつもりは、某には無いでござる。先生にも柊殿にも迷惑をかけるつもりはござらんぞ」
「マモル。あんた、妙な友達が多いのね。でも、皆いい子よ」
「母さん、僕もそう思うよ。ユウマくん、ありがとう」
「別に気にせぬでござるよ。お、柊殿が帰ってきたでござる」
ユウマくんの視線の先を見ると、ミワと一緒に返ってくるアーシャちゃんが居た。
「加藤くん。ありがとう。おかげで眼が少し楽になったわ」
まだ少し赤い感じだが、綺麗な灰蒼の眼で感謝をするアーシャちゃん。
何回見ても、透き通っていてとても綺麗だと思う。
「なに。柊殿が苦しんでいるのは、某もマモル殿も悲しむでござる。しかし、やはり綺麗な目色でござるな。確か、お父様の血筋との事でござったな」
瓶底眼鏡を外して、満面な笑顔でアーシャちゃんを褒めるユウマくん。
絶対に効果を考えた行動と僕にも思えるが、悪意はないから良しとしよう。
眼鏡を外したユウマくん。
顔は優男系ながら美形だから、その顔を使ったに違いない。
……どこまで知っているんだろうね、ユウマくん。もしかして、僕以上にアーシャちゃんの秘密を知っているのかも。
「加藤くん。いいえ、ユウマくん。貴方、どこまで知っているの? まあ今回は、その顔と行動で許してあげる。ついでに名前でわたしを名前で呼ぶのも許してあげるわ。でもね、アーシャって呼ぶのはお父様とマモルくん以外はダメよ!?」
ドヤ顔気味ながら男前だからなのか、ユウマくんに対し僕に向ける様な笑みを向けるアーシャちゃん。
ユウマくんで無ければ、僕は酷く嫉妬していただろう。
……ユウマくん。僕以上に女性扱い上手いんだけど、どこで勉強したのやら。僕の恋敵じゃなくてホントに良かったよ。
「アリサ殿。某に名前を呼ぶ権利を頂き、ありがとうでござる。某、アリサ姫を守る騎士の一人としてマモル殿と共に戦うでござる」
「ユウマおにーちゃん、カッコいい!」
まるでファンタジー世界の騎士の様にアーシャちゃんに傅くユウマくん。
その様子にミワはパチパチと手を叩いて喜ぶ。
しかし、先生もアーシャちゃんも驚きの為に言葉が出ない。
「ユウマくん。本当に何処まで知っているの? 君は一体?」
「ふふふ。秘密が魅力なのは、女性だけでないでござるよ、マモル殿」
「マモル。もう一度言うわ。アンタの周囲の友達は全員変ね」
母さんが呆れ顔で呟いた。




