第16話 僕だけに許された呼び名、アーシャ。
「色々とありがとうございました、お義母様。わたし、わたし……」
「気にしなくても良いよの、アリサちゃん。貴方は、もうわたしの義娘なの。また、何時でも来てね。マモル抜きで、また一緒にお話しましょ?」
翌朝、ニチアサのアニメとかを妹と楽しんだ柊さん。
母さんと抱き合いながら、別れを惜しんでる。
「おねーちゃん。また来週来てよぉ」
「ミワ。無理は言っちゃダメだよ。今週後半から期末試験なんだ。勉強しなきゃ柊さんも困るからね」
「あれ? マモルくん。わたしの呼び名は?」
「あ、ごめん。アーシャちゃん」
◆ ◇ ◆ ◇
僕と柊さん、昨晩は色々と語り合った。
「そういえば、わたしは名前で呼んでいるのに、わたしの事をいつまでも柊さんって呼ぶのは他人行儀じゃないかしら、マモルくん? お義母様は最初から名前で呼んでくれているのに」
「で、でも切っ掛けというか。苗字で呼ぶのに慣れちゃったというか、他の人に聞かれたら柊さんが困るとか。僕が恥ずかしいというか……」
フザケて僕にくっつきながら名前で呼んでくれる柊さん。
その柔らかい身体と甘い匂いが、僕を襲う。
……ちょ! 僕の理性が飛んじゃうよぉ!
「もー。こういう処は意気地なしなんだから。日本以外じゃ友達は名前で呼ぶのは普通よ? マモルくんになら、わたし名前で呼んで欲しいな。あ、じゃあ。折角だから、こう呼んでくれない?」
柊さんは、とある愛称を僕に教えてくれた。
柊さんが生まれた国では仲が良い関係の場合、名前を直接呼ぶのではなく、愛称で呼ぶそうだ。
「わたしの事、お父さんはアーシャって呼んでくれるの。マモルくん、わたしをアーシャって呼んで」
「あ、アーシャちゃん?」
「うん、うん!」
嬉しくなったのか、柊さん、いやアーシャちゃんは僕にぎゅっと抱きついた。
「ちょ! アーシャちゃん。む、胸や色んなところがあ、当たってるぅ!」
「きゃ!」
その後、ぱちんと平手打ちを喰らったのは理不尽だとは思うも、僕はアーシャちゃんの暖かさと柔らかさを存分に感じた。
◆ ◇ ◆ ◇
「マモル殿。今回のテストは、どうだったでござるか?」
「ま、まあまあかな? とりあえず回答欄は全部埋めたけど」
やっと期末試験が終わった直後、ユウマくんが僕にテストの感想を聞きに来る。
……中間試験、クラストップはアーシャちゃん、次がユウマくん。僕はなんとか上位10位に滑り込んだくらいなんだ。賢い友達が多いと、ついていく僕も大変。
「某、前回は柊殿に負けたでござるが、今度は負けないでござるよ!」
「僕は前回くらいの結果が出れば良いかな? そ、そりゃ柊さんに恥ずかしくない成績は残したいと思うけど」
「あら。こんなところでわたくしの噂話かしら? 加藤くん、わたくし、貴方に今回も負ける気はしないわ。もちろん植杉くんにもね」
僕とユウマ君くんが話し込んでいると、何故か自分が話題になっているとアーシャちゃんがドヤ顔で首を突っ込んでくる。
……あれ? そういえば、アーシャちゃんとユウマくんって、話してたことあったっけ?
「その自信や良しでござる。流石は我が親友の思い人でござるな。某が掴んだ情報によれば、柊殿とマモル殿は家族公認の関係となり、ようやく名前で呼び合う間柄になったとか?」
「ど、どこでそんな話を聞いてきたの!? わ、わたしとマモルくんは友達なだけよ?」
「アーシャちゃん、バレてるバレてる。あ、僕もだ」
ユウマくんが僕たちの関係をバラすので、ついアーシャちゃんも僕も名前呼びをしてしまう。
「ふむふむ。実に良い傾向でござる。アーシャとはロシア語圏でアリサの愛称。可愛くて良い呼び名でござるな。お二人の関係はクラス、いや学校中でも話題沸騰でござる。早くくっつけというのが女子生徒の大半と男子の半分の意見。男子半分からは、嫉妬の声が上がってるでござるな」
ユウマくんが腕組しながら、僕たち二人を見る。
僕はびっくりしてクラスを見回した。
クラスの女子たちからは「うんうん」とユウマくんに同意する雰囲気。
男子生徒からは、「まだかよ?」と呆れ顔が多数見受けられていた。
「……そこまでバレバレだったの、わたし達の関係って?」
「柊殿。隠すつもりならもっと上手くするでござる。登下校中のイチャコラは、恋人がいない者には猛毒でござるぞ。普段のクールさが皆無でござる。どうやら、今の姿が本当の柊殿でござるが、可愛いでござる。まさしくツンデレ」
驚き顔のアーシャちゃん。
どうやらイチャイチャしていたのやツンデレなのに、本人には自覚が無かったらしい。
僕は流石に気が付いてはいたけれども、アーシャちゃんが望んでやっていると気にはしてなかった。
……そういえば、アーシャの意味ってそうだったんだ。あ、そうか。アーシャちゃんの生まれには北の大国が関係してたんだ!
「もー。加藤くんのばかぁ。皆も分かってたら、わたしに注意してよぉ! マモルくん、貴方もばかぁぁ! わたし、恥ずかしぃぃぃ!」
恥ずかしさから、アラバスタな顔を真っ赤にして手をぶんぶん振るアーシャちゃん。
クラス中にも暖かい笑い声が広まる。
アーシャちゃんの幼くてとても可愛い様子に僕は、くすりと笑った。
……アーシャちゃんが日常を楽しめるように、僕。頑張らなきゃ!




