第34話(累計 第133話) グランドエピローグ:これまでも、そしてこれからも。僕たちの日常は決して終わらない。
「ふぅ。今日の入学式も楽しかったわ。新入生、皆小さくて可愛いの」
「中学部の子達は、この間まで小学生。ランドセル背負ってたからね」
天馬学園、入学式の日の夜。
満月に照らされ、時折の風で桜の花びらが舞う中。
僕とアーシャちゃんは、ベランダで並んで語り合う。
……アーシャちゃん、ピンクベースのパジャマに白いカーディガンを羽織っているのがとっても可愛いや。
「わたし、今がとっても幸せなの。パーパは時々だけと会いに来てくれるし、お義父さまやお義母さま、ミワちゃん、マモルくんと一緒に暮らせているわ。仕事もお義父さまやマモルくんが助けてくれるし、ユウマくんやリナちゃん、ダニー隊長も居るの」
アーシャちゃんは満面の笑みで満月を見上げながら、自分の今が幸せと語る。
「それに、ミーシャやカーシャちゃんも一緒なんて夢のようなの。マモルくん、ありがとう」
満月に照らされたアーシャちゃん。
灰蒼の眼をキラキラとさせ、夜風に長い黒髪をなびかせた様子は、まるで月の妖精の様だ。
あの夜、始めて僕がアーシャちゃんの「本当の姿」を知った日も、同じく満月の夜。
上質な絹と同じくらい艶やかな長い黒髪も、雪花石膏のような純白な肌も、あの時と全く同じ。
違うと言えば、あの夜は殺気でいっぱいの怖い表情だったのが今は満面の笑みだ。
僕の視線は、アーシャちゃんの顔から下、しなやかな肢体に向かう。
……アーシャちゃん、身長も少しは伸びたんだけれども、僕の方がもっと伸びちゃったから、今は僕の肩口よりも少し低いくらいかな? 他に関しては……。うん、下品になるからやめよう。
「あれ? マモルくん。わたしの何処を見ているのかしら? 男の子ってすぐエッチな事考えるんだから、困るわ」
困ると言いつつ、パジャマの胸元を両腕で隠すけれども、表情はイタズラっぽい笑顔。
「マモルくんにだったら、後でゆっくり見せてあげても良いのよ? 紳士だから、我慢できるでしょ?」
「あのねぇ、アーシャちゃん。僕も男だから襲わずにいられるか分からないよ。だって、アーシャちゃんは綺麗で魅力的なんだもん!」
「ちょ、本気にならないで! わたし達、まだ高校生、未成年なのよ? わたしは逃げないから、ゆっくり大人になりましょう」
僕が半分冗談交じりに驚かすと、真剣になって胸を隠しながら身体をよじらせて逃げるアーシャちゃん。
彼女の中でも、まだ「大人」な行為をするのは早くて怖い様だ。
「分かっているって。だって、今も母さんが何処かから見ているに違い無いしね。僕も慌ててアーシャちゃんの純潔を汚す気は無いよ」
「えぇぇ!! お義母さま、何処かで見てらしゃるの!?」
アーシャちゃんの大声でガタンと何処から音がした。
妙な生暖かい、しかし優しくてエッチな気配と視線を感じていたから、カマを賭けてみたら大正解の様だ。
……母さん。心配しなくても、僕はアーシャちゃんを襲わないって。それに僕、アーシャちゃんの本気の戦いに勝てる気はまだ無いよ?
「冗談半分だったけど、母さん盗み見してたみたいだね。ホント、心配しなくてもね」
「お義母さま、マモルくんの事が心配なのよ。何かと無理がちですものね。あとね、例えマモルくんに、だ、だ、抱かれたってわたしは汚れただなんて思わないもん! う、嬉しいもん!」
顔を真っ赤にしつつも、僕に抱かれても「汚れ」なんかじゃないと言ってくれる。
それはとても嬉しい事だ。
「アーシャちゃん。ありがと」
「ううん、わたしこそ、色々ありがとう」
アーシャちゃん、胸を隠していた腕を広げ、僕に抱きつく。
僕もアーシャちゃんをそっと抱きしめる。
身長差から、僕の胸に顔をうずめるアーシャちゃん。
彼女の髪から漂う甘い香りが、僕の鼻をくすぐった。
「アーシャちゃん、顔上げて」
「うん、マモルくん」
アーシャちゃんは背伸びをしながら、顔をあげ眼を閉じながら舞い散る花弁と同じ色な唇を上に向ける。
僕は、小さくて可愛くて、綺麗でとても大事なアーシャちゃんにそっと口づけをした。
「アーシャちゃん、高校を卒業したら、僕と結婚してください。一生ずっと一緒にいたいんだ!」
「うん、わたしもマモルくんとずっと一緒なの。わたしをマモルくんのお嫁さんにしてください」
一年前の満月の夜、衝撃的な出会いをした僕ら。
同じ満月の夜にプロポ―ズをしあった。
◆ ◇ ◆ ◇
「おかーさん。どうしておかーさんのおめめ、青くてきれいなの?」
「これはね、貴方のお爺ちゃんからの貰いものなの。でもね、貴方のパパそっくりな茶色なお目目も綺麗よ」
庭に面した縁側、灰蒼な眼をした美しい女性が膝の上に乗せた幼女と語り合う。
上質な絹と同じくらい艶やかな長い黒髪や雪花石膏のような純白な肌。
それらは、膝の上の幼い娘にもちゃんと受け継がれている。
春の日差しの中、外から満開の桜吹雪が庭に舞い降りる。
「そーなんだ。あたち、おかーさんのおめめ、だーいすき!」
「私も貴方の事が大好きよ!」
母子、二人が微笑みながら暮らす平和な日々。
しかし、それを脅かす声が響く。
「アーシャちゃん。ごめん、今日のお出かけが無理になっちゃった。本庁から出動要請が入ったんだ」
「マモルさん、わたし達の事は気にしないで。で、何があったのかしら?」
妻と娘に手を合わせて謝る童顔の青年。
今日を待ち望んでいた娘や妻に悪いとは思うのだが、状況が状況なので、やむを得ない。
次こそは、ちゃんと埋め合わせをせねばと彼は思う。
「環境テログループが産業用パワードスーツを持ち出して強盗の後、幼稚園に立てこもっているんだって」
「あら。それは早く助けに行かないとね。お義母さま、すいませんが娘をしばし預かってもらえませんか?」
夫から情報を聞いた妻は、義理の母に娘を頼む。
「ええ。良いわよ、アーシャちゃん。さあ、貴方はお祖母ちゃんと一緒に、お父さんとお母さんを待ってましょうね」
「うん! おかーさん、おとーさん。がんばってね! わるいやつら、どーんとつかまえて!」
「ちょ。アーシャちゃんってば、僕だけでなんとか……。はい、分かりました。では、何時も通り背中は頼みます」
「マモルさん、貴方は突っ込み過ぎよ。今回は幼稚園の子供たちを守るんだから、無茶しないでね」
結婚して五年以上経つが、まだまだ新婚みたいに仲の良い二人。
手を恋人繋ぎしながら、二人戦場へ向かう。
多くの人々を守り、世界に笑顔を広げる為に。
「あ、ユウマくんとカーシャちゃんが早く来いって言ってる! ダニー隊長やリナさんとこも、夫婦の時間を潰されて怒ってるってさ。ミハイルくんなんて、もう機体に乗り込んで準備万端みたい」
「しょうがないわね。じゃあ、いきましょう、マモルさん」
「うん。アーシャちゃん!」
二人のこれまで、そしてこれから。
それはずっと変わらない。
僕らは、皆の平和な日常を守る。
幸せな日常は、これからもずっと続いていくのだ。
(完)
皆様、長らくの応援ありがとうございました。
これにて、マモルくんとアーシャちゃんの物語は終わりです。
二人は今後も、いちゃつきながら世界に笑顔を届けるべく戦っていくことでしょう。
では、また次回作でお会いできたらと思います。
早ければ来年までに公開出来たらとも思いますので、次もよろしくお願い致します。




