第33話(累計 第132話) エピローグ2:カーシャちゃんの今後。新学期の開始!
「ボク、学校に通えるなんて思ってなかったよ」
「ミーシャ。そのあたりは色々頑張ったマモルくんやお義父さまに感謝しなきゃ」
「ミハイルはん。頼むから騒動を起こさなんでな? ウチ、これ以上面倒にはなりたくないんや。ちゃんと高校卒業できんとダニー兄ちゃんと結婚できへんからな。アメリカなら、十六歳でも結婚できる州があるんやのにぃぃ」
「まあ、そのあたりは大丈夫……。だよね。くれぐれも問題を起こさないでね。監視役の僕まで連帯責任になるんだから」
四月、天空学園に向かう坂道。
満開をやや超え、花吹雪が舞う中。
僕、アーシャちゃん、リナさん、ユウマくん、そしてミハイルくんは、制服に身を包み並んで学園に向かう。
……リナさん。プロポーズをダニー隊長に認めてもらったんだけど、日本の民法が変わって男女とも十八歳にならないと結婚出来ないから、お預けくらっているんだ。お母さんのソフィアさんも高校はちゃんと卒業しないと、『お手付き』やお付き合いはダメって言っているし。婚約出来ただけでも良いじゃん。
今日から僕らは高校二年生。
新学期となり天馬学園は全日制高校として復活した初日。
明日には、新しく入学してくる新入生、僕らの後輩も入ってくる。
「某も、十分がんばったでござるよぉ」
「ユウマはとっても凄いと、わたしも思うの。だって、AIになっちゃったわたしまで助けてくれたんだもん」
「そうね、カーシャちゃん。ロシア時代の三人が揃って日本の学校に通えるなんて、夢みたいなの」
ユウマくんの肩に置かれている小型カメラユニット。
それは元『あの方』、ロシアによって行われた生物利用ボトムアップ型AI製造プロジェクト「Совершенство(完璧)」でただ『一人』人格を残したまま、切り離されたエカチェリーナに繋がっている。
「わたしも夢みたいなの。でも、他の消えちゃった人達に悪い気もするわ。わたしだけが、こんなに幸せになっていいのかなぁ?」
「カーシャちゃん。今は、この奇跡を信じて青春を謳歌しようよ。マモル、アーシャ、ユウマ。この三人が居たから、僕らはココに居られるんだからね」
カーシャちゃんの身柄であるが、ユウマくんの説得と恫喝(?)により、世界各国は少女の人格を保ったAIカーシャちゃんに対し、人権を持つ者として認定した。
また彼女を作る上で使われた「悪魔」な技術に関しても、一部倫理に反する部分は秘匿されたものの、ユウマくんが纏めた学術論文の形で世界中に公開された。
秘密にしていても、悪用する組織や国が出てくるかもしれないから、学会を作り国際的に監視・規制する事で、悲劇を阻止する事を目指した。
聞いた話では、生まれる事が出来なかった胎児に対してスキャニング実験が幾度か既に行われ、その三次元データーをボトムアップ型AIの基本型、培養株として複製されて使われる様になったらしい。
……生物学やワクチン培養で使用される培養細胞にも、胎児由来とか|ガン患者由来の不死化細胞株が既にあるからね。だから、こういうのも倫理的に納得はしずらいけれども、科学の進歩としては悪用されないように監視するしかないかな?
そして子供を育てる様にAIを育てる事で、生まれた人工人格についても、ある程度の人権を持たせようと考える学者も多いと聞く。
「わたし、いっぱい勉強してこれから生まれてくるAIのセンパイになってみたいの。皆、世界を知って世界を平和にするお仕事をしてほしいな」
「カーシャ殿なら、出来るに決まっているでござる。某も皆を守るでござるよ!」
『あの方』が起こしたサイバー、物理テロ。
それは全てはシステムに飲み込まれた悪意が無限ループして増大していった。
設計段階から、悪意を利用するように考えられていたのが最大の原因だったのではないかというのが、ユウマくんの仮説。
それは悪意の中心に居たはずのカーシャちゃんが、システムから切り離されて本来の性格に戻った事からも分かる。
ロシアは、その悪意に満ちた計算力を使って他国に対し、サイバーテロを考えていたらしい。
アーシャちゃん達を「造った」強化人間製造計画と同じく、倫理観が全くない悪魔の計画。
ただ、その悪意がロシア自身に帰ってきて、国体の弱体化を起こしたのは因果応報であろう。
「でも、どうしてカーシャちゃんの人格だけ残ったのかしら?」
「僕は神様の贈り物だって思っているよ。少しくらい幸せになる奇跡があってもいいじゃない、ア―シャちゃん」
ユウマくんが仮説として語った事によれば。
アーシャちゃんと出会い、僕らと接触したことでカーシャちゃんの人格強度が上がって生き残ることが出来た可能性が高いらしい。
カーシャちゃんが語るに、他の人格は記憶も薄れつつあった上に、怒りと恨みだけの思考になっていたとの事。
そんな中、カーシャちゃんはアーシャちゃんやミハイルくんへの羨望や愛を恨み以上に持っていたから、生き残った。
……まあ、そんな事よりは奇跡が起こって、一人の少女を救った。それで良いんじゃない?
「とにかくこれから新学期。皆、これからも宜しくね」
「うん、マモルくん!」
「格闘では負けたけど、勉強では負けないぞ。マモル」
「うふふ。某の順位は誰にも抜かせぬでござる」
「ウチ、勉強もっとしなきゃ」
「リナちゃん、隊長さんとの恋は、わたしも応援するよぉ」
今日も賑やかに僕たちは桜吹雪の中、登校していった。




