第32話(累計 第131話) エピローグ1:終わりよければ、すべてヨシ! ミハイルくんとカーシャちゃんの処遇。
「ミハイルくん。君が演技派だっての知っていてたけど、あんな場面で僕を騙すのは悪趣味だって思うよ?」
「ははは! ごめんね、マモル。マモルが戦っている間、ユウマとボクは隊長たちに騙していたことを全部話して謝ったんだ」
作戦終了後、僕たちは全員日本へ無事帰国。
帰ってきてから一種間後の今日、警察病院に入院しているミハイルくんの病室へアーシャちゃんと一緒にお見舞いに来ている。
僕の予想通り、そしてミハイルくんがカーシャちゃんに白状した通り、ユウマくんとミハイルくんは作戦の開始前から結託していた。
なお作戦本部には事前に話を通しては居たそうだ。
……ミハイルくん、最初から『あの方』と僕らの間でダブルスパイをするつもりだったんだ。だから、自分の流したこちらの情報で作戦に参加した人々が死んでいくのが嫌だったんだね。
ミハイルくんは、ワザとこちらの戦力を過少に『あの方』に報告をしていた。
作戦成功確率を上げる為に。
しかし、『あの方』も自らの戦力を隠していた。
……多脚ビーム戦車なんて、誰も予想しないよね。原発レベルのエネルギーが必要なモノが機動兵器に装備されるなんて想定外だもの。
「でも、良かったよ。案外、元気そうなんだもん」
「そうよね。わたしも最初心配したんだけど、治療を受けて容態が落ち着いたらマモルくんを騙そうと言い出すんだもの」
「アーシャちゃん、ボクを甘く見てちゃだめだよ。ボクだってキミと同じ『Тайное Братство』で作られた強化人間。少々の外傷じゃ死なないんだから」
アーシャちゃんは生まれる前からの遺伝子操作を受けていたが、ミハイルくんの場合は乳児の時から強化処置を受けていたそうだ。
『あの方』を作ったプロジェクト同様に非人道的な人体強化による少年兵作成。
訓練という名の地獄で多くの子供たちの命が奪われ、また精神的に破綻をする場合も多く、生き残っていても普通の生活すら難しい者も多かったとユウマくんは言っていた。
……でも、その最高傑作たる二人が今は生き残って笑いあっているんだからね。僕、二人を助けられたのかな?
「それでも、一時は危なかったわ。ミーシャは、これに懲りて大人しくしているのよ?」
「はいはい、アーシャちゃん。まあ、まだまだボクは虜囚の身。しばらくは大人しくしてますよ。あ、マモル。ユウマに新作を送ってって頼んでおいてね」
「うん、伝えておくよ。大丈夫、ミハイルくん。父さんや先生、他の偉い人にキミやカーシャちゃんの事をよく頼んでおくからね」
ミハイルくん、そしてカーシャちゃんの身柄。
この扱いについては国内はおろか、国際社会でも問題になった。
こと、彼らの国籍があるロシアは二人の回収を願った。
少年兵扱いになるミハイルくん。
上の指示に従っただけであるため、まだ情状酌量の余地あり。
ということで、監視下での保護の上で教育を与え、今後の身の振り方を自分で決められるようにする、という形で各国や国内はまとまった。
……普通の少年院送りって訳にもいかないから、僕らや父さんらの監視下での保護という形になったんだけど。落ち着いたら、彼を天馬学園に転入学させるつもりなんだ。
今回の作戦において、ミハイルくんが『あの方』撃破における最大功労者というのもあったのだろう。
また、本人がロシアに帰らない事、日本への在留を宣言したのもある。
……ミハイルくんからの情報で、ロシアでは多くの人達の悪行がバレて自己保身にいっぱいになったという話だね。それに今更暗殺とかを考える余裕は、ロシアにも無い様だし。
「ボクは良いけど、カーシャちゃんが心配だよ。元が人間とは言えAIに人権なんて無いからね。実験材料にされるくらいなら、ボクがなんとか……」
「そこのところは、ユウマくんに任せて置いたら良いよ。またまた暗躍しているらしいから」
「そうよね。お義父さまが、ユウマくんの提示する情報で毎日青い顔をしてるもの。多分、上手くしてくれるわ。昨日もカーシャちゃんとユウマくんは仲良くしていたし」
今、カーシャちゃんの人格を持つAI、『あの方』の残存ナノマシ―ンはアメリカ、日本政府の共同管理の元、国連の監視下という名目でウチ、第一機動強襲室第五係で保護されている。
元より、ウチの組織がアメリカと日本の思惑で作られていた組織なので、どこか一国だけの利益に繋がらないのもある。
……というか、ユウマくんが個人的に保護しているんだけどね。どれだけのネタや噂を流して日本政府やロシアやアメリカ、他の国々を脅して納得させたのやら。
事件の顛末だが、公式には以下の通りとなった。
ミハイルくんが『あの方』の中に居たカーシャちゃんを説得。
カーシャちゃんが改心して、システムに反旗を翻して自爆。
運良くカーシャちゃんは脱出に成功。
これにて諸悪の根源であったAI『あの方』は、AI製造技術もろとも消滅した。
……まあ僕達だけしか現場での真相を知らないし、自爆したのも本当だからね。
「ユウマなら安心だね。じゃあ、僕も早く退院してカーシャちゃんに会いに行かなきゃ!」
「そうだね。だから、ちゃんと好き嫌いせずにご飯は食べてね、ミハイルくん。前に居た施設の管理者から聞いてたけど、ピーマンやシイタケが苦手って聞いてるよ」
「あら、ミーシャ。まだピーマンを克服していなかったの? それにシイタケもダメなんて。案外とお子ちゃま舌なのねぇ」
「ふ、二人とも! べ、別にいいじゃないか。ピーマンを食べなくても他の緑黄野菜で栄養を取れば良いし、シイタケなんて旨味いっぱいらしいけど栄養素が少ないから……」
好き嫌いについて、必死に屁理屈を捏ねて誤魔化そうとするミハイルくん。
その幼げな様子に僕は、思わず笑ってしまった。
「マモル! どうして笑うんだよぉ。あ、そうだ。アーシャちゃん。マモルが食べられないものを教えてよ。マモルにだって弱点があるはず」
「残念、ミーシャ。マモルくん、好き嫌いは全くないの。お義母さまのご飯は美味しいから、私も食べ過ぎて少し体重が増えちゃったわ」
「アーシャちゃんは、もう少し太っても良いよ。そりゃ筋肉質だから、見た目よりも重いのは知っているけど、女性らしくふっくらとした……。あ! し、しまったぁ。ご、ごめん。悪かった。だから、顔にパンチは……ぎゃ!」
僕は要らんことを言ってしまい、アーシャちゃんのパンチでのノックアウトされた。
……だって抱いた時、アーシャちゃんって柔らかいけど、しっかりした筋肉を持っているんだもん! 重心の捌き方なんかで、体重もなんとなく分かったしぃ。
「マモル。キミの弱点が分かったよ。アーシャちゃん、この不器用な馬鹿を大事にしてあげてね」
「もー、マモル君なんて、だーいきらーい!」
ダウン状態の僕の上にのって、ポコポコと叩くアーシャんちゃん。
アーシャちゃんの柔らかな太ももやお尻の感触をお腹に感じつつ、『天国と地獄』を味わった僕だった。




