第31話(累計 第130話) 最終決戦その21:これにて、事件解決。後は……どうしよう。
「急いで、マモルくん! もう飛行機が動き出したの!」
「ちょ、待ってよぉ」
僕が悪魔城、『あの方』の施設から飛び出した時。
僕を待ってくれていた輸送機が動き始めた。
既にカウントダウンは残り四分程度。
いくらティルトローター型とはいえ、荷物満載で滑走路から飛び出すにしても、それなりに加速が必要だからしょうがない。
「カーシャちゃん、しっかりしがみ付いててね。最後のパワーをここで使うよ」
「う、うん」
カーシャちゃんが機体の腕にぎゅっとしがみ付いたことを確認した僕は、機体脚部のローラーを全開。
更に機動スラスターを吹かして、動き始めた輸送機を目指す。
「間に合うか……。いや、少し足りない!」
機体AIが計算するに、今の速度では最終的に飛ぶ直前まで加速した輸送機に追いつかないとある。
しかし、無理をさせすぎた機体脚部は関節部がガタガタ。
何時折れてもおかしくない。
他の部分も警報ランプが着きっぱなし。
「賭けに出る。アーシャちゃん、皆。掴んで―!」
機体胸部のアンカーワイヤーを起動。
輸送機ハッチ目がけて、僕はアンカーを撃ち込んだ。
「う、受け止めたわ」
「こっちも受け止めたでござる! 早く、巻くでござる」
アンカーは無事にハッチに着弾。
アーシャちゃんとユウマくんがワイヤーを機体の腕で握ってくれた。
「いけぇぇ!」
僕はバッテリー残量を脚部ローラーとワイヤー巻き取りにぶち込む。
「残り時間三分を切ったでござる!」
ギュルギュルと火花を上げて巻き取られていくワイヤー。
足元のローラーも滑走路のコンクリートと激しく火花を上げた。
「もう少し。あ!」
しかし、あとちょっとのところで負荷に耐え切れなかった右足が膝関節部からバキンと折れ飛んだ。
「くそぉぉ! 死んでたまるかぁぁ!」
僕は一か八か、両脚部を膝下からパージ。
スラスターを全開にして空を舞う。
軽くなった機体は、間一髪で輸送機ハッチに飛び込む。
僕は、カーシャちゃんを潰さないように注意しつつ、輸送機の中を転げた。
「パイロット、ハッチ閉じ、ブースター吹かせぇ!」
「了解!」
ダニー隊長の指示の直後、ぐぅぅんと僕らをGが襲う。
おそらく輸送機に追加装備されていたRATOに点火し、短距離離陸をしたのだろう。
「カウントダウン、五、四、三。各自、衝撃に注意!」
隊長のカウント直後、輸送機が大きく揺れる。
輸送機の窓から、眩しい光が見えた。
「ん? 思った程は爆発が大きく無いな? 研究所の建物が崩れただけで、原発に被害は殆どなさそうだ」
「だって、研究内容の抹消以上の爆発は無意味でしょ? 実は脅しだったの。ごめんなさい」
隊長がコクピットモニターで爆発結果についてコメントすると、僕の乗る機体腕の中から女の子の声が聞こえた。
「ん? マモル。お前何を抱えてる? 女の子の声が聞こえたんだが……」
「え、えっとぉ。隊長、先に謝っておきます、ごめんなさい」
僕はコクピットハッチを開けつつしつつ、機体の腕を広げた。
「え? もしかして、カーシャちゃん?」
「アーシャちゃん! わたし、わたし……」
アーシャちゃんはコクピットから飛び出し、僕の機体の腕の中に居たカーシャちゃんに抱きついた。
「もういいの、カーシャちゃん。わたし、もう一度会いたかったの。そして謝りたかったのぉ」
「わたしこそ、アーシャちゃんや他の皆に謝りたいの。ごめんなさい。でも、いくら謝っても許してもらえないよね……」
泣きながら抱き合う銀色の幼女と少女。
その様子を見て、隊長は大きくため息を吐いた。
「……マモル、またお前はやってくれたなぁ。俺、上層部にどう説明したらいいか、全く思いつかんぞ?」
「隊長殿。そこは某に任せるでござる。幸いな事に『あの方』を直接見たのは某らのみ。更に直接戦闘をしたのはマモル殿とアリサ殿くらい。後は、上手く誤魔化すでござるよ」
僕の行動に呆れた声を出す隊長。
敵ボスを助けて連れ帰ってしまったのは、普通あり得ない行動。
僕が逆の立場でも困ってしまうだろう。
……そんな状態でもなんとかしてしまうユウマくんは凄いね。
「アリサ殿、カーシャ殿から一旦離れてはくれないかでござる。カーシャ殿、そのままでは身体を維持できぬでござるよね。こちらの容器に入るでござる」
「これは、ナノマシーン保護用の容器? うん、ありがとう」
「ユウマはん。時間が無いのに、わざわざ研究室に寄り道してソレを持ち出していたんやで。なるほど、マモルはんのお人好し過ぎる行動を先読みしていたんやね」
カーシャちゃんは、ユウマくんの用意していた保育器っぽい物に入る。
「うふふでござるよ。あの研究施設ならナノマシーンの保管や移設用の容器を準備していると思っていたでござる。これぞ、究極の『こんなこともあろうかと』でござる!」
ドヤ顔のユウマくん。
しかし、彼のおかげで今回も助けられたのも確かだ。
「そ、そういえば、ミハイルくんはどうしたの? 治療を受けているのかな?」
「そ、それがでござるが……」
僕がミハイル君の事を口に出すと、皆の表情が曇った。
「ま、まさか……」
◆ ◇ ◆ ◇
僕らは機体を降り、輸送機内のラウンジに移動する。
輸送機内に設置されているベットの上。
そこには白い布に包まれたミハイルくんがいた。
何本かの輸液、輸血が繋がってはいるのだが、顔まで白い布に覆われていた。
「ま、間に合わなかったの?」
「……残念ながらでござる」
悲痛な顔の皆。
僕は足元からガラガラと崩れる様な感覚を覚え、ミハイルくんが眠るベットの横で膝から崩れた。
「どうして、どうして……」
「ミーシャ! わたし、わたし!」
僕だけでなく、保育容器の中からカーシャちゃんも泣き叫ぶ。
「これからもっと仲良くなれるって思ってたのに……。ごめん、助けてあげられなかったよ」
「わたし、また一人ぼっちになっちゃう。ごめんなさい、ごめんさい! わたし、どうやって罪を償えばいいのぉぉ!」
僕はミハイルくんを救えなかった事に後悔が募る。
もっと早く出会っていれば、そして仲良くなっていれば彼を救う事も出来たはず。
……怪我をした場所が悪かったんだろうか。出血が止まらなかったのかな……。ん、あれ? どうして死んだはずなのに輸液や輸血が繋がったままなの? 普通、抜くぞ?
そういえば、先程から後方の仲間達が何も言わない。
というか、口に出すのを辛抱している感じだ。
……あれぇぇ? ご遺体のはずなのにぴくぴく震えてるぞ? なーんだ、そういう事か。もー、僕の涙を返せぇ!
「ユウマくん。ミハイルくんって最後に何か言ってた?」
「そ、それでご、ござるが……」
僕の問いかけに反応出来ないユウマくん。
僕は彼に背を向けているから表情は見えないけれど、間違いなく笑うのを辛抱しているに違いない。
「ふぅぅ。もう良いよ。ミハイルくん、笑うの辛抱しなくても良いよ。笑うと傷口が痛いんだろうけどね」
「え、マモル どういうことなの? ミーシャが痛いって? ミーシャは亡くなった筈じゃ?」
僕の発言後、部屋中で笑いが広がった。
「ぷ、はは! あ、痛い、痛いよぉぉ」
「だから言ったのよ、ミーシャ、ユウマくん。マモルくんを騙すのは簡単じゃないって」
「ウチ、マモルはんが騙されるってのに賭けてたのにぃ」
「リーちゃん。いくらマモルがお人好しだからって、観察眼はしっかりしてるぞ?」
「マモル殿、お見事でござる。だから、悪趣味だから辞めようといったでござるぞ、ミハイル殿」
「もー、皆ったら。僕を玩具にしないでよぉ!」
ミハイルくん、重症ではあるのもの意識もしっかりしていて命の別状無し。
僕たちは全員無事、カーシャちゃんを含めて笑いながら帰路に就いた。




