第29話(累計 第128話) 最終決戦その19:刹那の攻防! 僕は一瞬に全てを賭ける。
「チェックメイト!」
僕はランダム軌道からのブースト瞬間移動をして、銃撃を避ける。
そして、『あの方』カーシャが操るパワードスーツの側に踏み込んだ。
既に銃を手放し、僕の機体は無手だ。
「早い! でもぉ!!」
カーシャちゃんはバックステップしながら、僕に再びレールガンの銃口を向けた。
バスンと重い音を出してプラズマに覆われた弾が僕に向かうが、そこは過去位置。
既に、僕はカーシャちゃんに密着するところまで踏み込んでいた。
……一気に決める!
向かって右側に入り身な踏込み、からの左手抜き手。
超硬度合金の指先は、一撃でレールガンを破壊する。
からの、右手掌底打ち上げ!
頭部ユニットが半壊して、仰け反るカーシャ機体。
更に足払いをしつつ、変形型入り身投げでフロアーの床におもいっきり叩きつける。
後はトドメと長剣を抜いて、高周波で震える剣先をパワードスーツ急所、腰部を狙って一気に突き刺した。
「なんとぉ!」
しかし、背部スラスターを無理矢理吹かして火花を上げながら床の上を滑って逃げるカーシャ。
僕が刺した長剣は、ヒビだらけになったフロアー床に深く突き刺さった。
「な、何、マモル? 今の攻撃は??」
「ふぅぅ。初撃で倒しきれなかったかぁ」
僕は視線をカーシャから一切離さず息を吐き、肺に新鮮な空気を取り込んだ。
一連の連撃、人相手ならほぼ確実に殺せる技。
パワードスーツ相手でも、中身の操縦者が気絶するに充分な衝撃を叩き込んでいる。
……生身じゃないから、ただの衝撃じゃ機能不全に持ち込めないか。なら、次は最大級の技を叩き込もう。
僕が次の技の組み立てを考えている間に、カーシャは右側機械腕に固定されていたレールガンをパージ。
その流れで、右手で剣らしきものを腰から引き抜いた。
「ミーシャとの戦いの時は手を抜いていたのかしら? でも、もう貴方に勝ち目はないわ、マモル。さあ、バラバラになりなさい!」
僕からは五メートル以上は離れた場所から、剣を振り上げるカーシャ。
本来、僕に攻撃が届かないはずの行動に僕は寒気を感じ、当たるはずも無い攻撃を回避する。
ヒュンっと空気を裂く音がして、予想外に斬撃が伸びる。
想像もしていなかった射程に、僕は伸びてきた剣先を抜きはらった高周波長剣で弾いた。
「まさか……ガリアンソード??」
「へぇ、日本じゃそういう名前で呼ぶのね。フレキシブル・ソードっていうの。細かい刃が全て高周波ブレードなのよ」
キンと澄んだ音を立てて、僕が持っていた高周波剣が半分くらいから折れる。
カーシャは再び剣を振り上げ、追撃を僕に撃ち込んだ。
「くぅ!」
肩部スラスターを吹かして緊急回避。
更に間合いを取りつつ斬撃を回避するが、僕が避けた後の床に深い傷が刻まれていく。
「あら、凄いわねぇ。この武器を初見で躱し切るのは始めて見たわ。これ、ロシアの新型兵器でテロリストを沢山輪切りにしてたのに?」
「い、一応、どんな感じの武器かは元々知っていたからね」
……ユウマくんと一緒にアニメとか見てて良かった。おかげで武器を見切れたよ。
カーシャが使うのは蛇腹剣とも言われる剣。
ワイヤーに多くの細かい刃が沢山ついていて、鞭のようにしなって斬撃が伸びてくる。
リアルで使われたのは初めて見たけれど、アニメとかゲームで挙動は知っていたので、僕は上手く避けられた。
「次は避けられないわよ。さあ、死になさい!」
今度は右からの横薙ぎにガリアンソードを振るうカーシャ。
左右移動では避けられない攻撃。
……だったら!
ジャンプしつつ、天井に胸部アンカーワイヤーを撃ち込んで、巻き上げ斬撃を上に避ける。
「上に逃げて、馬鹿よねぇ。今度は避けられないわよ?」
……だったら、これはどうだぁ!
折れた剣を放り出し、左腕から液体を撃ちだす。
液体は空気と触れてワイヤー、蜘蛛の糸になっていく。
蜘蛛の糸は、剣を振り上げようとしたカーシャの右手首に上手く絡みついた。
「くぅ。悪あがきをぉ!」
蜘蛛の糸をグイと引っ張ってガリアンソードの軌道を変える僕。
後は、天井に突き刺さったアンカーを解除。
そのまま重力にひかれて落ちていく。
カーシャの動きを制する為に、右手から蜘蛛の糸を更に発射。
上手くカーシャ機体の脚に絡まらせてた。
「いけぇぇ!」
僕は、空中からスラスターを吹かして飛び蹴り。
バランスを崩していたカーシャの駆るパワードスーツにズドンと命中した。
「きゃ!」
「このまま、決める!」
パワードスーツの重量が乗った全力の飛び蹴りをくらってふらつくカーシャ機。
アンカーワイヤーを巻き取り、蜘蛛の糸もパージした僕は、そのままカーシャに組み付いた。
「貴方に! 世界になんて負けないわ!」
バランス機能を失っても戦意を落とさないカーシャ。
僕に向かってガリアンソードをズイと突き出した。
「ふっ!」
突き出す剣を持つ右手の甲を外側から抑え込みながら、背後に回り込む。
そして向かって右後ろから膝関節に対し腿法、上からの踏み蹴りを叩き込んだ。
バキンと右ひざ関節が砕け、そのままくず折れるカーシャの機体。
僕は回り込んだ勢いで、背部装甲に右手掌底を押し付けた。
「はぁぁ!」
そして全力の発勁からの浸透勁!
ドカンと大きな音を立てて、攻撃を受けた反対側になる正面側コクピットハッチが吹き飛ぶ。
銀色の液体も、コクピットから激しくこぼれた。
……もう一撃!
完全に脱力した機体を腰の位置で抱え込んだ僕は、スラスターを吹かしながら大きくジャンプ。
十メートルを超える吹き抜けの天井近くまで飛びあがった後、くるりと上下反転。
後は、重力加速にスラスターの加速も加えて高速回転。
地面、フロアーの硬い床にカーシャの機体を頭部からドズシャと叩きつけた。
……見たか、これぞ母さん直伝。ローリングクラッシュだぁ。まさか、昔の漫画で見た技を使うなんて思わないだろ? 『あの方』め。
「はぁはぁはぁ」
僕は抱え込んでいた手を離し、床の上に大の字に機体を寝かせた。
身体と機体のリミッターを解除しての大技連打。
無呼吸状態からの激しい機動に、機体も僕も身体がボロボロになった。
「ぐぅ。い、痛い。頭も手足も痛いや」
床に大穴を開け、首まで埋もれたカーシャ機体。
しばらくは逆立ち状態でいたが、何処かで起きた爆発の衝撃を受けてドスンと仰向けに倒れた。




