第27話(累計 第126話) 最終決戦その17:裏切りの裏切り。悲しみのカーシャ。
「おい、皆。大丈夫か?」
「僕とアーシャちゃんは大丈夫です、隊長」
「ええ。マモルくんが庇ってくれましたから」
「ウチ、耳が痛いねん」
「リナ殿。対応が遅いでござる。某が遠隔操作せねば危なかったでござるぞ」
ミハイルくんのカウントダウンからの突然な大爆発。
それは、僕らにも強烈な爆風となって襲ってきた。
そして爆風が去った後、煙が充満した室内は非常用の赤色灯だけの灯りになった。
「あ、ミハイルくんは!?」
「ははは。ちょっち詰めをミスっちゃった。ぐ!」
僕は急いで振り返り、無人のパワードスーツの側に居たはずなミハイルくんの方を見る
すると腹部から出血をして倒れている彼を発見した。
「ミハイルくん!」
僕は周囲の確認もせずに、倒れているミハイルくんの側に駆け寄った。
「マモル殿、ここは敵地。確認もせずに突っ走るのはダメでござるよ?」
「そうよ、マモルくん。まったく貴方たちには手がかかるわ。ミーシャ、まだ死んだらダメ。貴方にはいくらでも言いたい事あるんだからね」
「ウチもそうや。ミハイルはん、アンタはウチの純情を騙したんねん。だから。死んだらアカン」
「全く、こんなことなら最初から説明しておいてくれよ。俺、本気で最後までお前に騙されたぞ?」
ミハイルくんを抱き上げた僕の周囲を仲間達が囲ってくれる。
「うふふ。皆、ゴメンねぇ。ボク、こんな事でしか罪を償え無いから……」
ヘルメットのバイザー越し、痛みに顔を歪ませながらも天邪鬼な事を尚も言うミハイルくん。
捻くれ者だけど、最近の彼は己の犯した罪について考えていた様に思う。
「そんな事は無いよ、ミハイルくん。だから、絶対に死なないで!」
「マモル殿。某に変わるでござる。ふむ、パイロットスーツを破片が貫いているでござるね。これを抜くと出血多量で死にかねぬから、抜かずに止血剤、強心剤、鎮痛剤をスーツから投与でござる」
僕がおろおろしていると、ユウマくんがミハイル君を奪ってバイタルを確認。
そのまま応急処置を開始してくれた。
「ユウマ、今回は本当にありがとう。キミのおかげで、カーシャちゃんを救えそうだよ……」
「ミハイル殿。今は黙っているでござる。後からいくらでも話は聞くでござるから、今は気をしっかりもつでござるよ。罪は某も一緒に背負うでござる」
……やっぱり、ユウマくんが暗躍していたんだ。じゃあ、さっきの爆発も仕掛け? あ、そうか。パワードスーツの自爆装置を使ったんだ。でも、機体とパイロットの処分用の爆薬にしては、爆発規模が大きいぞ?
僕は落ち着くために深呼吸をして、顔をAI『あの方』の方に向けた。
「ど、どうして? どうしてなの、ミーシャ」
弱弱しい声を上げる銀色裸体の少女。
彼女が居た透明で巨大な塔。
各部にひびが入り、そこから銀色の液体、マイクロマシーンが床にこぼれる。
こぼれた液体は、小人らしき姿を一瞬取るが直ぐに崩れた。
また、塔を囲むように並んでいたスパコン達の群れは、見る影見なく砕け散り各部から火花を出していた。
広大なフロアーも各部が破損、天井から壊れた銃火器やセンサー、LED照明などの機材らがぶら下がる。
……これ、只の爆弾じゃないぞ? 燃料気化爆弾でも無きゃ、パワードスーツに収容できる規模の物じゃない。ミハイルくんは、最初から自爆で決着を付ける気だったんだ!
「ミハイル殿が忙しいので某が説明するでござるよ、エカチェリーナ殿。全ては演技、ミハイル殿は、最初から某らを裏切ってなぞ居なかったのでござる」
ユウマくんがドヤ顔で説明を始める。
やはり、最初からユウマくんとミハイルくんはグルだった。
「ミハイル殿は、『あの方』、カーシャ殿から裏切りを誘う接触があった時、某に相談してくれたでござる。後は……。分かるでござるね」
「ど、どうして! 同じ施設で育って大変な目にあったのに! どうしてアーシャちゃんもミーシャも、わたしの仲間になってくれないのぉ!」
どんどん銀色の液体が流れ出ていく中、銀色な少女は悲痛な叫び声を上げた。
「カーシャちゃん。もう終わろうよ。昔、わたし達を苦しめた組織はもう無いわ。貴方を殺したヤーコフは日本で重い罪を償っている。多分、不自由な身体を抱えて一生牢屋の中ね。他の奴らは大抵、わたしが返り討ちにしてやった。貴方が復讐する相手は、もう何処にもいないのよ!」
「それでも! それでも、社会は変わらず弱者を虐げるわ。国だって、また愚かな侵略戦争を引き起こし手多くの民を失い、更には敗北して国家間の信用すら失った。他の国もそう! 自分の国を守る為に汚い事を裏でやってばかり。こんな世界、何処に守る価値なんてあるの!? こんな世界なんて滅んでしまえばいいの!」
火花や煙が舞うフロアーの中心で、泣き叫びながらも世界を呪う言葉を吐く銀色の少女。
だが、その声は涙声。
その呪詛じみた叫びに僕は言い返す。
「それでも! それでも。僕は世界をアーシャちゃんと一緒に守るよ! もちろん、キミも救いたい! キミ、そんなに世界を恨んでいるのに、どうして今泣いているの? 悔しいから? 怒っているから? いや、僕らが羨ましいんだ。キミは、本当はアーシャちゃんやミハイルくんが羨ましかったんだ!」
「……その通りよ、マモル。同じ地獄にいながら、アーシャちゃんは幸せそうに暮らしていたわ。そしてわたしと思いを同じくしていたはずのミーシャすらも貴方達に懐柔された。わたしは独りぼっち! こんな電子の牢獄の中で泣くしかないの! わたしと同じく悲しみと恨みにあふれた人でいっぱいの地獄で!」
「だから、もうやめようよ、カーシャちゃん。ボクね、君をそこから助けたいんだ。そんな地獄じゃなくて天国に行けるようにね……ぐぅ」
「ミハイル殿、これ以上無理に話すで無いでござる。さあ、亡霊たちの悪夢は終わりでござるよ」
苦しい息の中、カーシャに対して思いを告げるミハイルくん。
その思いに僕は涙がこぼれた。
「ふふふ。あはははは! もう、良いわ! 確かに勝負はアーシャちゃん達の勝ちね。でもね、貴方達を勝ち逃げさせないわ!」
突然、高笑いをしだしたカーシャ。
銀色の腕を鞭のように容器の外へ伸ばし、壁に突きさした。
「もしや?」
「そうよ、ユウマ。貴方達もわたしと一緒に世界から消えましょう。アーシャちゃん、今度こそ一緒に天国へ行くの」
突然警報音が鳴り響き、ロシア語での自動放送が開始された。
「皆の衆、逃げるでござる! カーシャ殿は基地の自爆装置を稼働させたでござる!」




