第26話(累計 第125話) 最終決戦その16:大逆転! 敵を騙すには味方から騙すに決まってる。
「カーシャちゃん。僕の機体、壊れちゃった。戦うにも生身じゃ流石に無理だよぉ」
「しょうがないわね。じゃあ、新しい機体を用意するわ。少し待っててね」
僕と戦っていたミハイルくんのパワードスーツ。
策を講じる為に、ワザとAIシステムを守る電磁フィールドに接触して、一時フィールドを解除させる事には成功した。
……防御フィールドが切れた隙にAI本体を破壊するのが第一作戦だった。はずなんだけど防御用ドローンを準備されていたのは、『あの方』の読み勝ちなんだ。ただ、これで終わるユウマくんじゃないよね?
僕と仲間達は一旦AIとは距離を置き、どんな攻撃にも対応できるようにする。
僕は床に落としていたライフルや長剣を拾い直して、銀色の液体が漂うAIシステムを睨んだ。
「準備出来ましたわ、ミーシャ。貴方の使っていたのと同じYK-102よ。ただ、エネルギーは無限大。マイクロウェーブによる伝送システムを使っているから、レールガンも使えるの」
エカチェリーナが楽しそうに話すのと同時に、僕らから一番遠い側のハッチが開き、鈍い銀色、無塗装なパワードスーツが歩いてきた。
確かに外観の様子は102だが、武装などが更に大型化しカメラ回りも単眼の集合体で凶悪な面構えだ。
「カーシャちゃん。機体を準備してくれたのは良いけど、電磁フィールドを張ったままじゃ、僕は乗れないんだけど?」
擱座機体から顔を出して文句を言うミハイルくん。
カーシャが準備した機体はフィールド外だから、フィールド内の彼が乗りこむには一旦フィールドを解く必要がある。
準備された機体はAI塔の近くで立ち止まり、膝をついて無人のコクピットハッチを開いた。
「今だ! あの機体を無人のウチに破壊しろ!」
ダニー隊長、大型機関砲を無人な機体に向けたが、今度は天井からの照準レーザーがダニー隊長をロックする。
僕らの機体にも同じくレーザーが照射され、ロックオン警報が鳴った。
「貴方達、邪魔はダメよ? 貴方達を殺すのは簡単なの。部屋の中にある機関砲で殺せるわ。今、貴方達を生かしているのはお遊びなの。ミーシャが頼んできたのよ。裏切るにしても、義理は果たしたいから自分の手で貴方達を殺したいって言ったの」
「ち、ちきしょぉ!」
隊長は叫んで、仕方なく機関砲を降ろした。
僕らも迂闊には動けないので、状況の変化を待つしかない。
「そうそう。今からフィールドを解くけど、わたしや準備機体を撃ったら容赦なく殺すわ。念のためにわたしは、自分を盾ドローンで守るけどね?」
AI塔の周囲を浮遊する盾ドローンが囲み、狙う隙が見えない。
そしてフィールドが解かれたのか、環境電磁波の値が低くなった。
「よいしょ! じゃあ、ボクが乗るまで撃たないでよね、皆」
擱座機体からひょいと飛び出して、ゆっくり待機状態の機体に歩いていくミハイルくん。
片手に脱いだヘルメットをぶら下げ、楽しそうに歩く。
そして、自分が乗り込むはずのコクピットを覗き込んだ。
「カーシャちゃん。少し聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」
「良いわよ。先に言っておくけど、電磁フィールドは再開しているから気を付けてね」
ミハイルくん、カーシャのいるAIの方を見上げて疑問を尋ねようとする。
カーシャが言うように部屋の中の環境電磁波が増え、防御が復活したらしい事が分かる。
……部屋のオゾン濃度も上がってるよ。
「カーシャちゃん。どうしてこの機体のコクピットに高エネルギー3D電磁スキャン装置があるの?」
笑顔で、とんでもない事を聞くミハイルくん。
彼が言う事が正しいのならコクピットに入ったら最後、生きたまま脳を電子レンジで茹でられて『あの方』に取り込まれてしまうのだ
……『あの方』、完全にミハイルくんを信用していなかったの? それとも、どうしても仲間に引き込みたかったのかな?
「……。カンが良い子は嫌だわ。ミハイル、貴方どうして気が付いてしまったの? せっかく、上手くわたし達の本当の仲間になれたのに? まあ、ミーシャが負けるまでは使う気は無かったけど」
「ボク、そんなに信用ならなかったのかな? なら、どうしてボクに裏切りを依頼してきたの?」
ミハイルくんが仕掛けに気が付いたのを悪いと言い張るカーシャ。
僕に負けるまでは使わないと言うが、僕の感覚では嘘に聞こえた。
……だって負ける時って機体が破損しているから、うまくスキャニング出来ない可能性の方が高いしね。
「そうねぇ。アーシャちゃんやマモル、ユウマには直接会ってみたかったからかしら。そこで、ミーシャが裏切った時にアーシャちゃんが嘆くのを見たかったの。またはミーシャがアーシャちゃんを裏切れなくて悔やむのでも良かったわ」
「そうか。僕が裏切っても裏切らなくても、最終的には関係なかったんだね、カーシャちゃん。やっぱり、君はもう昔の優しいカーシャちゃんじゃないや」
俯き、悲しむそぶりを見せるミハイルくん。
そして顔を上げ、悲し気な笑顔で叫んだ。
「じゃあ、サヨナラだね。可哀そうなカーシャちゃん。5、4、3、2。皆、対防爆姿勢を!」
脱いでいたヘルメットを急いで被り、床に伏せるミハイルくん。
「アーシャちゃん!」
僕は彼の意図を察知し、坊立ちしていたアーシャちゃんの機体に覆いかぶさって寝転がった。
そして、次の瞬間。
僕らを、凄まじい閃光と爆風が襲った。




