第23話(累計 第122話) 最終決戦その13:裏切りと欺瞞。ミハイルくんとの死闘!
「じゃあ、最初にマモル。キミとは『真剣勝負』で『正々堂々』と戦いたいんだ。お願いできるかな?」
僕らを裏切ったミハイルくん。
いつもの笑顔で僕に銃口を向けて、戦いを申し込んできた。
……ミハイルくん! 君は僕らと思いを一緒にしたんじゃなかったの!? 一体、どういう事なんだ?
僕は、ミハイルくんから信頼を裏切られた事で言葉が出ない。
「ど、どうして……。ミーシャ、貴方はわたしと一緒に日常を守るって言ってくれたわよね?」
「それはね、キミ達を騙すためだったんだ。ごめんね、アーシャちゃん」
アーシャちゃん相手でも、悪びれも無く裏切ったことを伝えるミハイルくん。
僕は彼の心情が理解できない。
裏切ったのを、こうも簡単に言えるなんて……。
「ミハイルはん! ウチ、見損なったでぇ。アンタは、自分の罪から逃げる様な子や無いと思ってたんやで!」
「ごめんね、リナ。ボクも、キミを騙すのは心苦しかったんだよ。キミは本当に純真で可愛い普通の女の子だもの」
リナさんには両手を合わせて日本人らしい謝り方をするミハイルくん。
そんな様子に毒気を抜かれたリナさん、ミハイルくんに向けていたグレネードガンを下に降ろした。
「お、俺はオマエの事を信じていたんだぞ、ミハイル。俺の思いを踏みにじりやがって!」
「隊長には一杯悪い事しちゃった。ごめんなさい。貴方は、何もかもが真面目過ぎるんです。もう少し力を抜くと良いですよ。あ、そうそう。ボクの機体の自爆装置は解除済みですので、御安心を」
ダニー隊長の悲し気な声にも、陽気に返すミハイルくん。
一切悪気の無い声に、僕はまだ混乱から脱せられない。
「で、どうする、マモル? 君に合わせて銃も剣も使わずに戦ってあげるよ。『正々堂々』アーシャちゃんを奪い合いたいしね」
ミハイルくん、自らパワードスーツに装備していた武器を床に落した。
……え? あれ、どうして銃を捨てたりするんだ? ミハイルくん、自分が不利になる事を自ら行うなんて普通あり得ないよ??
僕は、手ぶらになったミハイルくんの機体を見る。
そしてモニター越しに映されている彼の表情を見た。
……あ! そういう事か!
ミハイルくんの表情には、全く邪気が見えなかった。
ただただ遊びたいという感情しか見えない。
そして若干のイタズラ心も感じられた。
僕は、脳裏に秘匿回線で話したミハイルくんの言葉を思い出す。
「この先、何があってもボクの事を信用してくれない?」
戦場で、いきなりの言葉。
そこには、何らかの意味があるに違いない。
ミハイルくんが本当に信用を利用して裏切るつもりなら、裏切りを感じさせる前に僕を殺すことも簡単に出来た。
「マモルとは正々堂々とアーシャちゃんをめぐって競い合いたいからね。そこは恨みっこ無しさ」
あの言葉に、僕は一切嘘は感じなかった。
なら、言葉通りの意味を感じ取ればいい。
……つまり、この『裏切り』には理由と意味があるんだね。第一、ミハイルくんは、僕らを騙したとしか言っていないのだもの。
「うん、分かったよ。じゃあ、『正々堂々』競い合おう、ミハイルくん」
「ありがとう、マモル。勝負を受けてくれて」
にっこりと幼子のような邪気の無い笑顔を見せるミハイルくん。
僕は、彼の事を最後まで信じてみる事にした。
「マモルくん、どうしてミーシャと戦うの!?」
「ミーシャ! どうして武器を放棄するのですか? 敵をさっさと殺してくださいな」
アーシャちゃんとカーシャが、ほぼ同時に僕たちに話しかける。
「まあまあ、二人とも。僕とマモルの間に割り込まないで欲しいな。折角、お互い本気で競い合えるのに武器を使うなんて無粋な事はしたくないよ。ね、マモル」
「そうだね、ミハイルくん。ということで、皆。僕に任せてよ」
……やっぱり、「そういう事」なんだね。
僕は、背後の仲間達の方を一瞥する。
モニターの中のアーシャちゃん、リナさん、隊長はとても心配そうな顔。
しかし、ユウマくんだけはニッコリ顔だ。
……さては、ユウマくん。全部知ってて暗躍したんだね。後でみっちり説教と詰問しなきゃ。
「マモル殿。相手は強豪ミハイル殿。くれぐれも油断はせぬように、『上手く』勝つのですぞ!」
「うん! ユウマくん、皆への説明はお願いね」
僕はサムアップをユウマくんに送って、ミハイル君の方に振り返った。
……正々堂々って言ってるし殺気も感じないから、こんな事出来るけど。本当なら敵から目を離すのは、自殺行為だものね。
「待たせてごめんね、ミハイルくん」
「いやいや。マモルとは、一度きちんと戦いたかってみたかったからね」
僕たちはお互い、徒手空拳。
それぞれ得意の武術の型を示し、徐々に近づく。
お互いの一足一刀な間合いまで。
僕は爺ちゃんから習った古流柔術系、左前半身の構え。
ミハイルくんは、おそらくシステマ、ロシア軍隊格闘術なのだろうか。
手をぶらりとさせたまま、全身の力をあまり入れていないように一見思える。
……きちんとした脱力できる格闘家って強いって爺ちゃんも言ってたっけ? ミハイルくん、身体の重心や軸がしっかりとしているから、手ごわそう。
僕たちはお互い、攻撃の間合いに入った。
しかし、ミハイルくんは更に前に進む。
僕も、気にせずに「すり足」で前に進む。
カツンとお互いの機械腕が当たる。
僕らは、更に殆ど密着するまで接近した。
「じゃあ、始めようか。マモル」
「うん、ミハイルくん」
お互いに、まるで遊び、ゲームのような気軽さで勝負を挑む。
そして僕たちの「死合」は始まった。




