第21話(累計 第120話) 最終決戦その11:いよいよ魔の城に突入する僕ら! しかし、シリアスが続かないのはどうしてやら。
「遅くなりましたが、行きますか? 隊長」
「そ、そうだな、マモル。皆、絶対に死ぬなよ。アイツらや世界にお前らの力を見せつけてやれ! り、リナ。愛してる」
「了解!」
「いやーん。兄ちゃん、ウチ、頑張るんね!」
僕ら五人は「悪魔城」、「あの方」が潜む建物内に侵入した。
他の部隊がどうして入らないのかといえば、『あの方』の発言と挑発があったからだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「まったく小賢しい者達ね。でも、よくやったとだけ言ってあげるわ、愚かな社会の歯車たち」
ミハイルくんが原発を止めた直後、基地内放送用のスピーカーから『あの方』の声が響いた。
「しかし、我ら『あの方』の城に土足で入るのは許せません。今から一時間以内にアーシャちゃん達以外の部隊は基地内から退去しなさい。さもないと、衛星軌道上にあるロシア攻撃衛星から地上を攻撃します。軌道上の衛星の大半は既に我らのコントロール下にありますの。では、証拠をお見せします。一発目はシベリアの無人地帯を狙いますわ」
とんでもない事を言い出す「あの方」。
僕らが困惑している時、頭上で光が見えた。
「皆の衆、『あの方』の発言は本当でござる! 衝撃に注意でござる!」
ユウマくんの発言から数秒後、頭上の光が矢のように北西側に向かう。
そして光が地平線の向こうまで走っていった後、轟音と衝撃、軽い地震が僕らを襲った。
「ユウマ! 今のは一体?」
「あれは衛星軌道からの質量攻撃でござる! これは不味いでござる」
ユウマくんが中継してくれる軍事ネットワークや各ニュース。
それらでは低軌道上にあったロシアの軍事大型衛星が突然軌道をそれ、大気圏に落下してきたとある。
なんと、それは核電池装備型で格納容器が確実に地上に落下したとの事。
「ふふふ。おどろいてくれたかしら? 次はモスクワ、それともニューヨーク、トウキョウ辺りを狙おうかしら。それとも軌道上の衛星同士をぶつけてケスラーシンドローム、衛星軌道を使えないようにしてあげた方が嫌がらせになるかしら?」
女の子の口調で僕らを脅す『あの方』。
その行動に怒りを覚えた少女が叫ぶ。
「カーシャちゃん! もう辞めて! どうして貴方が世界をそこまで恨むの!」
「アーシャちゃん。貴方は良かったわよね。ちゃんと成長して美人さんになって。でもね、わたしにはそんな未来は無かったの。殺されて、亡骸まで実験材料にされたわ。『あの方』の中に居る他の人も皆同じ。未来を国家や世界に壊された人たち。だから、わたし達には世界に復讐する権利はあるの」
電子音声ながら、どこか泣きそうな声でアーシャちゃんに答える『あの方』。
彼女たちの運命を思えば、世界を恨むのは理解できないわけでも無い。
だが。
「それでも! それでも、わたしは復讐なんてカーシャちゃんや他の人にもやめて欲しいの! もしカーシャちゃんが世界を壊せば、多くの人々、カーシャちゃんみたいな子供が死んだり、親を失う。カーシャちゃんは自分と同じ悲劇を他の人にも与えるの!?」
「……アーシャちゃんなら、そういうと思ってた。そこの坊やにすっかり毒されたのね。坊や、いやマモル。お前はアーシャちゃんやミーシャまで汚染した! そしてユウマ! お前は我々を侮辱した! お前たちは絶対に許さない」
怒りの感情を僕に向けて、態々日本語で攻撃してくるカーシャ。
でも、僕は彼女を悪夢から救いたい。
それが例え二回目の死を与える事になろうとも。
「『あの方』! 僕はお前たちの悪夢を止める! さあ、勝負だ。僕らを中に居れろ。そして僕らと一騎打ちだ。どうだ? 僕らが怖くないのなら勝負を受けろ!」
「マモルくん! 貴方が戦う必要は無いわ。これはわたしとミーシャの問題。わたし達がカーシャちゃんを止めるの」
「フハハあはは! いいわ、マモル。さっき言った通り、アーシャちゃんとマモルの部隊以外は基地内から出ていきなさい! マモル、わたくし達は城の最奥で待っててあげる。先程ほざいた台詞を後悔しなさい。ミーシャ、貴方は何をすべきか分かっているわよね?」
「はいはい。そこは『理解』してますからね、カーシャちゃん」
……やった! 餌に食いついた。これで、僕がアーシャちゃんを助けることが出来るよ。
アーシャちゃんを幸せにし、一緒に生涯を過ごす。
それが僕の最終目的。
その最大障害こそが、『あの方』。
アーシャちゃんの生まれ持った宿命の末に生まれた悪夢。
彼らを倒して、アーシャちゃんの心の憂いを無くさないと安心できない。
……世界平和ってのもあるけどね。アーシャちゃんと暮らす世界が笑顔に満ちた平和じゃないと、面白くないもの。
「アーシャちゃん、僕は君を守る。その為だったらどんな敵でも倒すし、絶対に生き残る。だから、今回の無理も聞いてくれない?」
「はぁぁ。もうマモルくんのバカァ。分かったわ、貴方の背中はわたしの指定席なのは覚えておいてよね」
「アーシャちゃん、もちろんボクも一緒だからね。マモルに完全にとられちゃうのは嫌だもん」
「お前らなぁ。隊長の俺を毎度無視して! もちろん、俺は一緒に行くぞ。リーちゃん、ユウマは……」
「ダニー兄ちゃん、ウチを仲間外れにしないで! ウチ、兄ちゃんの事が大好きなんや! ウチ、兄ちゃんのお嫁さんになりたいんや!」
「どうでござる、『あの方』。これが生きている者、某らでござる。隊長殿、某の情報支援無しでどう戦うのでござる? 某も自分の身くらいは守れるでござるよ」
僕のワガママに、文句を冗談半分に言いながらも付いてきてくれる仲間達。
僕は嬉しくて、思わず涙をこぼした。
……リナさん、とうとう告白しちゃったけど、隊長は何も言葉が出ないんだね。どうしてだろ?」
「フハハハ! ここまで我らを愚弄したのはお前たちが初めてよ。じゃあ、アーシャちゃんとお人好しで馬鹿なお仲間さん。ようこそ、悪魔城へ」
「じゃあ、行こうか皆」
かっこよく決めようとする隊長。
しかし、どこか慌てた様子に僕は思わず突っ込んでしまった。
「たいちょー。リナさんの告白に対する答えは無いんですか?」
「兄ちゃん……」
「あ……。え、えっとぉ。リナ、本当に俺で良いのか? 美人で器量良しのお前ならいくらでも他に……」
「ウチ、兄ちゃんじゃなきゃ嫌やん! 兄ちゃん、ウチの事嫌い?」
「そんな訳ないだろ。だって、嫌いじゃなきゃ日本語を嫌々でも覚えないし」
「えー、兄ちゃん! ウチの事嫌やん!? ウチ、ショックやぁ。ウチの恋路が実らん世界なんて滅んでしまえー」
「おい! リナ。俺はお前の事が大好きだ。だから、こんな場所で武器振り回して暴れたりするなよ。アリサ、笑ってる暇あったら、リナを止めてくれぇ」
この後、十分以上ダニー隊長とリナさんの痴話げんかが続き、僕らは大爆笑。
『あの方』すらも攻撃することを忘れて聞き入り、最後にはすっかり呆れていた。
「あ、あのぉ。本当に貴方達は世界を救う気なのかしら?」
「カーシャちゃん。わたし達にとっては女の子一人の恋路も世界も同じなよ?」
……シリアスがすっかり台無しだよね。




