第20話(累計 第119話) 最終決戦その10:暴走する原子炉。放射線の満ちる中、僕たちは原子炉停止作戦を行う!
「基地内制圧、時間が随分かかっているわね」
「それはしょうがないと思うよ、アーシャちゃん。かなり広いし、稼働中の原発もあるし」
多脚戦車を撃破した後、僕らは休憩しつつ補給を受けている。
なお、勝手に指揮命令を出したユウマくんは、コッテリと隊長に怒られた。
……ユウマくん、指揮所にいるつもりで指示出しちゃったのかな?
「戦車の中に居たヤツ、あれで成仏してたら良いな。ミハイル」
「え? 隊長。あの戦車の中にAIが居たって思ってたんですか? あれ、遠隔操縦ですよ。量子通信ってやつを使ってますから、タイムラグも殆ど無いですし。そうそう、ボクが隊長と戦った時もそうでした」
ダニー隊長、AIにされた者達の冥福を祈る様に胸に手を置くが、ミハイルくんに否定される。
……そういえば、ミハイルくん。ダニー隊長を病院送りにしちゃってたんだったっけ?
「あ、言われて思い出した。ミハイルが、あの時より今の方が動き良いのは機体を直接操縦しているからか? ただ、あの時より俺も強くなっている。次はあんな風に負けないぞ」
「ごめんなさい、隊長。あの頃のボクは、命の重さを全然分かっていなかった。だから、隊長の事も痛めつけて遊んでいたんだ」
「まあ、いいさ。マモルじゃないが、次は殺し合いじゃなきゃ歓迎さ。ミハイル、お前はこれからの一生で犯した罪を償え。さしあたって今は俺の部下として生き残って運命に勝て! 簡単に死ぬなよ?」
笑いながらミハイルくんを許すダニー隊長。
その度量の大きさに、僕は心が温かくなった。
「隊長もマモルも、ユウマも。皆、こんなボクの為にありがとう。アーシャちゃん、これがボクの知らない世界だったんだね」
「そうよ。わたしもマモルくん達に教えてもらったの。この世界を守らなきゃね」
「あー、ウチを置いてけぼりにするんやないでぇー。ミハイルはんには文句言いたいこともいっぱいあるんやけど、今は力強い仲間や。やらかした事は自分の行動で取り戻すんやで」
こんな素敵な仲間達に囲まれて僕は幸せだと思う。
「マモル殿。ここまで来たら絶対に負けられぬでござるな」
「そうだね、ユウマくん!」
僕らの機体に対しての補給が終わる頃、急に周囲が騒がしくなった。
「どうしたのでしょうか、隊長」
「さあ、俺の処には情報は入っていないが?」
「某の情報筋によれば、原発が暴走気味。かつ、『あの方』が居るであろう建物が電磁シールドで囲まれていて手が出せない状態でござるな。確かに環境放射線と電磁波のレベルが普通でないでござる」
僕が隊長に状況を聞くと、情報通、いやハッキング上手なユウマくんが各種データを各機体のモニターに表示してくれた。
確かに空間γ線の量がどんどん増えてきている。
「お前なぁ。味方の軍事ネットワークにハッキングは毎度どうかと思うぞ? でも、情報助かる。放射線は俺達大丈夫なのか? 特に若い女の子が被曝するのは良くないぞ?」
「今の値でござったら、機体内にいれば大丈夫でござる。コクピット回りはチタン殻で守られているでござるし」
……若い子ほど放射線による影響大きいって聞くしね。細胞分裂が盛んだとエラー細胞による発がん性とか細胞死に耐えられないらしいし。
「ユウマくん、原発は止められないの? 多分、施設を覆う電磁シールドや『あの方』を動かしているのは原発からの電力でしょ? 電力ケーブルや光通信ケーブルを遮断したら、『あの方』は何も出来ないはず」
「マモル殿。それでござるが、重要なケーブルは全部地下に埋設されている様なのでござる。これが基地設計時の図面でござるが、かなり複雑で工兵部隊も苦戦しているようでござる」
どこから探して来たのか、秘密都市のこれまた秘密基地の建設当時の図面を持ち出してくるユウマくん。
もう呆れるしかないのは、隊長も同じだろう。
「この図面、どこから持ち出したのかはもう聞かん。ユウマ、もちろん工兵隊に図面は渡しているんだろうな?」
「隊長殿。当然、作戦開始前に原発の図面共々渡しているでござるよ。さて、我々はどう動くでござる? さしあたっては原発を制圧の後停止させたいでござるが、某らでは中に入れぬでござる」
「ユウマ。ボクに任せてもらえない? アレ、持ってきているんだろ?」
原発施設内は放射線が強く、パワードスーツ越しや防護服を来ても長時間人が中に入る事は出来ない。
『あの方』らも遠隔操縦のロボットやドローンで原子炉運転をしていたようで、今も中では彼らが中に入るのを妨害している。
「もちろん、『こんな事もあろうか』でござる。隊長殿、ロシアの方から一機分の無人パワードスーツを用意してもらえぬでござるか?」
「あ、そういう事なんだ、ユウマくん。隊長、僕らで原発も止めましょう!」
「しょうがない。じゃあ、部隊の運命をお前らに任せようか」
そして僕らの原発制圧・停止作戦が開始された。
◆ ◇ ◆ ◇
ミハイルくんの意見具申は、案外簡単に作戦上層部に受け入れてもらえた。
彼以外に遠隔操縦で戦闘まで出来る人は他におらず、また生身で原子炉内に入るのも不可能であったからだ。
「ふぅ。とりあえず、コントロール室までの邪魔者は全部撃破できたね。ただ、操作盤が壊れちゃったのは想定外だったよ」
ミハイルくん、ユウマくんに準備してもらった量子通信システムを使って、無人パワードスーツを遠隔操縦。
強い放射線で満ちる「死の空間」、原発施設内部を進み、邪魔をするドローン達を撃破してコントロール室までは入れた。
しかし、コントロール室に居た戦闘用ドローンとの戦闘に手間取り、原子炉操作盤を破損しまった。
「しょうがないでござる。こうなれば、格納容器内まで行って緊急バルブと制御棒電磁石を使って原子炉を緊急停止させるでござる!」
「えっと、ホウ素水の入ったタンクからのバルブを開けるのと、制御棒をくっ付けている電磁石の電源部分を止めればいいんだね、ユウマ」
ユウマくん、黒鉛型原子炉の概要図と核反応を止める方法をテキパキとミハイルくんに指示してくれる。
一体いつの間に、こんな事まで勉強しているのだろう?
「ユウマくん、本当に君ってチートだね。一体、何処まで見切ってるの?」
「マモル殿。某、全知全能ではないでござるよ? 最悪の状況を想定していただけでござる。原子炉暴走は最初から想定内、『こんなこともあろうかと』でござるよ?」
僕が呆れている間に、ミハイルくんの操る機体は原子炉格納容器内まで侵入。
「ミハイル、8時方向に敵だ!」
「そこ、あ、危ないわ。ミーシャ、気を付けて」
「ミハイルはん。上手い! ウチ、こんなん出来へん」
「ミハイル殿。そこのスイッチが緊急停止装置でござる。ぽちっとなでござるぞ!」
皆の応援と声援を受けて、行動を行うミハイルくん。
「ミハイルくん。もう少しだ!」
「みんな、ありがとー。ボク、嬉しいなぁ」
まだ邪魔をする雑魚を薙ぎ払って、ミハイルくんは緊急停止作業を行った。
「ほい! これでお終い。皆に応援してもらいながら戦うのって、こんなに楽しくて嬉しいんだね」
ミハイルくんの幼子みたいな笑顔をモニター越しに見て、僕は嬉しくなった。




