第19話(累計 第118話) 最終決戦その9:肉薄! 多脚戦車との接近戦。
「フハハハ! 考えも無しのガキどもめ。ミハイル坊は殺してはダメだったが『誤射』はしょうがあるまいて。真正面からあんなボロを盾にして……。なにぃぃ!」
多脚戦車「スコルピオン」を操るAI人格《将軍》は、機体カメラから見える映像が信じられない。
真っ黒な固まりを盾にして突撃してきたミハイル達。
このまま接近戦に持ちこまれても嫌だし、ビーム砲相手に盾を構えて突っ込んでくる馬鹿さ加減に呆れて、最大照射のビームで焼き払った……はずだった。
しかし、戦車の前には溶け残った黒い『盾』の影から多数のパワードスーツが散開。
各機がステルスマントを靡かせて、こちらに攻撃を仕掛けてきた。
「こ、この雑魚どもがぁ!」
《将軍》は、自分の最強だったはずの攻撃を意外な方法で耐えられて激怒した。
◆ ◇ ◆ ◇
「作戦成功でござる。各機、次の攻撃を阻止するために散開して攻撃をするでござる。機銃にも気をつけるでござるよ!」
「ユウマ。勝手に部隊を仕切るんじゃねぇ! お前ら、弾には当たるな! 弾を当てろ!」
僕が原案、ユウマくん改良の作戦により、僕らは最大照射ビーム一発を耐え、戦車の至近まで近づいた。
今は戦車の周囲を囲みこみ、少しでも装甲が弱い部分に攻撃を当てている。
……最初の予定だったら、僕とミハイルくんだけでビームを機動で避ける予定だったんだけど、良い『盾』があったから全員で攻撃になったんだ。
「それにしても、あんなところに弾道弾用の弾頭防護アブレーターが固まりであって良かったね」
「ここはロシア軍の兵器開発工場でござる。大陸間弾道弾に加工する前の素材があると踏んで正解でござった」
僕らが盾に使ったのは、大陸間弾道弾の大気圏再突入体を覆う素材。
炭素・ガラス繊維強化型なフェノール樹脂の大きな塊。
突入体に使う前の原材料を、盾の形に現地で仕上げて持って来たものだ。
……ビームが当たっても、樹脂が炭化・気化する際の気化熱でエネルギーを使ってしまうんだ。大気圏突入時の大気プラズマに長時間耐える代物だから、短時間ビーム照射くらいじゃ抜けないよ!
アブレーター盾、氷、散布された金属粉、そして対レーザー煙幕。
全ての合わせ技で、僕らはビーム砲を凌いだのだ。
「ふふふ。『あの方』もパニックしてるよね。ボクもびっくり。戦車も気化させるビームを真っ黒なプラスチック板で防ぐんだものね。これもSFアニメバンザイ!」
「Gダムでも、大気圏再突入は毎回ドラマチックでござるよ」
「あーん、ウチが分からないネタで盛り上がらんといてぇ」
「わたしも分かんないよー」
「お前ら、少しは真面目に戦えー」
「僕、真面目に戦ってますけどぉ」
僕らは、好き勝手おしゃべりしながら敵戦車を襲う。
敵機体前方や左右は機関銃砲座があって手ごわいが、後方は花弁状のマイクロウェイブ受信ユニットの為に死角が大きい。
各自、高速に移動しながら死角より脚部や無人砲座、マイクロウェイブ受信ユニットを攻める。
多脚戦車は死角からの攻撃を嫌がって動き回るが、五機に囲まれてはどうにもならない。
「脚、一本貰ったぁ!」
「やるねぇ、マモル。ボクもRWS一機壊したよ」
僕らが多脚戦車を相手してる間に、他部隊も基地内に侵入。
援護射撃や他の砲座・ドローン等と戦い、基地内掃討を開始した。
「くそぉ。お前らチョロチョロとぉ!」
文句を言う多脚戦車。
主砲口に光が生まれ、ビームを撃ちだす準備をしだした。
「皆の衆、脚を狙うでござる!」
ビームの反動に耐えるため、動きを止め踏ん張りだす戦車。
僕らは両側から脚の関節部を狙う。
重機関銃から撃ちだされる徹甲焼夷榴弾、爆裂するグレネード弾。
大型機関砲からの狙撃。
僕に砲口を向けてくるが、僕も移動しながら撃つ。
そのうち、バキンと音を立てて複数の脚が折れ飛ぶ。
ガクンと傾いて地面に腹を付けた多脚戦車。
しかし無理やりビームを撃とうとする。
「皆の衆、退避! これでも喰らえでござる!」
ユウマくん、砲口に目がけて焼け残っていたアブレーター盾を投げつけた。
そして起こる閃光と爆風。
全てが終わった後、焼け焦げて錆色になった多脚戦車がそこにあった。
「エネルギーが足らない状態でもこの威力。実に恐ろしい敵でござった」
「ビームの逆流をもろに受けちゃったんだね、ユウマ君。でも、まだ動いてる様に見えるんだけど?」
「皆、一端下がれ。俺が確認してトドメを刺す」
砲口を塞がれたので逆流したプラズマが機体全体を焼き、脚も大半を失ったので何も出来ない多脚戦車。
ゆっくりダニー隊長が近づく。
「ミハイル……。どうして裏切ったぁ……」
多脚戦車より恨めしそうなロシア語が聞こえ、それを翻訳した字幕がモニター上に映る。
「だって、こっちの方が面白そうなんだもん。君たちと一緒だったら見えない世界を見せてくれたからね」
ミハイルくんは少し寂しそうな声で多脚戦車の向こうに居るであろう『あの方』に話しかける。
裏切者扱いされる事は悲しいだろう。
「アンタ達の事には同情するが、それでも俺達の世界を破壊されちゃたまらん。成仏しな」
隊長は、戦車の車体に開いた破孔に二十五ミリ機関砲の砲口をぶち込む。
そして引き金を引いた。




