第18話(累計 第117話) 最終決戦その8:対決、銀色の多脚戦車!
「本当にお前らが行くのか? 他の人に任せるという選択肢は無いのか?」
「ええ、ダニー隊長。今回参加している部隊の中で、僕とミハイルくんの乗るパワードスーツが最も機動性が高く最速です。だったら、僕らが行くのが成功確率が一番高いかと。ただ、皆さんを巻き込むのが心苦しいのですが……」
「そーだね、マモル。マモルと背中を預け合って戦うのは初めてだけど、楽しそう」
僕は、思いついた作戦をダニー隊長に意見具申した。
作戦の成功確率のみを考えれば、僕とミハイルくんが多脚戦車の矢面にいくのが最も確率が高いはず。
隊長が僕らを前に出すのに抵抗があるのは、僕も理解してはいる。
しかし、これ以上被害が大きくなるのを僕は黙ってはいられない。
「しかし、本当にうまくいくのか? ユウマ、どう見る?」
「そうでござるね、隊長殿。某と皆の協力があれば、十分勝算はあるでござる。作戦成功に必要な物資を頼むでござるよ。リストはこれでござる」
ユウマくん、ある程度までは想定していたらしく、作戦に必要な物資、弾薬をリストアップしてくれた。
「マモルくん。貴方の事だから言っても聞かないと思うの。だから、わたしは貴方とミーシャの後ろを守るわ」
「ウチも背いっぱいフォローするでぇ。あんなカニは、カニ道楽の看板みたいにしてひっくり返したらええねん!」
女の子二人も、僕らを助けてくれるという。
実にありがたい。
「リナ殿、確かに転がせれば勝てるでござるが、五十トンを超える巨体は簡単にひっくり返せぬでござる」
「そうなん? じゃあ氷の盾とかでビーム防げへんの? 氷なら、この辺にいくらでもあるで?」
「氷を使うのは悪くないアイデアでござる。水蒸気はビームを減衰させるでござるし。ただ普通の氷では一秒も持たぬでござる。もっと熱に強くて、気化熱を奪える……!? そうでござる! 軍事開発していたココなら、アレがあれば……」
リナさんのアイデアを聞き、完全に集中モードに入ったユウマくん。
こうなった時の彼は、とっても頼もしい。
いつも想定の斜め上から敵を殴り倒してくれるから。
……今回は、斜め下からかな?
「では、ユウマのプランが出次第、カニ退治といこうか、皆!」
「はい!!」
◆ ◇ ◆ ◇
「全く懲りない奴らだぜ。少々の砲撃で俺を倒せるとでも思ったか!」
男は、銀色の多脚戦車越しに叫ぶ。
先程まで激しく撃たれてきた榴弾砲をビーム砲や施設内の迎撃システムで、ほぼ撃退した。
一部撃ち漏らした弾がクラスター型自己鍛造弾だったため、小型ドローンの一部は撃破された。
だが、基地機能や多脚戦車への被害は軽微。
撒き散らされた金属粉の影響で、量子通信やエネルギー伝達用マイクロウェーブの透過度がやや低下しているものの、ビームを連打しなければ問題もない。
そしてしばらくすれば金属粉も地面に落ち、電波状態も回復するだろうと、男は闇の中で思った。
「《将軍》。すっかりご機嫌ですが、攻撃は適時にお願いしますね。何せ、先程から原発が全開運転してますので。旧型になる黒鉛炉に無理はさせたくないですからね」
「《姫》。そこは、しばし辛抱してくれよ。俺は久方ぶりに戦車で戦えているんだ。それに敵もチョルノービリ原発事故再びってのは嫌がるだろ。現に空爆もしなけりゃ弾道弾も降ってこない。精々が誘導砲弾くらいじゃ怖くもねぇぜ」
暗闇の中、少女が男に話しかける。
《将軍》と呼ばれた男は、監視システム越しに基地内の情報を見ていた。
「ですが、ミーシャとあの少年、マモルがここに来ています。他の雑兵はいざ知らず。あの二人にアーシャちゃんとユウマが加われば何を仕出かすか分かりません。子供相手となめてかからないで下さいね」
「はいはい、《姫》。いやカーシャちゃん。お前の友人だといって手加減はしないぜ」
『あの方』と呼ばれるボトムアップ型超人工知能。
その中には複数の人格が生前、スキャン時の情報によって再現されており、お互いに意見を話し合ってAI全体の行動指針を決めている。
「お、動きがあるようだな。さて、坊や達はどう動く?」
《将軍》と名乗るAI人格。
かつて母国の為に幾度もの戦争で戦車兵などとして戦い、多くの勲章も授与され、最終的には戦車連隊の長、大佐まで出世していた。
しかし、たった一回のミス。
哀れに思ったゲリラの子供を見逃した事から、部隊の行動予定がゲリラらにバレ、部隊は罠に嵌められて壊滅した。
「俺をただ極刑にするんじゃなくて、実験材料にした国は絶対許せねぇ。たった一回子供を見逃したくらいで!」
男は軍事法廷で有罪、死刑となるも銃殺の代わりに生きたまま『あの方』の一部となるための高エネルギー電磁スキャンに掛けられた。
「生きたまま脳が茹で上がる感覚、てめえらにも味合わせてやるぜ! ビームで全部ふっとべばいい!」
《将軍》が駆る多脚戦車「Скорпион」の砲身の先、数機のパワードスーツが見えた。
「あれはミハイル坊とマモルってガキの機体だな。ミハイル坊は、殺しちゃダメだから難しいぜ。ん? 何だ、アレは!?」
男は前方部隊の行動を見て、無い首を捻った。
◆ ◇ ◆ ◇
「ウチ、怖いんやけど行くのじゃぁ!」
「某もアリサ殿も一緒でござるよ!」
「俺達が上手く動かなきゃ、マモルらが危ない。ここは踏ん張りどころだぞ!」
僕らの部隊は、纏まって行動をしている。
前衛としてリナさん、ユウマくん、ダニー隊長が縦横六メートル四方、厚さ五十センチを越える大きな黒い樹脂の塊、いや『盾』を並んで前に抱えて押しながら突撃。
僕、ミハイルくん、そしてアーシャちゃんが前衛三人のすぐ後方に待機し、彼らがビームを受け止めるを期待している。
「ほ、ホンマに『こないなモン』でビームを受け止められるんかいな、ユウマはん?」
「り、理論上では大丈夫でござる。何、某らの機体の盾や追加した氷や煙幕を使えば死ぬことは無い……はずでござる」
「今はユウマの策を信じろ! 最悪、俺たちが死んでも後から来る部隊へ時間稼ぎができる筈だ」
「もー怖い事言わないでよね、ユウマくん。わたし、貴方達とはもっと遊びたいんだから、死んだりした絶対に許さないんだからぁ」
「マモル。ゾクゾクしちゃうね。こんな作戦、誰も思いつかないって」
一見、無策に見える突撃作戦。
しかし、これでもかなり考えた策なのだ。
「戦車に高エネルギー反応あり。ビームが来るでござる。各機、脚を止めて防御態勢!」
「各機、対レーザー煙幕を散布! いそげ! 俺達の力を見せろ!」
僕らは全員その場で姿勢を低くし、『盾』の影に隠れる。
そして、あるだけの煙幕弾を前方に散布した。
「ビーム来ます!」
僕らの視界は、モニター越しに遮光されてても真っ白になった。




