第17話(累計 第116話) 最終決戦その7:死闘! 恐怖の多脚戦車。
敵基地内の中央部。
格納庫から出てきた、銀色のカニ、いや蜘蛛。
ステルスや視認性低下などを一切考えない、ステンレス系の輝きを放つ多脚戦車。
それは八本の銀色な脚を持ち、コンクリートの地面に足跡を残しながら歩く。
脚が生えた胴体の上には、同じく銀色の巨大な砲台が載る。
また、何故か後方には大きな銀色の花弁状のものを多数貼り付けていた。
砲台に設置された砲。
そこにはライフリングもマズルブレーキも排煙器も無い。
電磁加速用のレールとレンズらしきものが砲として載っていて、その左右には無人型銃座があり、主砲の死角をフォロー。
また機体前部にも格闘用の腕と機銃が見える。
「まだ実用化には数年って話だったぞ、あれは? 動力に問題があるから、一発撃ては冷却も追いつかないって……」
「そうでござる、ミハイル殿。某もレールガンすら開発中と聞いていたでござるよ。それこそ、原発と直結で無いと……。ま、まさか!?」
ミハイルくんとユウマくんが、敵多脚戦車を見て驚愕している。
ダニー隊長やアーシャちゃんは、敵戦車による被害を見て声も出せない。
「う、嘘や。あんなん、どーやって勝てるん? ビーム撃つような戦車なんて、ウチどうしようもあらへん! どないしよー」
リナさんに至れば、完全にパニック状態。
他の部隊からの通信内容も英語なので大体しか意味が分からないが、AI翻訳でもパニック状態に陥ってることが表示されていた。
「フハハハ! 愚民どもよ。お主らがいくら群れようとも我ら『あの方』には勝てぬ。我らは同じ思い、世界への復讐を誓いまとまっておるが、今もなお戦いの後の利権を考える様な者達が我らを阻むことなぞ不可能だ!」
銀色の多脚戦車が大声のロシア語な電子音声で叫ぶ。
AIによる自動翻訳の字幕がモニターに表示されるが、その言葉は『あの方』そのもの。
「ミハイル。もしかして、あれは『あの方』が直接操っているのか?」
「ええ、隊長。ボクが想定していた最悪を超えた最悪の展開です。無人パワードスーツを操って攻撃してくるのまでは想定してましたが、あのようなバケモノがあったなんて……」
「とりあえず、今は一端ここから離れるでござる。ビームで薙ぎ払われたら一瞬で壊滅でござる」
硬直から回復したダニー隊長、一番敵に詳しいだろうミハイルくんに情報を聞くが、彼も大して情報を持っていないらしい。
ユウマくんが撤退を進言するので、僕も同意する。
「隊長。基地から射線が通りにくい場所。あ、あそこの小山の影に避難しましょう」
「わたしもマモルくんの意見に同意します。リナちゃん、逃げるよ?」
「は、はいな」
「そうだな、皆。各部隊に一時撤退を進言して、俺達は先に逃げるぞ」
「了解」
僕らは、煙幕を焚きつつ急いで基地から丸見えの場所から逃げる。
他の部隊も僕らの行動に追従はするが、遅い部隊が再びのビーム砲撃に巻き込まれた。
「ヒャハハハ! 死ねぇ、愚か者どもめー」
再び砲口が光り、ビームが発射。
二秒ほどの照射時間中、薙ぎ払われたビームによって多くの味方、戦車、歩兵戦闘車、パワードスーツ、歩兵らが「蒸発」した。
「うわー、危ないところだったよ」
「某が用意しておいた対赤外線レーザー煙幕を散布しておいてよかったでござる」
煙幕を焚きながら撤退した僕ら。
多脚戦車の視線から逃れたのと、煙幕がビームを軽減できたので撤退に成功した。
◆ ◇ ◆ ◇
「おそらくでござるが、あれはレーザーとプラズマ砲のミックスでござる。レーザーで大気を電離、オゾン化させたところを電磁誘導加熱で作ったプラズマを撃ちだしているでござろう。オゾン濃度の上昇、環境放射線はそこまで増えていないでござるから、陽電子系のビームではないのが幸いでござる」
「レーザー兵器がCIWSに使われるって話は僕も聞いてたけど、プラズマキャノンなんて完全にSFの兵器じゃないの、ユウマくん」
「もうGダムの世界やないかいな。光速でくるビームなんてアムロはんじゃなきゃ、避けられへんで?」
「わたし、ビームなんて避けられないわ」
「日本のSF作品では見てたけど、それを実現しちゃうなんて……。あいつら、ボクに黙っていつのまに日本のエンタメ楽しんでいたんだよぉ!」
皆、ビーム兵器の恐ろしさを目の前で見て、興奮状態。
しかし、あんなのが基地に陣取っているのなら、普通の攻撃方法では突破は不可能だ。
……最新型の戦車でもビーム照射には装甲はともかく中の人間が持たないよね。それこそ、大戦中の戦艦クラスの装甲じゃなきゃ守れないよ。
「CPは、俺達にしばらく待機しろとの命令を出してきた。流石にアイツを陸戦隊だけで仕留めるのは不可能だから、放物線で攻めることが出来る榴弾砲による砲撃や巡航ミサイルによる攻撃が行われるらしい」
対空装備も充実されている基地相手、その上「銀色のカニ」が陣取るのでは空爆も難しい。
ただ、現代ではロケット弾や砲弾を撃墜出来る技術もあるので、砲撃も無敵ではない。
「さっそく砲撃が開始されたでござるよ」
ユウマくんが情報を皆に流す。
十キロ以上後方に展開していた155ミリ榴弾砲が一斉に火を噴く映像がモニターに映る。
そして十数秒後、閃光と共に爆発が起こった。
「くそぉ、砲弾すら全部打ち落とすのかよぉ!」
ダニー隊長が苦々しく叫ぶ。
「銀色のカニ」、多脚戦車は砲を上空に向け斉射。
ビームが迫りくる榴弾を全て薙ぎ払っていた。
「流石にビーム連打は出来ぬでござる。お、第二射が撃たれたでござるよ」
ユウマくんが希望的観測を述べつつ、第二射を告げたが……。
「またか! 一体、どれだけエネルギーがあるんだ」
「ダニ―隊長殿、今までのデータ観測である程度の事が分かったでござる。某ら陸戦兵器を襲った際のビームが恐らく最大照射。でござるが、対空モードではそれよりも低いエネルギー量でパルス斉射しておったでござる。更に撃ち漏らしをCOUNTER-RAMが撃ち落としたでござる」
ユウマくんが観測データを報告してくれる。
どうやら敵ビーム砲は、モード切替をすることで敵に対応しているらしい。
「またエネルギー源でござるが、機体後部にある花びら状のもので原発から送られてくるマイクロウェーブを受信しているのでござるよ」
「それってXのサテライトキャノンじゃん。やっぱりアイツらボクにナイショでアニメ見てパクったのか。許せないなぁ」
ミハイルくんが妙な事を言って『あの方』への怒りを燃やす。
……余程、ミハイルくんってば、エンタメから遮断されたのを怒ってるんだね。……ん! じゃあ、ある程度撃たせつつ、マイクロウェーブを遮断出来たら勝てるんじゃない?
「ダニー隊長、ユウマくん。僕から意見具申したいんだけど?」




