第13話(累計 第112話) 最終決戦その3:空挺降下! 僕は恐怖に震えながらも戦う。
「隊長。僕ら、ここから空挺降下出来ませんか?」
今現在、僕らの乗る輸送機は地上からの対空砲撃。
そして小型ながら高機動なジェット無人戦闘機に追われている。
このままなら、僕らは空中で無残に死ぬ。
……絶対に僕はアーシャちゃんと幸せになるんだ!
僕は一か八かの作戦を、ダニー隊長に意見具申してみる。
「おい! いきなりろくな訓練も無しにパワードスーツでの空挺をやるのか!? それは無茶だ! 俺はお前らを空中に放り出すなんてできやしないぞ」
「う、ウチ。高いとこダメやん。ぜ、絶対無理やー!」
隊長は苦し気な顔で僕の意見を否定する。
高所恐怖症なリナさんは、当然のようにダメだという。
確かに、僕らは誰も空挺降下の訓練を受けていない。
今回、僕らは制圧を終えた飛行場に安全に着陸してから輸送機を降りる予定だった。
念の為に、各機体には降下用のパラシュートユニットを装備はしているが、あくまで緊急時用の予備装備。
空中でバランスを崩してしまえばパラーシュートが上手く開かずに、そのまま地上に落ちて死ぬ。
……実際、パラシュート降下中の事故は結構あるらしいよね。
「隊長殿。某よりも意見具申するでござる。このまま撃ち落とされるのを待つよりは、空挺降下をした方が某らも輸送機パイロット殿達も生存確率が上がるでござる。某、こんなことがあろうと、空挺降下用の姿勢制御プログラムを作戦参加各機に組み込んでいるでござる! なお、その情報も今、全部隊に転送したでござるよ」
「お、お前なぁ。それは明らかに違法ハッキングだぞぉ? 係長殿がいつも愚痴るのが分かるよぉ。ユウマ、お前は本当にチートすぎんか?」
「ははは! ダニー隊長。今回はユウマのイタズラに乗ろうよ。ボクもユウマには毎回負けてるけど、今回も完敗。ボクもマモルの意見に賛成!」
「ちょ、! ウチ、絶対にダメやぁ。アーシャはんからもダメっていってや!」
そんな時、ユウマくんが空挺用プログラムの情報を開示。
僕の機体モニターにもプログラム稼働のアイコンが表示された。
「ユウマくんってば、どれだけ準備しているのかしら?」
「ユウマはん、絶対に『こんなこともあろうかと』を言いたくて準備してはるに違いあらへん。でも、絶対にウチは無理やー!」
「失敬な、でござるよ? 某、毎回準備しているだけでござる。リナ殿も安心して降りられる仕様でござるよ? 怖かったらモニターを切っていたら良いでござる」
なおも怖がるリナさんを説得するユウマくん。
「ただ、今回は使う事は最悪の状態を想定したのでござった。本来は、表だって動く予定はなかったでござる。ミハイル殿との『事前打合せ』には、この事は無かったでござるよ」
……ん? 今、ユウマくんはミハイルくんと打合せしていた、状況を予想していたって言ったよね。何か、まだあるの??
「ふぅ。しょうがない。じゃあ、ユウマのイタズラとマモルの意見を採用する。パイロットさん、話は聞いてたよな」
「ちょ、ダニー兄ちゃん。ウチ、ダメやー!」
「はい、少尉。俺らは坊ちゃんたちを出来る限り空港近くまで送ってから脱出しますぜ。さあ、大きく揺れるから、しっかり何かを掴んでいるんだぜ!」
ダニー隊長の言葉と共に、僕らを乗せた輸送機は大きく揺れだす。
また、エンジン出力を大きく上げたのか、加速度も増している。
「きゃー。ウチ、死ぬぅぅ!」
「坊ちゃん嬢ちゃん達。後、一分後に俺達は空港の上を通過する。高度は千二百フィート。お前らを落とすまでは絶対に落ちないから、安心しろや!」
「ということだ。全員、まもなく降りるぞ!」
輸送機後部のハッチが大きく開く。
ハッチからは、地上よりの砲撃に晒されている輸送機達や必死に戦う戦闘機達が見える。
「カウント、5、4、3、2、1、ナウ!」
「行きます!」
僕は機体を空中に投げだした。
「きゃぁぁ! ウチ、しぬぅぅ」
「大丈夫!俺とユウマを信じろ!」
背後からリナさんの大きな悲鳴が聞こえる。
ダニー隊長がリナさんをフォローしているらしいのは、チラと見えた。
「うわぁぁ!」
僕を、逆Gが襲う。
ふわふわとした足場のない感覚。
顔を真下に向けると、網膜投影映像では赤外線視覚で地上まで見える。
緑色の視覚の中、熱を持った物体が多数、滑走路上で走り回っている。
「こ、怖い!」
降下する僕の左右を、砲撃やミサイルが飛び交う。
僕に攻撃が当たらないのは、運が良いからだけ。
恐怖に身体を動かしたくなるが、変に動けばバランスを崩し、パラシュートが上手く開かなくなりかねない。
怖くなって上を見ると、僕らを投機した輸送機は翼から煙を出しつつも上昇し、砲撃から逃げている。
他の輸送機も同じく、パワードスーツ部隊を空挺降下させていた。
「ぐぅ!」
恐怖を我慢していると、更に激しい逆Gが僕に襲い掛かり、落下速度が低下する。
モニター表示で高度は三百メートル。
パラシュートが自動的に開いた様だ。
「よう! そこの見慣れない機体に乗ってんのは、日本のボーイかな?」
そんな時、近くの機体からレーザー通信で日本語会話が聞こえてきた。
「はい、そうです。貴方は?」
「俺はな、アメリカ軍海兵隊の者さ。以前、沖縄に勤務してて、キャンプ・ゴンサルベスでのテロ退治の話は聞いてたんだよ。そうか。やっぱりアレは坊やだったのか。ははは!」
僕の機体の右横をパラシュート降下中のM4。
そこから僕の事を知っているアメリカ海兵隊のお兄さんが、気軽に声を掛けてくれる。
「今回の作戦。絶対に勝って帰ろうぜ。しかし、坊やが一緒なら安心さ。だって、無敵の……ぐはぁぁ!」
僕を勇気づけようと話していてくれたお兄さん。
地上からの銃撃を受け穴だらけになった直後、僕の真横で爆散した。
「うわぁぁ!」
下を見れば空港に設置されたCIWSらしい大型の砲台が新たなターゲットとして僕を見る。
コクピット内にロックオン警報が鳴る。
「こ、このままじゃ!」
僕は死を覚悟した。
……でも、まだ死ねない!
僕の脳裏にアーシャちゃんの笑顔がよぎった。
「くそぉぉ! こんなところで死んでたまるかー!」
僕は一か八か、降下装置のパラシュートを高度百メートルでパージした。
「ぐぅぅ!」
一気に、落下速度は上昇。
僕を狙っていたはずのCIWSの銃撃は、僕の頭上を通過した。
「マモル殿。プログラムの隠し機能、緊急ブーストを使うでござる!」
急速に落下する僕に、ユウマくんからの声が届く。
「こ、これかぁ!」
僕は、降下プログラムの隠しモードを起動した。
「ぐうぅぅぅ!」
高度二十メートルを切る辺りで、降下ユニットのブースターが最大噴射。
僕の駆る機体は空中で一瞬停止した。
「パージ!」
僕は背部に背負った降下ユニットをパージし、後は機体スラスターを駆使する。
「やぁぁぁ!」
機体ベクトルを下方向から斜め前下方向に変えた僕。
空港滑走路に設置する前にローラーを起動。
そのまま強行着陸をした。




