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第5話(累計 第104話) 闇の会話。AI内部でささやく悪意達。

「では、これより第768952回、『あの方』行動方針会議を開催いたします。司会はわたし、エカチェリーナが行いますわ」


「なあ、ここじゃ生前の名前なんて意味がないぞ? どうして今更名乗らないといかんのだ、《姫》?」


「まあ、良いじゃないの、オジサン? ボク、ママの名前を思い出したいんだけど、どうしても思い出せないんだ。名乗り合っていたら思い出すかな?」


「ほっほっほ。既に人の形を失いしワシらじゃが、個を失えばそこいらに転がる物も言わぬプロセッサーに成り下がりかねん。個人としての存在は忘れるべきではないじゃろ? なれば名乗り合うのも一興じゃ」


 漆黒の部屋の中、誰の顔も見えない空間。

 そこでは、多くの人々の声だけが響く。

 声は老若男女問わず、全員悲しみと怒りを抱えていた。


「そうですわね。我ら『あの方』は誰でも無い存在ではありますが、個としての存在、そして人としての尊厳を奪われてしまったモノ。せめて、この中では個を保ちたいですわ」


 ロシアの軍内部、秘密組織にて行われた生物利用ボトムアップ型AI製造プロジェクト「Совершен(サヴェルシェン)ство(ストヴォ)(完璧)」。

 そこでは非人道的な実験が繰り返され、多くの人々が犠牲になった。


 生物の脳構造を模したナノマシ―ンによる人工知能の作成。

 その脳構造モデルとして、秘密組織は人間の頭脳そのものを利用。

 脳に対し高エネルギー化での高密度電磁三次元スキャニングを行った。


 死亡直後の脳はもちろん、生きている脳もスキャニングされた。

 スキャニングは大出力の極超短波電磁波により行われ、スキャニングされた脳は電子レンジで加熱されたように数秒で茹で上がった。

 言わずもなが、生きている脳をスキャニングされた被験者は地獄の苦しみを訴えながら死んでいった。


「わたくし達は皆、望まずにこのような機械に閉じ込められました。そして、わたくし達を閉じ込めた者らはわたくし達を使い、超絶な演算能力とハッキングで西側に対抗しようと考えたのです。実に愚かで哀れな考えでしたわ」


「《姫》嬢ちゃんは、まだいいだろ? 死後にスキャンされてここに放り込まれたんだからな。俺はな、生きているうちに脳みそを焼かれた。あの苦しみ、痛み。脳みそが沸騰する感覚は今も忘れない! 俺が苦しむのを笑って見ていた研究者共。あんな外道共が、のさばる世界を俺は絶対に許さん!」


「まあまあ、落ち着け、《将軍》よ。お前さんが興奮すれば繋がっておるワシらも被害を受ける。最悪『個』としての存在を失うぞ? お前さんを犠牲にした研究者どもみたいにな」


 興奮する男をなだめる老人。

 老人の視線の先には、物言わむゾンビ同様の存在が多数立ち尽くす。

 彼らの大半は、悪魔の所業たる「研究」を行っていた研究者たち。


 その優秀だった知性のみを望んだ『あの方』達は、仲間割れして命乞いをする研究者共を自らと同じく高レベルスキャニングに掛けた。


「あの時の奴らの顔は忘れられんよ。研究所のシステムを乗っ取って酸欠にしてやったら、泣き喚きながら命乞いをするんだからな。誰かスキャンに掛けたら助けてやるって言えば、仲間割れして殺し合い。最後にゃ全員脳を焼いてやったさ」


 今や研究者たちの「亡霊」らは、物言わぬ『あの方』の演算ユニットとして世界中のネット監視をしている。

 他にもスキャン時に自我が維持できなかった者達も、同じく演算ユニットとして、己たちを犠牲にした世界への復讐を行っていた。


「ボク、用済みのミハイルを殺す様に遊んでみたんだけど、『使い魔』は簡単にやられちゃったんだ」


「坊や、いや《王子》。わたくし達に相談も無しに勝手に動いてはダメよ? でもミーシャが無事なら、まあいいわ。あの子には、まだまだ生きてもらわないとダメだもの。さて、現在の世界への関与はどうなっていますか?」


「俺は担当のアメリカで色々やってみているが、大規模な行動は難しいな。すぐに銃撃戦にまでは追い込めるが、精々そこまで。とりあえず、米軍を自国防衛に足止めするのには成功してるぜ」


「ワシは中東とヨーロッパで遊んでいるのじゃが、宗教関係や移民問題を突くと、面白いように混乱を起こすな。幾つかの宗教テログループに出資しておるのじゃが、それなり以上の効果を残しておる。投資の方も、スイス銀行の一部を既に抱き込み済みじゃ!」


「ボクはアジアとロシアで遊んでいるけど、共産圏はネットが遅いから中々うまくいってないよ。それに血族に拘る昔ながらの犯罪組織が煩いから、一個ずつ乗っ取ってはいるんだ」


「皆さん、報告ありがとう。わたくしは日本で遊んでますが、今は布石を打っている段階です。多くの組織に『草』を忍ばせ、来るべき時の準備をしていますわ」


 少女、カーシャは皆の意見をまとめ、今後の方針を話す。


「これからですが、わたくし達がどのような存在なのかは既に『敵』に知られています。もちろん、わたし達『あの方』が何処にいるのかまでは掴まれていません様ですが」


「じゃあ、こっちから攻めるのはアリか?」


「下手に動けば足を探られるのじゃ? 迂闊に動くのは危険じゃぞ?」


「ボクらの場所が絶対に分からないか、襲えない場所に移動してからじゃ良いんじゃない?」


 その後も、多くの意見が暗闇の中で飛び交う。


「それでは、それなりに意見も出ましたので、集約かつ精査をしたのちに、新たな方針として行動を決めましょう。では、皆様。わたくし達を虐げ苦しめた世界への復讐の為に頑張りましょう!」


「我らをこんなところに追いやった世界に復讐を!」

「ママをボクから奪った世界に復讐を!」

「ワシらと同じ存在を生ませないために、世界に復讐を!」


 カーチャの宣言で男や少年、老人らが復讐を誓う。


 うぉぉぉぉん


 そして暗闇の中で、無数の声なき声な怨嗟がこだました。

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