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第3話(累計 第102話) 僕らは再び立ち上がる! そしてミハイルを襲う敵。

 夕食後、あまり食欲も無かったアーシャちゃんは風呂も入らずに寝室に籠った。

 ミハイルの語ったおぞましい事実。

 そして友人だったカーシャ、エカチェリーナが殺されただけでなく、その骸を悪用されて『あの方』の一部になってしまった事がショックだったのだろう。


 僕はアーシャちゃんの部屋の前で声を掛けようかと思った。

 が、何を言って良いのか分からず、一声だけ掛けて去った。


「アーシャちゃん。僕は絶対にキミと一緒だからね」


 風呂から出た後、僕は父さんや母さんから話しかけられた。


「マモル、お前はどうしたい? このままアリサちゃんを泣かせたままか?」

「どう、マモル。アリサちゃんを幸せにするんでしょ?」


 一瞬考えた後、僕は答える。


「父さん、母さん! 僕はアーシャちゃんの笑顔を守りたい。その為に、『あの方』を倒して中に居る彼らを呪詛から解放したいんだ。それが世界を救う事やアーシャちゃんの笑顔につながると思うし」


「分かった。なら、ここから大変だろうけど頑張ろうな、マモル」

「よく言ったわ、我が息子。さあ、わたしも色々動くわよ」


「うん、父さん。ありがとう、母さん」


 僕は、優しい笑顔の両親に微笑み返した。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「おはよう、マモルくん」

「うん、おはよ。アーシャちゃん」


 翌朝、僕たちは朝の挨拶をした。

 いつもより血色が無く真っ白なアーシャちゃん。


 悲しそうな、けれど精一杯の笑顔で僕に微笑んでくれる。

 その痛々しい笑顔を見て、僕は行動を開始することに決めた。


「おねーちゃん、おはよー」

「ミワちゃん、おはよう」


 朝の食卓に二人で向かうと両親や(ミワ)も既に座っていた。

 アーシャちゃんの悲しみを知ってても元気に挨拶するミワ。

 彼女なりに大好きなお姉ちゃんの事を気遣っての事だろう。


「皆、揃ったわね。じゃあ、頂きます」

「いただきまーす!」

「頂きます」


 母さんの掛け声で朝食を開始する。

 冬の朝、温かいご飯とみそ汁、卵焼きや納豆に焼き鮭。

 暖かくて美味しい朝食が身に染みる。


「父さん、お願いがあるんだけど良い?」


「ああ、いいぞ? なんだい、マモル」


 父さんに声を掛けると、皆の視線が僕に集まる。


「僕、アーシャちゃんを笑顔にしたいんだ。だから、行動の許可をくれない?」


「……マモルくん!」


 アーシャちゃんは両腕で顔を覆い、嬉しそうな声を出した。


「ああ、許可する。やってみろ!」


「ありがとう、父さん。いや、係長! もう一度、ミハイルに話を聞いてみたいんだ、僕」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「なんだい、マモル? 今日はアーシャちゃんはいないのかい?」


「ごめんね。アーシャちゃんは別用なんだ、ミハイル」


 いつもとは違うペースでボク(ミハイル)に会いに来てくれたマモルとユウマとあと一人。

 アーシャちゃんが来ていないのは残念だが、ちょうどユウマから借りた本を全部読んだから、タイミング的には良い。


「しょうがないね。あ、ユウマ。この間の作品、凄いな。どうして日本の女性が戦場の空気を描けるんだい? 」


「良かったでござろう、ミハイル殿? 他でも面白い作品は多いでござるよ」


 今まで、ボクはフィクションなんて夢物語と馬鹿にしていた。

 厳しい現実、戦場で沢山の死を見てきたボクにとっては、物語なんて甘い妄想にすぎないとも思っていた。


 マモルに負けて捕縛されたボク。

 牢屋にでも送られて暴力による尋問を受けるのかと思ったが、優しく問いかけがなされるだけ。

 通信機器の所持や建物から出る自由は無いものの、快適な生活。


 拍子抜けしたボクは暇を持て余し、ユウマが差し入れてくれていた漫画本を半分バカにして読んだ。

 が、圧倒的な世界を描いていたのに驚き、すっかりハマってしまった。


 ……日本の漫画、ラノベやアニメ。どうしてこんな物を想像できるんだ? ボクの想像をすっかり超えているぞ? マモルやユウマが想像力の豊かさでボクに勝ったも、こんな物語に幼いころから触れていたからかな?


 ユウマ、こいつにボクは負けた。

 でも、負けて良かったとも今になれば思う。


 こんな素晴らしい物語を数多く生み出せる国、日本。

 なんと、普通の中高校生でも小説や漫画を作ってネット上に公開しているらしい。

 想像力の凄さでは、ボクは勝てる気がしない。


 ……日本を滅ぼさなくて良かったよ。もっと色んな作品を読んでみたいからね。日本語も勉強してて良かったな。


 日本語は、アーシャちゃんに対抗して覚えた。

 女の子でも、ボクに迫るくらい凄いアーシャちゃん。

 ボクは彼女に半分嫉妬しつつ、幼い美しさにも、優秀で凛々しい姿にもあこがれた。

 そして自分のモノにはならないと知り、奪う事も考えた。


 ……まー、マモルにならアーシャちゃんを任せられるか。何せ、このボクを倒した上に御立派に説教こくんだからね。


 ボクとユウマがアクリルガラス越しに仲良く話しているのを、嬉しそうに見ているマモル。

 よく見れば、いつも引率してくる大人の男性はマモルにどこか似ている。

 多分、彼がマモルの父親なのだろう。

 ボクが入手したマモルの個人情報には、彼の父親は警察官とあった。


 ……父親かぁ。ボクには縁がない存在だね。でも、優しそうにマモルを見る眼は少し羨ましいかな?


「あれ? 刑務官の方、いつもの方はどうしましたか?」


 そんな時、ボクの背後にそっと近づこうとした刑務官の動きをマモルが制した。


 ……全く、マモルには油断ならないなぁ。コイツ、怪しいからワザと泳がせていたんだけどね。でも、マモルは十分強いし、お人好しで絶対に自分から裏切らないだろう。だから今は彼と仲良くするのは考えておこうか。


「マモル、タイミングよすぎ。ボク、コイツ怪しいから泳がせていたんだ。多分、『あの方』に踊らされた末端。さては、ボクを君たちの目の前で暗殺して、力を鼓舞したいのかな?」


 ボクは、ゆっくりと後ろを振り向く。

 そこには、冬なのにびっしりと冷や汗を浮かべた男が居た。


「あれ? 後ろ手に持っているのは何かな? さては毒入りの注射?」


 ボクは、言葉で男の行動を制する。

 男はビクンと動きが止まり、更に大汗を流しだした。


 マモルのやり方に習ったのだが、人は行動する前にその動きを言い当てられると動揺して動きが止まる。


 ……これ、ボクもマモルにやられて困ったんだよねぇ。これは便利だから、使いこなしてみよう。


「ち、ちくしょー!」


 破れかぶれになって僕に飛び掛かる男。

 ボクはひらりと攻撃をかわし、男と位置を変える。


「あ、『あの方』はな! オマエを殺せば、お、俺に五十万ドルくれるっと言ってくれた。そうすれば、競馬で作った借金や住宅ローンが全部支払える。逃げた女房や子供も俺の元に帰ってくるんだ―!」


「あーあ。コイツも『あの方』に踊らされたんだね。ボクも何人か躍らせたけど、敵としてみたら情けない奴だなぁ」


 面会室を二つに分ける分厚いアクリルガラスに背中を付け、死角を減らす男。

 その背中の向こうでは、ボクを心配してか大騒ぎをしているユウマ。

 電話を何処かに掛けている男性が見える。


 ……あれ? マモルは?


「ち、ちくしょぉ、すばっしこい奴めぇ、死……! ぐ、ぐはぁぁぁ!」


 目が血走っていて正気を失いつつある男。

 彼がヤケになって手に持った注射器を振り上げた時、ドンという衝撃、いや振動が部屋全体を襲った。

 そして振動が収まった後。

 ボクを襲おうとしていた男はいきなり奇声を上げたかと思うと、胃液を吐き白目を向いて崩れ落ちた。


「ふぅぅ。壁ごしに『浸透勁」を撃つのは初めてだったけど、上手くいって良かった。ミハイルくん、大丈夫?」


 男が倒れた向こう側。

 そこには、アクリルガラスに掌底を押し付けたマモルが居た。


「ああ、大丈夫。マモル。君はつくづくチートだね。助けてくれてありがと」


 ボクは、あまりのチート具合に飽きれながらも、素直にマモルに感謝の言葉を伝えた。

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