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第2話(累計 第101話) ミハイルが語る闇。僕らはひどく恐怖した。

「なんでも生物の脳を参考にして超AIを作るって計画が……」


 僕、アーシャちゃん、ユウマくん、父さんは都内某所に収監されているミハイルに面会に来ている。

 そこでミハイルが話し出した過去の事、それは鬼畜な所業であった。


「やはりでござったか。(それがし)も、そのような手法がある事は論文を読んでいて知ってはいたでござるよ。ボトムアップ型AIの手法でござるな」


「読ませてもらったVRMMOのラノベでもそういう話あったよね。そうそう、それさ」


 人工知性、AIは今なお開発中。

 インターネットで情報を収集し絵画や文章を返すものは既に存在しているが、これにも成長限界がある。


「今主流の情報を学ばせるトップダウン型AIでは、結局情報の無限ループが始まって成長限界があるでござる。だが、一から生物脳を模した形で成長させていくボトムアップ型には限界はないとも言われてるでござるな」


 ……確か、あの作品じゃ脳内光子の揺らめきをコピーしたんだったっけ?


「日本のフィクションにネタバレされちゃうんだから、凄いよね。ロシアももう少しエンタメに力入れた方が良いかな? パワードスーツにしたって日本の漫画がアイデア元っていうし」


「それには同意でござるな、ミハイル殿。さて、で、その研究。動物実験だけで終わったでござるか?」


 仲良くオタク会話をするミハイルとユウマくん。

 ミハイルと僕ら。

 何処かで出会いが違っていたら、仲良くなれたのだろうか?


 ……今からでも遅くないか。ミハイルにはちゃんと罪を償ってもらって、僕らと友達になって欲しいしね。


 僕は、ミハイルとユウマくんの会話を嬉しそうに見ているアーシャちゃんの横顔を見て微笑んだ。

 が、ミハイルの次の言葉で笑顔は吹き飛んだ。


「……ユウマなら分かっているか。ああ、人体実験も数十回は行われたらしい。もちろん、その頃のボクは本当に子供。後から知って、あんな組織壊れて良かったと思ったものさ。もし一つ間違っていたら。そう、今回もバベルの塔で自殺してたら、ボクも『あの方』の一部になっていたのかもしれないね」


「え……。じゃあ、カーシャちゃんが『あの方』の中に居るのは?」


「そう、アーシャちゃん。おそらくだけど遺体の頭部を高エネルギー下での三次元電磁スキャンしたんだと思う」


 ロシアの秘密機関が行っていたボトムアップ型AI製造方法。

 それは脳構造を高エネルギー電磁スキャンして、人工細胞体、ナノマシーンの集合体としてコピーを作る。


「最初は小動物、マウスやモルモット辺りから始まり、犬、猫、類人猿とコピー実験をしていたんだって。その後は新鮮なご遺体、刑死した遺体の頭脳をスキャンしていたそうだね」


「おぞましい研究でござるな。脳構造を利用するのに生の脳を生かしたまま機械に繋ぐのは、まだ不可能でござる。何せ脳へのインプラントですらも研究中でござるし。なればと脳内部構造を詳細に三次元スキャンしたうえで腐らないナノマシーンで再現。理屈に合うではござるが、外道の極みでござるな」


 真っ青な顔のアーシャちゃん。

 大事な友達が射殺されただけでなく、ご遺体すらもおぞましい実験の材料として弄ばれたのであれば、心も平穏ではいられないだろう。


「そうだよねー。最後の方だと、生きている人間もスキャンされたって話。麻酔も無しに脳みそを電子レンジでチンだもん。たまったもんじゃないさ」


「非道にも限界があるでござるな。となると、ミハイル殿は最初からある程度は『あの方』の正体に心当たりがあったでござるな?」


「うん。最初、僕に直接接触してきたのは死んだ筈のカーシャちゃんだったし」


 ロシアンマフィアの管理する美少年慰安娼館。

 そこで男娼として生きていたミハイル。

 彼が娼館から救い出されたのは、『あの方』によって送られた警察部隊によって。

 ロシア内での裏金を集めていた『あの方』は、邪魔なロシアンマフィア解体に動き、当局とも手を組んでいたそうだ。


「娼館から助け出されたボクはまだ子供だったから、養護施設に送られたんだけどね。そこにあったPCから接触してきたのが、カーシャちゃんだったんだ」


 PC越しながら、死んだはずの幼馴染が接触してきたのに驚いたミハイル。

 話をしていく内に本人たちで無いと知らない筈のことを語り、共通の友人であるアーシャちゃんの話題に盛り上がった二人。

 そこで、カーシャは悪魔な囁きを告げた。


「ミーシャ、貴方は世界に復讐してみない? こんな汚れた世界を、わたし達で変えて見ないかしら?」


 そしてミハイルは施設を飛び出し、『あの方』の騎士になった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「アーシャちゃん、大丈夫?」


「……マモルくん、どうしよう……」


 アーシャちゃんは目の前に注がれたコーヒーを飲もうともせずに、コップの中の水面に涙をこぼしながら灰蒼の瞳でじっと見ている。

 ミハイルとの面会終了後、施設内の休憩室で僕らは途方に暮れていた。


「ボクも完全に『あの方』の正体。どれだけの能力があるのか。一体何人の頭脳をコピーして出来たかは知らないんだ。また、本体がどこにあるのかも知らない。まだロシア国内にあるのか。それとも海外に移設されたのかもね」


 ミハイルが話した『あの方』の正体。

 それは多くの人々の頭脳をコピーしたボトムアップ型AIの集合体。

 苦しみと痛みから呪詛を吐く数多(あまた)の亡霊たちの集合体。


「某が予想していたのとほぼ同じ、いや更に最悪な存在でござった。実験と称して生きたまま電子レンジに脳を焼かれる。死亡して後の安らかな眠りから、死ぬことも出来ない『生き地獄』に引き戻される。実におぞましい悪魔の所業でござるよ」


「ユウマくん。『あの方』も可哀そうな存在なんだね。でも、このままじゃ『あの方』は世界を壊しかねないよ」


 クリスマス前に行われた「ネオバビロンシティ」でのテロ。

 あの後、世界中で小規模ながら『あの方』に触発されたテロが多発。

 そのうち、何件かは『あの方』と繋がった組織が行ったと考えられ、世界中に恐怖を拡散した。


「そうでござるな。自分たちが受けた理不尽な仕打ちや不幸を他者にも擦り付けよう。呪詛をまき散らそうという気でござろう。おそらく、彼らが恨むべき存在は既に存在していないでござろうに」


 その後、僕らは何ひとつ話せずに帰路に着いた。

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