第1話(累計 第100話) 今日も僕はアーシャちゃんと共に歩む。
「ふぅ。今日も寒いね、アーシャちゃん」
「そう? ロシアに比べたら、日本の冬はそんなに寒くないわよ?」
一月の小雪舞う東京の空。
僕とアーシャちゃんは、デートを楽しむ。
白系のもこもこなセーターと真紅のジャケットとスカート、黒のタイツで身を包み、実に可愛いアーシャちゃん。
僕の目の前でクルンクルンしながら楽しそうにし歩いているのを見て、僕も笑みがこぼれてしまう。
「お二人の時間、実に良いのでござる。だが、某と係長殿も一緒なのを忘れてはおらぬか?」
「あ、ごめんねー。ユウマくん、父さん」
前言撤回、今日は四人で都内某所を歩く。
とある場所、「とある」人物へ面会に行くからだ。
……今日、リナさんはお留守番。二学期末の試験成績があまり良くなかったのでお母さん&宗方 真雪先生の監視の元、事務所でお勉強中なんだ。
「ユウマには少々悪いが、お前たちの気晴らしも兼ねているのは確かだしな」
「係長殿。それは酷いでござる。まあ、某もアリサ殿が笑っているのを見るのは嬉しいでござるがな」
「ネオバビロンシティ」での死闘。
あの事件は世界を大きく揺るがした。
たった「一人」の扇動者が言葉巧みに同志を纏め、世界有数の都市、東京を一時的とはいえ制圧したのだから。
「ごめんね、ユウマくん。でもね、わたし。今はとっても幸せなの。隣にマモルくんがいつもいてくれるし、お義父様、お義母様、ミワちゃんと一緒に暮らせてるの。それにユウマくんやリナちゃんともお友達になれたし」
「マモル殿。アリサ殿の笑顔を今後とも守るでござるよ。某も共に戦うでござるし」
「うん、そうだね。アーシャちゃん、足元気を付けてね」
僕は尚もクルンクルンしながら歩くアーシャちゃんを見ながら、微笑んだ。
……この幸せ、絶対に守りますね。亜澄先生!
僕は、天国の先生に思いを誓った。
◆ ◇ ◆ ◇
「で、今日は何かい? 毎週、来てくれているのは嬉しいけどね、アーシャちゃん。他の邪魔者を連れてこなきゃ最高なんだけど」
「ミハイル、まだ口が減らないのかい? 絶対、おまえの性根を叩き直すんだから覚悟してるんだね」
極厚のアクリルガラス越し、僕ら四人は銀髪碧眼の美少年と対峙している。
彼の名前は、ミハイル・アントノーヴィチ・カミンスキー。
アーシャちゃんと同じ養護施設育ちで高レベル工作員。
そして『あの方』の配下でありパワードスーツ乗りな騎士だった。
「ふん! マモル、今はアーシャちゃんを守る役目を譲ってあげるけど、何時かボクが取り返してやるからね」
「へぇ。僕に完璧に負けたから、僕の実力は認めているんだね。オマエには絶対にアーシャちゃんを譲らないからな、ミハイル!」
「もう、二人ともわたしを巡って毎回ケンカするのは止めてよね」
ミハイルも僕もアーシャちゃんを巡る恋敵。
お互い殺し合いをした敵でもある。
……と言っても、こいつもケンカ相手が欲しいくらいに寂しかったんだなぁってのは最近分かって来たよ。
僕と言いあうのだが、その時ミハイルの目は笑っている。
戦闘の際に見せていた、何処か達観して人生に飽きていた目ではない。
「はいはい、アーシャちゃん。で、今日は何の話かい? ボクも暇じゃないんだけど?」
「そうかなぁ。毎日、差し入れのラノベや漫画を読んでるって聞いてるけど? 今日は僕やアーシャちゃんからじゃないんだ。ユウマくん、後は頼むね」
僕とアーシャちゃんは父さんを保護者として、毎週ミハイルと面会をしている。
「ニューバビロンシティ」事件の主犯であるミハイル。
しかし、彼は『あの方』の指示通りに戦った兵士の一人でもあり、僕達と同年齢の未成年。
戦争犯罪者、テロリストというより少年犯罪を犯した可哀そうな少年として扱われる形。
刑事罰よりも保護の意味もあって、都内某所にある警察秘密施設に収監されている。
……特殊な薬物投与なんかもされていたから、俗にいう医療少年院に保護されるのもアリなんだけど。『あの方』がどう動くか分からないから、ネットから完全に遮断された特別施設にいるんだ。
「そうかい、マモル。まあ、良いや。ボクが負けたと思う相手はマモルだけじゃない。ユウマ、キミにもボクは完全に負けた。だから、今日は何でも答えてあげるよ?」
「それはありがたいでござる。そうそう、差し入れは他にも必要でござるか? 漫画でも趣味に合いそうなのは幾作品か抑えているでござる」
ミハイルへの差し入れ書籍は、ユウマくんの趣味。
案外とお気に入りになったのか、毎回新刊をアーシャちゃんに頼むミハイルが随分と可愛い。
「そ、それはまた後でリストを送るよ。で、何を聞きたい、ユウマ? やっぱり『あの方』の正体かな?」
「そうでござるが、別の方向から聞くでござる。ロシア時代。ミハイル殿やアリサ殿がいた組織は、人工知能に関する研究は行っていなかったでござるか?」
顔を赤くしながらも、ぶっきらぼうにユウマくんに話しかけるミハイル。
幼げな表情を見て、ミハイルもかつてのアーシャちゃん同様に平和な日常を知らなかった子だったのだと僕は思った。
「えっとねぇ。ああ、確かにそういう計画はあったみたいだよ。なんでも生物の脳を参考にして超AIを作るって計画が……」
その後、ミハイルから聞いた話は、とてもおぞましい計画。
人が行う所業とも思えないものだった。




