第1話 僕の平凡な日常は、突如変貌する。
深夜の学校。
忘れ物を取りに来た僕は、現実と思えない場面に出くわしていた。
弾痕の残る窓や壁。
うめき声を出しながら床に倒れ伏す男達。
そして……。
「貴方、わたしの事を見たのね」
腰を抜かしていた僕の視線の先には、拳銃の銃口が突きつけられている。
そして、その拳銃を握っているのは、クラスで僕の左隣の席に座っている女の子。
満月の月明かりが校舎を照らす中。
ポニーテールにした上質な絹と同じくらい艶やかな長い黒髪は夜空の様。
そして、制服のひざ丈チェック地スカートから、しなやかに伸びる雪花石膏のような純白な肌の足が微かな光を反射して、まるで自ら輝いているかのように見える。
彼女は愛らしい顔を真剣な表情にして、蒼く鋭い視線で僕を貫いた。
「もう一度聞くわね、植杉くん。貴方、わたしが銃を撃つところを見てしまったのね?」
まるで月の妖精かと思えるように、幻想的な雰囲気を醸し出す飛び切りの美少女。
詰問口調で僕に問いただす彼女に、僕は恐怖を感じつつも別の感情が湧きあがり、思わず呟いた。
「うん……。柊さん、とっても綺麗だよ」
この夜。
【柊 愛理紗】から拳銃を突き付けられた時から、平凡だった高校一年生の僕、【植杉 護】の人生は大きく変わった。
◆ ◇ ◆ ◇
小鳥のさえずりさえ聞こえる、早朝6時半。
築五年の建売住宅、そのLDKを春の朝日が優しく照らしている。
平安時代、早朝の朝霞を見て「春はあけぼの」と清少納言が優雅に歌ったそうだ
が、入試試験も終わった高校一年の僕には、あまり関係ない。
登校前の慌ただしい時間だ。
……環境が大きく変わるから、緊張であまり眠れなかったのもあるんだけどね。
「ふわぁぁ。おはよぉ」
「マモル、早く準備しないと遅れちゃうわよ? 今日は入学式でしょ。わたしは、後から見に行きますからね」
「おにーちゃん、早く早くぅ」
「分かったよ、母さん。【美羽】」
早起きな妹、ミワは既にテーブルに座っていて、既にトーストに齧り付いている。
母はキッチンで僕の朝ごはんを準備、父はタブレットでニュースを確認している。
「パパ、ご飯中にテレビはダメって言ったでしょ?」
「ママ、これはタブレットだけど?」
「おとーさん。それ屁理屈だよ? おにーちゃんは早く顔洗ってからご飯たべよーよ?」
朝シャンも出来る洗面台。
そこの鏡に童顔の少年、僕の顔が映る
まだ眠気が取れない僕は洗面所の蛇口を捻り、冷たい水道水で顔を洗った。
朝の日常。
これが僕の家族だ。
警察官である父、パートタイマーの母、小学生の妹。
そして僕の四人家族。
日本の何処にでも居そうな普通の家族。
「いただきます。父さん、今日は非番だったっけ?」
「いや、遅番だな。別件があって入学式には行けないからごめん。マモル、もう大丈夫なのかい?」
「無理はしなくても良いのよ?」
「ありがとう。父さん、母さん。僕、もう大丈夫だよ。高校には、もうアイツラは居ないしね。それに進学校でイジメやる馬鹿はいないでしょ?」
心配そうに顔を覗き込んできた両親に、僕は笑みと共に大丈夫と答える。
……爺ちゃんの道場で随分と鍛えたんだもん、僕。もう、いじめっ子なんて怖くないよ。
「それならいいわ。あ、そろそろ行かなきゃ電車の時間よ?」
「うん、母さん。それじゃ、行ってきます!」
「おにーちゃん、がんばってねー!」
僕は両親と妹に挨拶をして、玄関を出た。
……さあ、僕の高校生生活の始まりだ!
新しい学校、新しい学友。
僕はワクワクしながら、ひとまず駅に向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
満員電車に揺られて数分、僕は学校の最寄り駅で下車した。
そして自動改札を抜けようとしたとき、ハッとした。
「か、可愛い子だなぁ」
改札口では、一人の女の子が苦戦していた。
駅員さんも来て対応しているのだけれども、その子が通ろうとすると何故か改札機がエラーを起こして通れない。
「おかしいですねぇ。乗車券アプリには残金がありますし、端末も反応はしているのに、貴方が通ろうとするとエラーを起こすなんて」
「……ご、ごめんなさい。わたくし、時々何もしないのに機械が壊れる事があるんですぅ」
後頭部に付けたリボン付きバレッタで綺麗な黒髪を纏めたロングヘア―の少女。
彼女は、僕と同じ高校の制服、濃紺ベースのブレザーを着ている。
制服は真新しく、サイズも微妙に彼女よりも大きい。
……同じ学年の子かな? 少し身長が小さめだけど、とっても綺麗な子。
困り顔で駅員さんにペコペコと謝る彼女。
高級絹糸のような、さらりと美しい黒髪。
はっきりとしつつも、何処かあどけなさの残る愛らしい顔立ち。
長いまつ毛と二重瞼の下にある大きくて瑞々しい瞳。
恥ずかしさから桃色に染まった白磁の頬。
可愛い唇も桃色に潤う。
しなやかな四肢は真っ白。
ひざ丈チェック地の制服スカートから出ている生足は、眩しく光を跳ね返す。
忙しそうに通り過ぎる人達、老若男女問わず彼女に視線を送る。
生命力で満ち溢れ、全身が輝くような美少女。
まるでお嬢様系アイドルみたいな子、それが彼女に対する僕の第一印象だった。
「あの? 僕が試してみましょうか?」
何回やっても、違う改札機を使っても通れない美少女。
困っている彼女を見かねて、僕はつい声を掛けてしまった。
「はい? 貴方様は?」
小首をかしげながら幼げな表情で僕の方を見る彼女。
その可憐さに、僕は一瞬ドキっとした。
「た、只の通りすがりです。駅員さん、僕が代わりに試してみてもいいですよね?」
「え、ええ。宜しければ」
僕は、まず彼女が通れない改札機に自分のスマホをタッチする。
もちろんパカリとゲートは開き、僕は何の問題も無く通過した。
「はい、貸して!」
「え、は、はい」
僕は彼女が持っているスマホを、改札越しに彼女から借りる。
僕は、彼女のスマホを改札機にタッチした。
すると、パカンと開く改札。
無事、彼女は改札を通過できた。
「あ、ありがとうございました」
「い、いえ。困った時はお互い様ですからね。じ、じゃあ……」
僕は、彼女の花開くような満面の笑みにハートを撃ちぬかれた気がした。
そして柄にもない事をしてしまった恥ずかしさから、彼女が引き留めるにも関わらず、スマホを彼女に返した後は逃げるように足早に学校へと向かった。
今回は青春・ガンアクション・ラブコメを描いてみました。
マモルくんとアリサちゃんのボーイ・ミーツ・ガールをどうぞ!
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