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インキュバス「リオ」との出会い

控室につくなり、チャロはぶつくさと文句を言い始めた。

「まったく、本当にエルフって偉そうで嫌になるよ!だいたい、あいつら力もないくせに調子乗りすぎなんだよな、それに……」

そう言いながらもプリプリと怒るチャロに、セドナは苦笑しながら相槌を打つ。

「けど、これから弓士団に入るんだからさ、少しは相手に合わせないと、な?」

「まあ、そうだけどさ……」

「なんなら、チャロだけ受験やめるか?」

「え?……それは嫌!」

長く美しい黒髪をぶんぶん振り回しながら、チャロは首を振った。

「だって、あんなエルフたちに囲まれてたらすぐキミは誘惑されちゃうでしょ?」

「おい、いくら何でもそれはないって……」

「忘れたの?私の幼馴染のこと?」

「え?……ああ、あの話か……」



セドナは、数か月前にチャロから聞いた話を思い出した。

幼馴染の青年がエルフから結婚詐欺に遭い、大金を奪われた上に地方の鉱山に売り飛ばされたという噂が一時スラム街に流れたことがある。

むろん、噂の真相は不明だが、その日以降その幼馴染を見たことはない。



「分かった分かった。じゃあ、一緒に受かろうな?」

「うん!」

乱れた髪を手櫛でかきあげながら、チャロは周りを見渡した。

「……にしても、思ったより数が少ないね」

「……確かに、そうだな。後試験が始まるまで10分ほどだったよな……」

チャロの言う通り、試験会場には20人ほどしか来ていない。

試験場に来ている大部分は人間をはじめとした少数種族であり、エルフは全体の3割程度だ。

「エルフの弓士団試験は毎年、何千人も応募が来るって聞いたのに、なんでだろうな……」

「あのクソな受付嬢に腹立てて帰っちゃったんじゃないの?」

まだ、怒りが覚めていないのか、吐き捨てるようにチャロは答えた。

「それもあるかもしれないけどさ、会場から出てくる人もそんなに多くなかっただろ?」

「確かに、そうね。じゃあ、受験者数がもともと少なかったってことかな?」


「そりゃ、あの『首狩り姫』の募集って言ったら、誰だって怪しむだろ?」

そこに横から、一人の青年が現れた。

「誰、キミは?」

青年はさわやかな容姿に、美しい金髪をしていた。ただ、その服装は場違いなほど華美で、機能性は極めて低い。

最も服装については、チャロもフリルを大量に縫い付けた黒のロングスカートに大きなヘッドセットを身に着けているため、似たようなものなのだが。

「ああ、俺はリオってんだ。種族はインキュバス」

「インキュバス……」

その種族名を聞くなり、チャロはセドナの後ろに隠れた。

「おいおい、失礼な奴だな……。まあ慣れてるからいいさ。ところであんたたちは?」

「私はチャロ。種族は人間。で、こっちはセドナ。言っとくけど、私は超強いからね?」

けん制するように、チャロはシュッシュとパンチを繰り出した。

「そりゃ、人間に力では勝てるとは思ってねえよ」

警戒を強めるチャロとは裏腹に、リオは興味なさそうに軽く笑みを浮かべた。

「にしても、あんたたちは『首狩り姫』の募集って聞いてなにも思わなかったのか?」

「『首狩り姫』って……この国の王女『ルチル』様のことか?」

「ああ、あのお姫様、何かあるとすぐに罪人を処刑するだろ?しかも処刑するのは人間や俺たち夢魔ばっかりって来たもんだ」

「確かにな……」

セドナ達はここ最近、エルフたちが処刑場に向かうのをよく目にしていた。

そして、様々な罪状で処刑される姿を見て、エルフたちは同情の目や、罪人への怒りの目を向けていたのを何度も目の当たりにしていた。

「しかも最近、特に処刑する回数が増えてきただろ?もう、刑務所に死刑囚なんていねえんじゃねえかってくらいにさ」

「……ああ」

セドナも何度か処刑を止めようと試みたが、そのたびにチャロに制止されていた。

言うまでもなく、そんなことをすれば次の処刑台に乗るのはセドナになるからだ。

「そんなイカれたお姫様のところに受験する奴なんて、よそから来た奴か、よほど食い詰めたやつか、あるいは……」

「あるいは?」

「スパイくらいだと思うぜ?」

少しだけ声色を落として、リオはつぶやくように言った。

「まあ、疑う気持ちは分かるけどさ。そうやって人を先入観で判断するのは良くないんじゃないか?」

「はあ?」

セドナの能天気にもとれる発言に、リオは素っ頓狂な声を上げた。

「確かにお姫様のやり方は良くないけどさ。罪を犯してないものをいきなり処刑するって言うのは、いくら何でもないと思わないか?」

「まあ、そうだけどよ……」

「もしかしたら誰かの突き上げで、やらされてるだけかもしれないだろ?だから、きっと弓士団に入って成果を上げたら、処刑なんかされないよ、きっと」

「うーん……」

「ごめんね、リオ。セドナって人を疑うこと知らないんだ。だから、こうやって私がついていないとダメなんだよ」

屈託なく話すセドナに少し呆れつつも惚気るように、チャロは答えた。

「まあ、いいさ。けど、あんたはルチル様のことは信じてるんだな」

「相手を信じるのは当たり前のことだろ?逆に聞くけど、あんたはどうなんだ?」

その質問に、リオは少し安堵したような表情で答える。

「……いや、俺も実は同意見なんだ。王女様はただのサディストじゃない。そう信じたいって思ってるよ」

「だろ? ……ま、そうは言うけど、一番の理由は食い詰めたってのが大きいんだけどな」

茶々を入れるセドナの発言に、リオは吹き出した。

「ハハハ、正直な奴だな。……おっと、そろそろ試験の時間だな。それじゃお互い頑張ろうな?」

そういうと、リオは隣の試験場に足を進めた。

「なんか、リオ?ってインキュバス……変な奴だったね?」

「そうか?普通にかっこいいし物知りだし、いいやつだったと思うけど?」

屈託なく笑みを浮かべるセドナを見て、チャロはまた少し呆れた様子を見せた。

「本当にキミってやつは……。まあいいや。けど……」

「けど?」

「インキュバスって同性のことを嫌うことが多いっていうけど、あんなのもいるんだね……」

「そ、そうなのか……。じゃ、俺は先に筆記試験を受けるから、それじゃあな」

そういうと、セドナはそそくさと控室を後にした。

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