気味が悪い
知り合いから聞いた話なんですけど、その人は仕事の関係で新しいマンションに引っ越したんですね。で、引っ越しの手続きも済んで新しい住まいにも慣れてきた日。
その人ふと散歩したくなったんですね。夜中だったんですが……なぜだか急に夜の街を歩きたくなった。暑い夏の夜だったこともあり、ぶらぶら涼みながら楽しい散歩をしようと思ったんですね。
それで、ぶらぶら散歩に出た。街の様子は静まり返っていた。まるで、自分以外誰もいないかのような静けさだったんですね。
そこで道をの真ん中に誰かしゃがみ込んでいる人を見たんですね。……これは……女性かな……しゃがみ込んでいる人がいたんですね。赤い服を着ていて、もう言ってしまえば明らかにおかしいんですよ。
こんな夜中に、女性が地面にしゃがみ込んで、なにやらブツブツ呟いている。これら明らかに異常だ。ひょっとしたら幽霊かもしれない。その人はそう思ったんですね。
その人は引き返すべきか、スルーして通り過ぎるべきか迷ったらしいんですけど、もうここは気づかないフリをして行こうと。幽霊は見えている人に着いてくるというのを小耳に挟んでたので、完全に気づかないフリをしてスルーしようと。
するとそのまぁ幽霊ですかね。幽霊からパチ……パチ……と小枝を踏んだときのような音がするんですよ。その男性は気づかないフリをしてそばを通ったんですけど、そばを通る際その女性の幽霊がガバッ! っとその男の人の方を見て
「気味が悪い」と言ったんですね。
そしてポタ……ポタ……となんだか水滴が落ちる時のような音も聞こえてくる。その男の人はなんとか恐怖を抑え込んで通り過ぎたんですね。
そしたらまたその幽霊が「もういーかーい」とこっちに向かって叫んだんですね。
僕は聞こえないフリをして、しばらくゆっくり歩いて、曲がり角を曲がった瞬間その男の人は猛ダッシュで走ったんですね。もう怖くて怖くて……猛ダッシュですよ。
でも、その男性は怖すぎて逆にテンションが上がったんですかね。
「気味が悪いのはお前だろ!」と半ば笑いながら走っていたそうです。もういいかいってなんだよって。それでもやっぱり怖いから家に帰る際には別の道を使って帰ったそうです。
そして家に帰って急いで鍵をしめて、暗いと怖いのでトイレもお風呂も全部の部屋に電気をつけてベッドに転がり込んだそうです。耳にはヘッドホンで好きな音楽をかけて、変な音はなにも聞こえないようにしてたんですね。
すると……異常に暑いんですよ。クーラーをつけているハズなのに、異常に暑い。クーラーの設定温度を確かめても26℃。涼しいハズなんですけどね。その男の人は部屋中確認してみたんですけど、特に異常はない。
でも、異常に熱いんですね。で、その熱さはどうやら玄関のドアの方からムワッっと来てるらしいんですよ。
その男の人はヘッドホンを外した。するとドアの向こうから変な音が聞こえるんです。ガリガリガリガリ……ガリガリガリガリ……なにか引きずるような音。それが聞こえてくる。
それで、ドアの隙間から黒い煙が少しずつふわぁーって部屋の中に入って来たんですね。
うわぁ! ってその人思ったそうなんですよ。これひょっとしたら火事なんじゃないか! 玄関の外で火事が起こってるんじゃないか! って思ったんですよ。それで恐る恐るドアの除き穴から外を見てみると、誰もいない。なにも異常なことは起こってなかったんですね。
で、その人は本当は怖かったんですが、なにが起こってるのか確かめようと、ドアをゆっくりと開けたんですね。ゆっくり、ゆっくり……その男性は意を決してガバッ! っと玄関のドアを開けた。
するとそこには誰もいない。火事も起こってないんですね。気づくと部屋の中の熱さもいつの間にか消えていた。でその男の人も気味が悪くなって朝までベッドで震えていたそうです。
その日を境に異常な現象が起こるようになったそうなんですね。ピシッ! ピシッ! っとラップ音が鳴ったり、テレビを見ててもチャンネルが勝手に消えたり。
で、その男の人はなんとかしようと思ったんですね。あの夜に出会ったしゃがみ込んでいた女性は一体だれなのか。それを調べてハッキリさせようと。人間なのか幽霊なのか。
それでその人は近所の色んな人に聞いて回ったそうなんですね。雑談しながら自分のあの日起こった体験を話したり、あの女性が誰なのか確かめようとしたんですね。
そこで近所の奥様の話したときのことなんですが……その男の人が自分の身に起こった心霊現象を話したんですよ。
ある日道の真ん中に赤い服を着た女性がしゃがみ込んでいたと。その人から「気味が悪い」と言われたと。そこからガリガリガリと擦るような変な音がしたり、異常現象が起こるようになったと。
そしたら、その近所の女性なんですがその話を聞いて急に泣き始めたんですよ。男性が驚いて慰めるとその女性があの道路でなにがあったか教えてくれたんですよ。
あそこで昔バイクの事故があった。未成年の二人乗りのバイクが転倒して、幸い死者はいなかった。だけど、後ろに乗っていた女性が大怪我をした。
まだ14くらいの男が、まだ無免許だったんですが
「バイクの後ろに乗せやるよ」と女の子にそう言ったらしいんです。女の子は嫌がったんですが、男の子は、いいからいいからって感じで、ほぼ無理矢理にバイクの後部座席に乗せたんですね。
男の子の方はカッコつけたかったんでしょうね。なんせその怪我をした女の子は地元でかなり美人だと有名でしたから。それでこれが一番まずいんですが、二人ともヘルメットをしてなかった。もちろん無免許です。
最初は二人は楽しく夜の街を走っていた。でも途中で男の子が格好いいところを見せようと思ったのか急にスピードを出し始めたんです。
女の子は驚いて「もっとゆっくり走って!」って言ったそうなんですが、男の子はまったく気にしなかった。それで急カーブを曲がりきれずにガリガリガリガリ……
女の子はノーヘルだったこともあり、顔面から地面に打ち付けられて、まるでリンゴをすりおろすように、地面にゴリゴリゴリゴリ! とアスファルトに顔面をすりおろされたんですね。
男の子の方は無事だったんですが、その女の子の怪我を見て、男の子は驚いて逃げたんですよ。救急車も呼ばずに。事故を起こした責任を取りたくなかったんでしょうね。
その場に一人取り残される女の子。近所の人が通りかかって救急車を呼んだんですが、顔面は赤く潰れていてグチャグチャで、血がポタポタの落ちていて、なんとか呼吸が出来るか出来ないかくらいの状態だったそうですよ。
アスファルトにはベターーっと顔面をすりおろした跡が赤い線のようにベッタリついていて、中々取れなかったそうですよ。
それでその女の子は入院しました。事故ということもあり警察が事情聴取に病室に来たんですね。顔面を包帯でぐるぐる巻にしてるような状態でその女性は事故についての事情聴取を受けました。
で、このバイクを運転してた男の子も酷いもんで、自分は知らないって言うんですよ。自分は運転してないって。で、任意保険にも自賠責にも入ってないから保険金も下りないだろうって。
そしたらその男性警官が言うんですよ。
「君が悪い」って。お前が悪いって言うんですよ。その女の子に。大怪我をしたのに。
バイクの後部座席に乗ったのは君だ。断るべきだった。そもそもヘルメット無しに乗るのは駄目だ。と。無免許運転も駄目だし、怪我をして親に迷惑をかけるのも駄目だって言うんですよ。
怪我の責任が全部その子にあるかのような言い方で言うんですよ。で、その警官はこう言ったらしいです。
「親に謝りなさい」って。でその女の子は泣きながら自分の親に謝ったそうなんです。怪我してごめんなさい。家を出て夜遊びしてごめんなさいって。
でも、その女の子虐待されてたんですよ。親から殴られたり蹴られたり、子供のころからよく親が怒鳴る声が聞こえてたそうです。ネグレクトみたいな感じで、よく公園で一人で遊んでいたそうです。
「もういーかーい」
「もーいーよ」と言いながら一人で……
多分家に帰りたくなかったんでしょうね。それで中学生になったら不良仲間と夜遅くまで一緒に遊ぶことになって……
その子ショックを受けてね。「君が悪い」って言われたのが。その時思ったらしいんですよ。あぁ。誰も分かってくれないんだと。辛いときに誰も助けてくれないんだと。
そして思ったそうです。全部自分が悪いんだと。全部なにもかも。全部全部全部全部自分が悪いんだと。
そしてその子は家で引きこもるようになったそうなんです。でもある冬の日、その女の子は
「うわああああああああ!!!!」っと突然叫び出して自分の体と部屋に灯油を撒きだして、自分に火をつけたんです。
ボオオオオオオ!!! っと燃えさかる炎。両親がなんとか火を消そうとしたんですが、火の勢いは強く家は全焼したらしいです。女の子は苦しみながら亡くなったそうです。
で、そこまで言うとその近所の女性は泣き出したそうです。
「そうか。まだあそこにいるんだね。ゴメンね。助けてあげられなくって。可哀想にね。痛かったね。辛かったね」と言いながらその女性は泣き出しました。
それを聞いていた男の人は、もうこれは自分ではどうしようも出来ないと思い、引っ越しをして別のところに住むことにしました。
そしたら新しい住まいでは特に異常な現象は起きなかったそうです。
その男の人はその道はもう二度と通れないそうです。彼女はまだあの道でかくれんぼの相手を探してるのかもしれない。そう思うとやり切れない気持ちになるそうです。
その男性はその女の子のことを思い出しては成仏するように祈っているとのことです。
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