第九話 そんなの関係ねえ!
なんて日どころの騒ぎじゃねえな、一日に二回も空を舞うってどんな日だよ。
ってそろそろ向かいの森にフェードインっすよ。
「ファーーー!」
ドサァッ
勢いよく飛ばされた俺は、谷を飛び越え反対側の森の中に突入
華麗に着地! とはいかずに着弾の衝撃が体を襲・・・って来ない? 何かに引っかかった?
地面に叩きつけられることはなかったが、無事に着地ともいかず??? が、直ぐに俺の身体を襲っている一つの異変に気づいた。
「な、なんだよ、身動き出来ねぇぞ」
俺の上半身は何かに絡め取られまったく動かす事が出来なくなっていたのだ。
「落ち着け、落ち着いて状況を確認しろ」
慌てる心を宥めすかし、あえて言葉にすることで、自分の心に言い聞かせる。
頭にも何かが絡みついている様で首も少しだけしか動かない、それでもその少ない可動域と眼球の動きでもって周囲に目を配ると
「ん、糸か?」
どうやら木と木の間に糸が張られていて、その糸に引っかかったらしい。
「いよいっしょっとぉ! って駄目だな」
非常に強い糸だ。おもいっきり力を入れても全く切れない。
かなり細い糸なのだが丈夫な上に粘着性もあるようで、動く程に俺の身体をより複雑に絡め取っていく。
糸は木々の間を塞ぐ様に、幾重にも、縦横無尽に張り巡らされていた。
俺は前世の世界でもそれと同じ様な糸を見た事がある。もしもこの糸が、俺が今考えている糸と同じ類いの物のスケールアップバージョンなのだとしたら…
ゾクリッ!
背筋が凍る。突如出現した危険な気配。
いや、突如出現したというのは間違いだな。おそらく最初からその場所に居て、気配を殺していたのだろう。
キチキチキチキチッ
「鳴き声?」
嫌な声だ。硬い物を擦り合わせたような、黒板を爪で引っ掻いたような、歯軋りのような嫌な声。
その不快な声? 音? が徐々に大きくなる。音の発生源が耳元まで近づいた時、ようやくその発生原因が視界の端に姿を現した。
「やっぱりか、もう勘弁してよ」
蜘蛛。
頭部と胸部がくっついた頭胸部と腹部に分かれ、4対8本の歩脚と8つの単眼を持った昆虫ではない節足動物。
地球ではこんな感じだろうが、見た目からしてこの世界でも似たようなもんだと思う。ただ、明らかに違うのは
「デカすぎんだろ、これ!」
頭胸部だけで小鬼と同じくらいの大きさがあり、後ろにはその倍くらいの腹部がある。だが、何よりも目を引くのは恐ろしく細長い8本の脚だ。
頭胸部と腹部を合わせても、それより更に長いその脚は、黄色と黒のストライプ柄に色付けされ、不気味な妖しさをより一層際立たせている。
「恐怖の象徴」と言って過言ではないその節足動物が、徐々に、徐々に近づいてくる。俺の自由を奪っている糸を器用につたって。
今更説明の必要もないだろうけど、俺が着地の際に引っかかった糸は蜘蛛の巣。恐怖の象徴が獲物を捕らえる為に設置した罠だ。
「くそっ、どうする? どうするよ俺」
幸い俺が蜘蛛の巣に絡んでいるのは上半身だけ、下半身の自由は効く。
「外れろよ、クソ!」
両足をぶらつかせ、反動をつけて腰を捻る。精一杯の足掻きで脱出を試みる、が、結果は最悪。
足掻けば足掻く程、余計に絡まり上半身の自由を奪っていく。
「駄目か、完全に詰んでねぇか、これ」
『告: 固有特性【添乗員】の熟練度が規定値に達し、STクラスからMAクラスへと進化しました。付随して音声通話が使用可能となりました。付随して《世界記憶》の一部の閲覧が可能になりました』
頭の中で唐突に鳴り響く無機質で事務的な女性の声。音声通話? コンか!
「今が緊急事態ってのわかんだろ、音声通話とかは後でいいから、こっからの脱出方法を教えてくれよ」
完全詰み状態。俺には、いやフジイくんやハブさんにだってこの盤面をひっくり返す一手は思いつかないと思う。
蜘蛛はもう目前まで迫って来ていて一刻の猶予もない。一縷の望みをコン先生に託すしかないのだ。
『答: 小鬼の身体能力ではこの蜘蛛の巣からの脱出は不可能です』
『告: 脱出は不可能ですが、この場を生き残る方法ならあります』
流石はコン先生! 流石だけど勿体ぶった言い方はやめてくれよ!
「それでいい、それでいいから早く教えてくれ!」
じれってぇなぁ、もう。
クソ、蜘蛛の奴がもう耳元でキチキチ言い始めた。
『答: マスターは変性種族特性【異種族供悦交配】を有しており、異種族との交配が可能です。同時に、性交渉の際、相手個体の感情にマスターへの性愛を植え付ける能力も有しております』
へっ? 交配? 性交渉? 何を言い出してんの? それって
「もしかしてだけどさ、コンさん俺に蜘蛛とエッチしろって言ってんの?」
『答: 正解です。性交を行えば【異種族供悦交配】の能力により、性交相手個体と親密な関係が築けます。親密な関係となれば従魔契約を結ぶ事も可能です』
「無理無理無理無理無理、絶対に無理!」
『能力的に見て問題有りません。性交は可能です』
「性交性交って連呼すんな! 問題有るよ、大有りだっての! 他は? 他に何か方法ないの?」
ったく、何を言い出してんだよ、この人!
『・・・。答: 検証した結果、他に生き残る方法は有りません』
『この場を生き延びるには種族名 絡新婦と性交を行う事が現実的且つ確実な方法です』
馬鹿言ってんじゃねえよ! 現実的、確実、そんなの関係ねえ、俺が嫌なんだよ! 童貞だぞ、俺! 初体験が蜘蛛ってなんの罰ゲームだよ!
『マスターの記憶を参照した結果、初体験とは、童貞、つまりは異性と性交を行った事のない男児が初めて行う性交渉というだけの事と理解しました。その相手が絡新婦であっても構わないのでは?』
「ひとの頭覗いて勝手な事言うな! 構うよ!」
「初めての相手が蜘蛛って、マイサンに忍びねぇし、俺が構うんだよ!」
キチキチキチキチ
ガブッ
「ぎひぃ!」
か、噛まれた! 首元を思いっきり噛まれちまった。蜘蛛って確か
『告: 絡新婦の牙より蜘蛛毒(麻痺系)が注入されました。小鬼の有する【微毒耐性】の性能では身体機能が完全停止するまで残り30秒です』
クソ、やっぱ毒持ちかよ、どうする、どうする。
「うひゃああぁ!」
身体が回転する。蜘蛛が俺の身体を回転させて糸を巻き付かせてくる。どうする、どうする。
『告: 回転により毒の回りが早まりました。完全停止まで残り20秒です』
駄目だぁ、時間がない。どうすんの、どうすんだよ、俺!
『残り15秒です』
「あ〜もう、犯りゃ〜いいんだろ! どうすりゃいい?」
『答: 絡新婦の卵管は首の後ろです。足で反動をつけて腰を折り、卵管に陰茎を挿入して下さい。残り10秒です』
「首の後ろ? そんなとこに入るのかよ!」
時間がない。足を振り、反動をつけながらの質問。
『答: マスターの陰茎は、マスターの性交の意思により相手種族に適した形状に変化します。卵管の正確な場所は、当スキルが【魔素子感知EX】を使用して指示します。残り6秒』
「な、なんじゃこりゃ!」
マイサンが極太波動砲形態から極細ストロー形態へとトランスフォーム。
普段は隠れている恥ずかしがり屋さんで奥ゆかしい性格のマイサンの頭が、形状変化も相まってアリクイが舌を出すかの様に、皮から顔を出す。
俺は思い切り足を振り上げ腰を折り曲げる。
『少し右に身体を捻って下さい。その上で回転と挿入のタイミングを合わせます。当スキルの合図で腰を前に突き出して下さい。残り4秒』
上半身は完全に糸で巻かれて視界は奪われている。コンの指示に全てを委ねて身体を捻る。
『捻り過ぎです少し戻して下さい。腰の角度はもう少し鋭角に。残り2秒です』
指示通りに身体を操作し挿入の合図を待つ。
『今です。腰を突き出し、そのまま陰茎を卵管へと押し入れて下さい』
「うおおおぉぉぉぉ!」
ズ・・・…
来週からは週2回(月曜日・木曜日)の投稿を目標に頑張ります。
次回投稿は10日の予定です。