第二話 時を戻そう
あらすじが間違っていたので訂正しました。
「ホンドニコンナヤリカダデ、マジュウガカレルダカ?」
「ああ、大丈夫だ。任せとけよ」
今までは小動物や鳥を捕まえる為の簡単な罠しか仕掛けていなかった。稀に小型の魔獣が掛かることもあったが、力の強い魔獣だと罠自体が壊されてしまい逃げられてしまう。だが今回の罠は違う。
なんて種類の植物かはわからないが非常に細く、それでいて丈夫な蔦を発見したので、それを三本結に纏めて強度を増したものをこの罠には使用している。
作りは極簡単なくくり罠だが、この強度なら鹿系でも中型までの魔獣なら問題なく捕獲出来ると思う。豚や猪系の魔獣が掛かったとしても小型なら耐えられるだろう。
普通(ゲーム三昧)の高校生だった俺が小鬼に転生して早三か月。この魔物生活にも馴染んだとまでは言わないが、漸く慣れてはきていた。
俺の転生は所謂ところの生まれ変わりとは違って、元々いた一体のゴブリンの魂を俺の魂が上書きした形である。
奪い取った? いやいやそんな人聞きの悪いことはしてへんよ。気がついたらこうなっててん。わいは悪ぅないんやで。
転生直後はそりゃあ苦労しましたよ、なんせコイツらの言葉が分からずにレッツコミュニケーションが取れないんだから。
それが何故か3日程でコイツらの言葉が日本語として聞こえてきたんですよ、奥さん。いやあ驚きましたよ本当。
試しに此方からも日本語で話しかけてみたら、なんとまあ、ちゃんと通じるじゃありませんか! これ本当の話なんですのよ、奥さん。あたくし嘘は申しません。
理由も分からず疑問は尽きませんが、考えても分からないのでゲーム等でよくある転生特典ってことで無理矢理納得することにしました。
俺が転生したゴブリンという魔物であるが、この魔物は群れで生活する種族である。まあ雑魚のやられキャラなのでそうなのだろう。
俺の所属している群れの総数は50体程で、ゴブリンの群れとしては小規模なものらしい。
小さな洞穴を生活の拠点としていて、狩りと掠奪で生計を立てている。
ゴブリンという魔物は多少の知能はあるようだが(前世の記憶を持つ俺を除いて)相当に頭が悪い。
狩りの仕方も、いや、仕方と呼べるようなもんじゃないな、あれは。3・4体がグループを組んで行動しているのに、個々が身体能力任せに襲うだけで、連携などといったものは一切無視。
そんな按配なので狩りの成功率はかなり低い。必然的に群れは慢性的な食料不足に陥っている。
「おい、どうだった。獲物は?」
「ホレ、ゴンダケトレタダヤ。タイシタモンダナヤ、コノヴァナッテヤヅ」
「ヴァナじゃねーよ、罠だ罠。どれ、見してみ」
前日に仕掛けた罠の確認に行かせた1体が、デカくてボロい麻製のズダ袋を担いで戻ってきたので、その中を確認する。
乱暴に詰め込まれた中身の内に、いつもの小動物に混じって見慣れない多分魔物だと思われる、額から1本の角が生えた兎の姿があった。
おそらく昨日、見つけた丈夫な蔦で試験的に仕掛けておいた罠で捕らえられたものだろうと思う。
「うん、まあまあだな」
「マアマアドコロデネーダヨ。オグノヴァナサ、マダイッペーカカッテタダ。ハヤグトリニイグべーヨ」
「罠だっての、ったく。こっちの明日の分の仕掛けも大体終わったからな。そっちの罠の収穫と修繕に向かうとすっか」
俺は罠の仕掛けを手伝わせていた1体と連れだって、先走ってズダ袋を担いだまま進む1体の後を追いかけて行った。
◆◆◆◆◆
「オイ、オマエ。オソカッタダナ。ボスガオヨビダデ、ハヤグイゲ」
「頭が?」
最終的にズタ袋3つ分になった獲物を抱えて帰ってきた俺達に向かって、いつも幹部ヅラした偉そうなゴブリンが横柄に話しかけてきた。
「呼んでるってなんの用だよ」
「シラネーヨ、ボスガマッデルンダガラハヤグイゲ、ノロマメ」
実際には群れに幹部なんて者はいない。ボス1体だけが群れの全てを独占していると言っていい。
この横柄野郎は群れの中では力が強いので、勝手に偉そうにしているだけである。
「ココンドコカリノチョウシガイイガラッテ、チョウシノンナヨ、グズガ」
対して俺+2体の狩りグループは、この群れカーストの最下層だ。俺の転生前までのこの狩りグループは獲物を全く狩れないお荷物グループだったらしい。
急に狩りの成績が上がった俺達、いや俺に対して、この横柄野郎はやたらと絡んで来やがる嫌な野郎だ。
舌打ちしながら横柄野郎から目を逸らすと、嫌な物が俺の逸らした視線の先にあった。
「ギヒヒヒ、アレガ? アレハオラダチノキョウノエモノダ」
視線の先にあった嫌な物とは仔羊が2頭、横柄野郎の狩りグループの連中に解体されている光景だ。
この森に野生の羊はいない。間違いなく人族の村の家畜の羊だろう。
「また人族の村を襲ったのか?」
「ギャヒ、ソウゲンノオカニハナシテヤガッタンダべ。バガナレンチュウダベヤ。ギヒヒヒ」
放牧ってんだよ、それ。
人族の報復など微塵も考えていない馬鹿なゴブリン達の脇を、無言で通り過ぎてボスの待つ洞穴へと歩を進める。
「キョウハボスヘノミヤゲモトレタガラナ、ホメデモラッダジホウビモイタダケタベサ。ギヒ、ギヒヒヒ」
下卑た笑いと共にいつまでも絡んでくる横柄野郎を無視して、俺は洞穴へと入っていった。
幹部を自称する横柄野郎達は洞穴内の小さな横穴を寝床としているが、通常俺達の様な下っ端がこの洞穴に足を踏み入れる事はない。寝る時も周辺で雨露凌げる場所を探してのごろ寝だ。
それでも最近では、ゴブリンカースト急上昇中の俺達はボスに呼ばれて洞穴に入る機会が多くなっていた。
勝手知った洞穴の奥へと進み、ボスの成鬼が住居として使用している最奥の開けた広間へと向かう。
「ア、アァン」「アフン、ハァ〜ン」
ボスの広間に近づくと、いつものけしからん声が聞こえてくる。
そして、これもいつもの事だが、俺達ゴブリンよりも僅かに長身な1体の雌小鬼が広間の外に控えていて、此方を睨み降ろしていた。