問題点しかない
「こんなもんか? 母ちゃん、こいつら俺の友達だし、日用品の金は出すよ」
「大丈夫よ。あとで二人が稼げるようになったら返してもらうから。ね?」
「う、うん」
「ソウデスネ……」
「?」
「あ、この下着可愛い、フィオちゃんどう?」
「えっと、熊さん……?」
とりあえず寝床と電気ガス水道のインフラを確保することができたものの、下着や歯ブラシ、こっちの世界の服などは実費で買わなければならないため、今回は母ちゃんの出費で必要な生活雑貨を買いに来ていた。
いつもはもっと悪態をつくエリクや、毅然としているフィオが目を泳がせてついてくるだけなのが気になったけど、目的を終えた俺達は再びシェアハウスへ。
「そ、それじゃシュウ兄ちゃん、真理愛さん、また」
「うん!」
「ここからウチは分からないだろうから、いつでもそいつで呼んでくれれば学校が休みの時にでも案内するぜ。使い方は覚えたか?」
「ええ、真理愛さんが教えてくれたから『めえる』と『でんわ』と『るいむ』は覚えたわ」
ルイム、というのは無料メッセージサービスのことで、スタンプや簡単な会話をすることができるよくあるSNSアプリだ。
一番安いプランだけど、連絡手段は持っていた方がいいだろうということで、これは若杉さんが契約してくれた。ちなみに若杉さんはすでに署に戻っているのでこの場には居ない。
そんなやり取りの後、エリク達と別れて今は母ちゃんの車で帰路に着いていた。
「あー、もっとフィオちゃんと一緒に遊びたかったなあ。帰ったらスリートと遊ぼうっと!」
「休みの日に会いに行けばいいだろ? 今なら誘拐事件も終わったし、歩いても来れる……あ、自転車とかも面白そうだな。フィオがこけそう、あいつ意外とドジだし」
「もー、ダメだよ修ちゃん。女の子は大事にしないと?」
後部座席からひょっこり顔を出して口を尖らせる真理愛に、シートベルトをしろと窘めると赤信号で止まったところで母ちゃんが口を開く。
「連絡手段は作ったし、散歩がてら町を案内するのもいいと思うわ。恐らく長いことこの世界にとどまることになるだろうしね。やっぱり異世界で心細いと思うし、刑事さんも手伝ってもらいたいわね」
「だなあ。でも、シェアハウスとはいえ、すぐに見つかってよかったよ」
「うんうん。あれなら寂しくないもんね。二人とも隣同士なのは良かったよー」
本当に嬉しそうに言う真理愛を微笑ましく思っていると、不意に母ちゃんが俺達に喋りかけてきた。
「そうそう、市原さんと話していたけど、公園で幽霊が出るらしいわ。放課後に人が居ないときに近づかない方がいいわよ」
「さすが、母ちゃんは知っているのか……。でも、ホテルの殺人事件の方が怖くないか?」
「あっちは怨恨だから、サラリーマンを追えば私達になにか起こることは無いから平気よ。人間にしてもそうでない者にしても『得体の知れない』のが一番怖いわ」
真剣な顔でまっすぐ前を見て運転する母ちゃんは少しピリッとしていたような気がする。
確かに、と思いながら俺は夕日に染まる街並みをに目を向けた――
◆ ◇ ◆
「先生頼む! ギルド部を作るから顧問になってくれ!」
「ダメだと言っているだろう? 八塚は危ない目に合ったばかりだというのに、父上を困らせたいのか」
「それは大丈夫です! 説得します!」
「止めろ、スマホを取り出すんじゃない!? ……はあ、どうして私なんだ? 他にも頼めばいいじゃないか」
「いやあ、豪快できちんとヤバイところとそうでないところを判断してくれそうなのと、意外と付き合い良さそうだからさ」
霧夜と怜は廊下で教師の本庄を摑まえて説得にあたっていた。
生徒の頼みなので無下にできないが、屋外行動という部分で本庄は難色を示す。正直、怜がここまで食い下がるとは思っていなかったのでそれが一番の驚きだった。
「(神緒達と話すようになってから変わったな。もう少し近寄りがたい雰囲気だったと思うが)」
尚も付きまとう彼らをどうしようかと考えていたその時、怜が手を打ってニヤリと笑う。
「そうですね……今日のところは先生のおっしゃるように父と母に相談をしてからにしましょう。こちらには刑事さんも協力してくれる準備がありますので、おって通達させていただきますね。坂上君、行きましょう」
「あ、ああ」
「は!? 刑事だと? おい、どういうことだ!? 私に何をさせる気だ八塚!」
軽やかな足取りで去っていく怜に、本庄の叫びが廊下に木霊するのだった。




