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お祭りデート⑤


 ボクは前を歩いているマサトの背中を見ながら思う。ホントに面白くて、一緒にいて楽しくて……そして、愛おしい人だと。


 こう言われると笑われるかもしれないけど。ボクは君のこと、最初は結構警戒してたんだよ?


 戦争前とかは普通に友達もいたんだけど、戦争が始まって、ハーフが見下されるようになってからというもの。ボクに近づいてくる人なんて、優越感とか鬱憤を晴らしたくて一方的にバカにしてくるような人か、利用しようとしてくるような輩ばっかりだった。


 誰も彼も口を開けば、ハーフだハーフだってバカの一つ覚えみたいに言ってきてさ。


 ボクからしたらどうしようもないことなのに、それを鬼の首でも取ったようにさ……正直、辟易してた。


 だからボクは、そんな奴らを適当に相手することにした。必要がある時に適度に話して、それ以外はこっちも無視。


 笑顔で軽く接するだけ接しておいて、踏み込まない。適度な距離感を持っていれば、それ以上傷つくこともないと思ったから。


 そうして生きていたら、お母さんがいなくなっちゃって、学校にも行けなくなって……あのイーリョウに出会って、もう一回学校に行くことになって……そして、マサトに会った。


 元々イーリョウとの契約であの事件のこと調べててさ、マサト達のことももちろん知ってたよ。当時既に有名だったしね。で、他のみんなの中で、初対面でも一番話しやすそうなマサトに声をかけた。


 さっきも言ったけど、最初は結構警戒してたんだよ?


 話しかけたらどんな風に返されるのだろう。今じゃ失礼だけど、当時はあの悪鬼羅刹や裏切り者さん達にどんな告げ口をされるんだろう、とか。


 ひょっとしたら難癖をつけられて仕返しにくるかもしれない。な~んて、内心じゃ戦々恐々としてたものさ。


 でも、話してみたら君は違った。いつも通り適当にあしらわれるのかと思ってたボクに、君はノリを合わせてくれた……小さいこと。ホントに小さいことなんだよ?


 それでもボクは、嬉しかった。


 調子に乗ったボクがカマをかけて見たら、君はあっさりとそれに乗ってくれた。自分の性癖を語りだした時なんかは、大笑いだったよ。作り笑いじゃなく心底笑ったのなんて、ホントに久しぶりだった。


 しかしその時、ボクはこうも思った。しまった、やり過ぎたかもしれない、ってね。マサト自身がバカなだけでも、周りにいる人はそうじゃない。


 あの悪鬼羅刹と裏切り者さんと元奴隷のエルフちゃんだ。馬鹿にされたと少しでも報告されたら、それこそ報復される。この辺で身を引いておこう、と。


 だからこそ、さっさと別れてほとぼりが冷めるまでは大人しくしておこうって考えてた。


 それなのに、一緒にやろうって君から誘われた時は酷くびっくりしたよ。まさかもう仕返しに来たのか、なんてね。


 でも。マサトは違った。そんなこと微塵も考えてなさそうな、素直な言葉。ボクと一緒にやりたい、って言ってくれた。


 それが……ボク自身をちゃんと見て、そう言ってくれてる気がして……本当に、嬉しかった。


 だからその時は、勘違いでも何でもいい。今はこの人と仲良くしていたいって、そう思ったんだ。


 それにもちろん、下心もあった。このままマサトと仲良くできれば、あの事件の話も聞ける。上手くやれば、悪鬼羅刹さん達とのコネもできるかもしれない、ってね。


 そうして学校で他のみんなに出会ったけど、やっぱり警戒されてた。マギーちゃんに北士官学校の話を持ち出された時なんで、もう終わりだと思ったよ。


 イーリョウは全然助け舟を出してくれる様子はなかったし、ウソをついているのも事実だったから、誤魔化そうにも誤魔化せないような雰囲気だった。


 でもマサトは、ボクを庇ってくれた。みんながボクを怪しく思う中、君はただ仲良くして欲しいんだって、言ってた。


 正直、この時は疑問しか浮かんでなかった。どうしてこの人は、ここまでボクにしてくれるんだろうって。


 考えても考えても、そうするメリットなんてない。それこそお金を寄越せとか、身体で払えとか言われる方が、よっぽど納得しやすかった。


 だからその日の夕方に君に会った時、ボクは聞いた。どうしてここまで信じてくれるのか、って。


 そしたらマサトはさ、こう言ったよね。「ウルさんは私の友達だからです。友達のことを信じるのは、当たり前じゃないですか」ってね。


 それを聞いたボクにとっては、まるで雷にでも撃たれたみたいな衝撃だった。にわかには信じられないけど、こんな人が本当にいるなんて思いもしなかったけど、ボクはこれを信じざるを得なかった。


 マサトっていう人は、裏も表も何もなく。ただ純粋な本心から、ボクと仲良くしたいと思っている人間なんだ、ってさ。


 そう解った瞬間は、もう笑うしかなかった。下手にお金だのなんだのと有りもしない裏を勘ぐってたボクの方が、本当のバカだったから。


 あとは、こんな人がいたんだっていう歓喜があったから。君はもう忘れてるかもしれないけど、あの時にポロッと、ボクは君が好きだ、って言っちゃったの、本心だったんだよ?


 だから、ボクが挑んだ賭け勝負。君が欲しいって言ったのは、本気だったよ。


 こんなにしてくれる人が他に居る訳がない。この人を逃したら、もうこんな人には会えないかもしれない、なんて考えてたんだ。恥ずかしいから、誰にも言わないけどね。


 ただ、ホント君ってスケベだよね。流石に胸元や太ももをチラつかされたくらいで何でもオッケーしちゃうのは、どうかと思うよ? たまにチラチラ見てるのも、よく知ってるんだからね。


 それから君との戦いとか色々あって、イーリョウをやっつけて、オトちゃんからマサト自身の話も聞いて……ボクは思った。オトちゃんが羨ましいって。


 二人で一緒に逃げてきて、互いに信頼し合っていて。それは普段の生活を見てても、よく解ってた。あの二人は、何か特別な絆があるんじゃないか、って。


 まだお互いに思いが完璧に通じ合ってるとか、それこそ付き合ってるとかそういうことは無さそうだったけど、それでもボクよりもマサトと深く繋がってるみたいで……羨ましかった。


 だから、ボクはオトちゃんに言った。負けないって、渡さないって、マサトはボクが射止めてみせるって、宣戦布告した。


 マサトっていう男の子が特別なのはオトちゃんだけじゃないんだぞって、知って欲しかったから。


 それを聞いたオトちゃんはキョトンってしてたけど、すぐにボクにこう返してきた。


『……うん、わかった。わたしも、負けないよ』


 ボクの宣戦布告を、真正面から受け止めてくれた。それもそれで、ボクにしたら嬉しかった。ちゃんとボクを見て、関わってくれる人が増えたんだから。


 これも全部、マサトのお陰なんだよ?


 だからボクは、マサトを諦めない。オトちゃんや他のみんなも友達としては好きだけど、それ以上に、だからさ。


 と言うか、ボクもオトちゃんも結構攻めてる筈なのに、未だにどっちにもそんな素振りを見せてくれないなんて……。


「……このニブチン」


「ッ!?」


 びっくりしてるけど、これくらいの小言はいいじゃん。気づいてくれない、君も悪いんだからさ。


 あわあわしてる彼に向かって、ボクは絶対に聞こえない声で言う。


「…………愛してるよ……」


「?」


 小さい小さい、ボクの愛の言葉。首を傾げながら、また何か言いましたか、って聞いてくる、バカでスケベでお人好しで、優しい君。


「……な~んにも」


 今はまだ、冗談以外じゃ面と向かって言えないからさ。これくらいで許してね。


 いつか、ちゃんと言うから……だからそれまでに、ボク以外の人になびいちゃ駄目だよ?


 オトちゃんにだって、なんか勘違いして恋に恋してるマギーちゃんにだって、ボクは負けるつもりはない。


 マサト、覚悟してね。ボクを本気にさせたこと、後悔しても遅いんだから。

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