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お祭りデート③


「……一等、取れなかったねダーリン」


「……そうですねハニー。と言うか、あのお店でかなり散財してしまいました……」


 あの後も意地で投げあった私たちでしたが、一等は取れませんでした。


 一番奥、まるで関所で番人が守っているかのように、ボールを入れてくれません。


 途中から勝負を止めて、二人して本気で一等を狙う作戦を立てたりもしたのですが、結局はルドを溶かすだけの結果となりました。


「……色々もらっちゃったね、ダーリン」


「……これ。どうしましょうか、ハニー」


 そうして私たちが得たものは、大量のキーホルダーやお菓子、子どものおもちゃっぽいものやお祭りの出店で使える引換券です。


 出店の引換券は既に飲み物と食べ物に変えられますし、お菓子は後でも食べられるのでいいんですが、手提げ袋一杯に詰まっているこの余りに余ったキーホルダーとおもちゃの類はどうしてくれましょうか。


「とりあえずお菓子は食べられるし、キーホルダーはみんなにでも渡すとして……おもちゃはこれ、どうしようか? その辺の子ども達にでもプレゼントする?」


「ぶっちゃけ持ってても割りとどうしようもないんで、そうしましょうか。キーホルダーも一緒に」


 そうして私たちは通りで出会う子ども達におもちゃとキーホルダーを配る、元の世界でいうサンタさんみたいなことを始めました。


 最初は遠慮されるのですが、こちらが持っててもホントどうしようもないんでもらってくださいと頭を真摯に下げたらもらってくれる人が多かったです。


 誠意は伝わるものですね。向こうが抱いていた感情は、哀れみかもしれませんが。


 一通り終わった段階で、私たちは近くのベンチに座りました。なんとか配り終えたので、手元には出店の引換券を使った飲食物とお菓子、そして少しだけ残ったキーホルダーしか残っていません。


「はいダーリン。あ~ん」


「はいはいハニー。あ~ん」


 いつの間にか慣れてしまったダーリンハニー呼びと、あ~んのさせ合い。


 人間の慣れとは、かくも恐ろしいものです。あんなに恥ずかしかったのが、今では何にも感じないんですもの。


「……お祭りも、もう終わるね」


「……そうですねぇ」


 買ってきた食べ物も一通り食べ終わり、ウルさんと並んで飲み物をすする中、徐々に片付けが始まっているお店達を見ています。


 ああ、私も自分達のお店の片付けとかに行かなきゃいけない気がしますが、もう少しだけサボらせてください。


 今はこの、終わっていく感じ、無常観と言うものでしょうか、そういう気分に浸りたいのです。許して兄貴にシマオ。


「ダーリン……ボクと回って、楽しかった?」


 不意に、ウルさんがそう聞いてきました。一緒に回ってご飯を食べ歩き、ゲームに熱中して散財し、余りに余ったおもちゃの類を子ども達に分けて回る。


 振り返ってみてもなかなかなお祭りでしたが、そう聞かれたらもちろんこう返します。


「……楽しかったです。ええ、本当に楽しかったですよ。今まで、こんな風に遊んだことなんて、ほとんどありませんでしたから」


 元の世界では勉強と部活動だけの日々だった私。こちらに来てからこうして遊ぶことを覚えて、私は正直、楽しくて仕方ありません。


 こんなこと言うと兄貴達に怒られそうですが、借金返済のためにアルバイトや出店をしたことでさえも、私は内心で楽しんでいました。


 言われるがままに生きてきた私が、自分で選んでやり、失敗して奔走し、合間を縫って親しい誰かと遊ぶ。


 はい、今この状況だけで、私はとても楽しいのです。


「そっか……良かった。ボクも、すっごく、楽しかったんだ!」


 ウルさんも弾んだ声で、そう言います。


「みんなから疎まれて、弾かれて……ひとりぼっちだったボクが、こうして気の合う人と一緒に遊べるなんて……ホント、夢見てるみたいなんだ」


「……私も一緒です。でも、これは夢じゃないですからね、嬉しいことに」


「ホントだよ。いっそこれが夢だって誰かが言ってくれたら、まだ納得できるかもしれないくらいなんだ」


 ハーフであるが故に仲間はずれにされ、飄々と振る舞ってはいましたがその内心では誰かと一緒にいたかったウルさん。


 彼女もこうして一緒に笑い合えるようになって、本当に良かったです。


「これも全部ダーリンの……マサトのお陰だよ。ありがとう、マサト。ボクを助けてくれて」


「えっ!? い、いえ、その……」


 いきなりお礼を言われると思ってなかった私は、ウルさんのその言葉に動揺してしまいます。


 そういうことは事前に申告していただかないと、私の心の用意ができないじゃないですか、全く。


「マサトにとってはなんてことないことだったかもしれないけどさ……ボクにとっては打算も、下心も、ハーフだっていう色眼鏡もなしに向き合ってくれる人なんて……初めてだったんだ」


 確かに、私はそういった考えを持たず……はっきり言ってしまうと何も考えていないまま、普通にウルさんに接していました。


 元々この世界の人ではない私は、ハーフの人に対する偏見なんて持っていませんでしたし、お金とかも打算なんか考えもつきませんでしたし、下心も……彼女の形のよい胸に、少し惑わされたかもしれませんが、ありませんでしたとも。


 ええ、健全な男子としての範疇を逸脱しない程度には。


 しかし、先ほどオトハさんにも初めての人と言われた私。これで二人の女性の初めてになったことになります。


 あれ? こう言ってしまうと、私って最低のクズなのでは? 人聞きの悪い言い方は、今後止めましょう、絶対に。

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